2024シーズンF1総括10大ニュース(後編)
◆F1総括10大ニュース・前編>>「名門マクラーレンが26年ぶりに頂点に立った」
◆F1総括10大ニュース・中編>>「レッドブルは保守的なチームに成り下がった」
史上最多24戦のカレンダーで幕を開けた2024シーズンのF1は、バーレーンを皮切りに世界各国を9カ月間かけて転戦し、最後はアブダビで閉幕した。
1950年に始まり、75回目を迎えた2024年のF1世界選手権は、各地でどんなドラマを生んだのか。2009年からF1を現地で全戦取材するジャーナリスト・米家峰起氏に2024シーズンのトピックスを10点、ピックアップしてもらった。
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(7)トヨタの参入で「日本人ドライバー」続々ドライブ
2009年限りでF1から撤退していたトヨタが「トヨタガズーレーシング」という形で、そして「ハースとの技術提携」という形でF1に戻って来た。
もちろん、トヨタがF1に参戦するわけでもなければ、パワーユニットやマシンを開発するわけでもない。しかし、トヨタがF1チームと関係を持つことで、より多くの日本人がF1界との関係を持つことができるようになったことは、疑いようのない事実だ。
かつてF1参戦の前線基地であったTMG(現TGR-E/トヨタガズーレーシング・ヨーロッパ)からハースへの技術供与と引き換えに、TGR側は旧型車テストを使ってドライバーやエンジニア、メカニックがF1に触れて、そのノウハウを学ぶことができる。
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日本国内にもスーパーフォーミュラやスーパーGTといったハイレベルなカテゴリーはあるものの、日本からF1を目指す時に最大の障壁となっていた「ヨーロッパにおけるF1経験」というものが、そこで得られるのだ。これが国内のドライバーや関係者に大きな刺激とチャンスを与えてくれることは間違いない。
すでにマクラーレンのリザーブドライバーとしてテストを重ねてきた平川亮が、アブダビGPのFP1に出走してマクラーレンの最新型マシンをドライブし、レース後のルーキーテストではハースのマシンをドライブした。来季も引き続きF1直下のFIA F2に参戦することが決まっている宮田莉朋も、いずれハースの旧型車テスト等でF1を経験することになる。
かつてF1デビューへの王道と言えば、F1直下のカテゴリーであるF2で結果を残すことだった。しかし今では、F1チームの育成プログラムで実車テストやシミュレーター作業をこなし、F1参戦への準備を積み重ねることが重要となっている。
それはオリバー・ベアマン(2024年=フェラーリ、ハース)やフランコ・コラピント(2024年=ウイリアムズ)のスポット参戦での活躍や、アンドレア・キミ・アントネッリのような若いドライバーのF1昇格決定(2025年=メルセデスAMG)を見れば明らかだ。
トヨタの育成プログラムからF2や、その2段階下のFRECA(フォーミュラリージョナル・ヨーロッパ)への挑戦も始まろうとしている。そこからF1を目指すために必要な要件が揃ったことになる。
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今後はハースのみならず、さまざまな形でF1との関係を広げていきそうだ。
その一方で、ホンダのドライバーとして岩佐歩夢は、2024年にFP1出走2回とアブダビテストの参加を経験した。また、旧型車テストやシミュレーター作業でチームに貢献し、来季も引き続きレーシングブルズ(RB)のリザーブドライバーを務める見込みだ。
そしてホンダも、2024年フランスF4を制した加藤大翔をFRECAに送り込む。2023年のFRECAを制したアントネッリが2年後にはF1昇格を決めているように、次世代の日本人ドライバーたちのF1への距離は着実に縮まってきている。
(8)近年にない「新人ドライバー」の当たり年
2024年はシーズン中にオリバー・ベアマンとフランコ・コラピントが代役出場し、FIA F2では目立った走りをしていなかったにもかかわらずF1でいきなり好走を見せて、モータースポーツ関係者を驚かせた。
