京都市の中心部と嵐山を結ぶ京福電鉄嵐山本線(嵐電)に時折、見慣れないカラーリングの電車が走っている。
グリーンとクリーム色のツートンカラーの車体。2010年から「京紫色」への統一を進める嵐電の車両にあって、“異色”の存在だ。
車体の一部には2体のゆるキャラが描かれ、ヘッドマークには「江ノ電 嵐電」の文字が見える。
江ノ電とはもちろん、鎌倉と湘南・江の島を走る江ノ島電鉄(神奈川県藤沢市)のこと。
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ともに1世紀を超える歴史があり、住民と観光客を乗せて東西の古都を走り続ける江ノ電と嵐電。
共通項の多い両社が2009年に鉄道会社では「全国初」という姉妹提携を結び、この秋で15周年を迎えた。異色のタッグは何をもたらしたのだろうか。
「色、完璧に江ノ電じゃん」
11月下旬、嵐電四条大宮駅(下京区)のホームに「江ノ電号」が入線すると、乗り込もうとする若いカップルから驚きの声が漏れた。
嵐電の車両を江ノ電カラーに塗装し、江ノ電のキャラクター「えのん」と嵐電のキャラクター「あらん」をラッピング。車内のシートは「えのん」と「あらん」を描いたアニメ風の図柄になっている。つり革カバーや壁に貼ったステッカーにも両キャラが使われ、特別感が漂う。
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2009年、両社は「鉄道の日」の10月14日に姉妹提携に調印した。それ以前に観光ポスターを共同制作した縁があり、翌年の嵐電開業100年、江ノ電全線開通100年を記念して京福側から提携を申し入れた。
取り組みの目玉が、相互に相手方の車両色に塗り替えた記念電車を走らせることだった。
嵐電は1両を江ノ電のツートンカラーに塗装し、江ノ電は2両を嵐電カラーに衣替えして、双方で「江ノ電・嵐電 姉妹提携号」の運行を始めた。
忠実に江ノ電カラーを再現した車両が京都の街を走るようになると、姿を目にした観光客から「なんで江ノ電が京都を走っているの」と問い合わせが寄せられたこともあったという。
その後も周年事業としてスタンプラリーやフォトコンテスト、記念乗車券やグッズ販売などに取り組んだ。
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京福電鉄沿線創造事業部の射庭和之係長は「ネームバリューのある江ノ電で、嵐電のことをPRしてもらえる効果は大きい」と話す。
江ノ島電鉄経営管理部地域共創担当の矢田悠貴さんは「京都と鎌倉は訪れるお客さまが似ている。それぞれの街を代表する鉄道として、つながりを意識してもらえる」とメリットを口にする。
京福は2017年に江ノ電の仲介で、台湾・高雄市の民間鉄道会社「高雄メトロ」と観光連携協定を結んだ。姉妹提携10周年を迎えた19年には、「えのん」と「あらん」をかたどった石のモニュメントを作り、嵐山駅構内に置いた。
ところが年が明け、新型コロナウイルスが流行。両社とも鉄道利用者が激減して苦境に立たされ、共同事業や交流どころではない状況が続いた。
ただ、その中でも嵐電は「江ノ電号」を走らせ、絆を途切れさせなかった。江ノ電経営管理部の峯尾祐司課長補佐は「提携した時からずっと継続して走らせていただき、すごくありがたい」と感謝する。
コロナ禍が終わり、提携15周年を迎えた今年。両社は新たな姉妹提携の取り組みをスタートさせた。
一つは、オーバーツーリズム(過剰観光)への対応。提携を結んだ2009年当時から国内の観光を取り巻く情勢は大きく変わり、この15年の間にインバウンド(訪日客)が急増した。
嵐電では嵐山駅、江ノ電では鎌倉大仏に近い長谷駅やアニメ「スラムダンク」の聖地として注目を浴びる鎌倉高校前駅など、特定の駅に過度に人が集中する共通の課題を抱える。
両社は今春から地元観光協会と連携し、比較的混雑の少ない隠れた沿線の名所を1枚のポスターやチラシで紹介する「あたらしいコトみつけよう」と題した共同PR事業を始めた。
第1弾は「舎利殿」のつながりで、京福電鉄は昨秋260年ぶりに舎利殿を全面修復した鹿王院(右京区)、江ノ電は国宝の舎利殿がある円覚寺(鎌倉市)をクローズアップ。7月の第2弾は水辺をテーマに大覚寺の大沢池(右京区)と腰越海岸(鎌倉市)を取り上げた。
11月の第3弾では、鉄道やトンネルをキーワードに、京福が北野線(北野白梅町−帷子ノ辻)の宇多野駅近くを通る周山街道の岩盤をくりぬいた短いトンネル、江ノ電はレトロな赤レンガが印象的な「極楽寺トンネル」(鎌倉市)にスポットを当てた。
京福電鉄の鈴木浩幸管理部長は「あまり知られていなくても魅力的な場所はたくさんあり、それらを回遊していただくことで沿線地域のお役に立つことができる。持続可能な観光に向け、今後も地道なPRを続けていきたい」と語る。
この秋、嵐電では江ノ電色に塗装した車両を1両追加し、できる限り「初代」との2両連結で運行するようにしている。江ノ電も嵐電カラーの京紫色のラッピング電車を新装して運行を再開。両社で15周年の記念乗車券セットも販売している。
京福、江ノ電とも社員や駅員、運転士は来年1月ごろまで、15周年を記念したバッジを着けて業務に当たる。企業としては、社をまたいだ人的なつながりが生まれ、互いに刺激を受けたり新たな発想を得たりする機会ができたのも収穫という。
京福電鉄の鈴木部長は「違う価値観や企業風土の中で、議論して一つのものを作り上げていくことに価値がある。今後も大切に育んでいきたい関係」と意義を語る。
江ノ電の峯尾課長補佐は「姉妹提携は消えてなくなるものではない。時代ごとに担当者が提携の仕方を考え、継続していければ」と将来を見据えた。
(まいどなニュース/京都新聞・国貞 仁志)
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