メルセデスAMG育成のアンドレア・キミ・アントネッリも、2023年にFRECAを制してF3を飛び級してF2に参戦したが、F2の結果ではなくF1の旧型車テストで経験を積んでF1デビューを決めた。
つまりF2での実戦よりも、F1チームが提供する育成プログラムの準備作業のほうが重要な意味を持つことを証明してしまったのだ。
その一方で、これまでノーマークでどのF1チーム育成プログラムにも所属していなかったガブリエル・ボルトレートが、2023年のFIA F3を制してマクラーレン育成入りし、2024年はF2のチャンピオンに輝いてF1昇格を決めた。F3とF2をそれぞれ初年度で制したのは、シャルル・ルクレール、ジョージ・ラッセル、オスカー・ピアストリといったトップクラスのドライバーだけが成し得た技だ。
そのボルトレートとタイトルを争ったイザック・アジャはレッドブル育成。F2ランキング2位に終わったものの、セルジオ・ペレスの離脱により空いたRBのシートに抜擢され、2025年のF1デビューが決まった。彼もすでに昨年からFP1出走やテスト走行を重ねており、F1における実力は証明済みだった。
これに加えて、2023年のF2ランキング3位のジャック・ドゥーハンも所属していたアルピーヌからのデビューが決まり、2025年は5人ものルーキーが生まれることになった。彼らがどんな走りを見せるのかも楽しみだ。
(9)秋から春開催に移行「日本GP」が大成功
1987年から35年にわたって秋の風物詩だった日本GPが2024年は4月に行なわれ、初めての春開催となった。
当初はさまざまな懸念もあったものの、フタを開けてみれば満員御礼。秋開催の問題点であった台風に影響されることもなく、桜の咲くなかで天候にも恵まれ、現地を訪れた人々にとっては心地のいいレース週末になったはずだ。
新年度・新学期のタイミングと重なったことで、観戦に行けなかった人もいたかもしれない。しかしその一方で、この季節だからこそ見られた景色もあり、大勢の人が鈴鹿を訪れた。
春の鈴鹿で刺激を受け、そこからまだ8カ月もシーズンが残っていることもあり、海外観戦に目を向けたファン層も一定数いたようだ。その人たちが海外のグランプリを知り、鈴鹿のよさもあらためて知り、また来年の春に鈴鹿へと戻ってきてくれるはずだ。
(10)史上最多「24戦」のグランプリはさらに拡大?
2024年のF1は史上最多の24戦が行なわれた。初開催のグランプリはなかったものの、中国GPがコロナ禍前の2019年以来の再開となり、2023年は洪水の影響で中止を余儀なくされたエミリア・ロマーニャGPは2年ぶりの開催。これによって史上最多24戦、3月2日から12月8日までという非常に長いシーズンとなった。
3週連続での開催が3レースもあり、特に最終盤のラスベガス→カタール→アブダビは移動距離も時差も気候差もあり、肉体的にも精神的にもタフなシーズンだった。ドライバーやチーム関係者のなかには体調を崩し、スタッフのローテーション制を採るチームも増えてきた。
アメリカでのF1熱は、やや落ち着きを見せ始めているとは言われる。しかし依然として、グランプリ期間中の各開催地のホテルは高騰しており、なおかつ空室がほとんどない状況だ。
また、チケットも超高価なVIP席が用意されるなど、価格はさらに上昇している。それにもかかわらず、チケット入手が困難なレースは少なくない。世界的なオーバーツーリズムと相まって、大混雑に陥っているレースも多々ある。
2026年に向けてはGM/キャデラックとフォードの参戦も待ち構えており、F1人気再燃の可能性もある。さらにはスペイン・マドリードでの新規開催が決まっているほか、アフリカのルワンダや、アジアではタイやインドネシア、韓国などがF1誘致に名乗りを挙げている。コラピントの登場によってアルゼンチンでの人気が急激に高まり、F1開催に向けた機運も高まった。
世界的なF1人気の高まりを受けて、政府規模で世界に向けてアピールしたい開催国が多数ある。将来的には24戦を超える開催数も充分に有り得るだろう。
F1狂想曲は、やや曲調が変わりながらも、まだまだ続きそうな予感の漂う2024年だった。2025年はどんな年になるのか、まだ想像もつかないが、驚異的なスピードとエネルギーで常に進化を続けるからこそ、F1は面白い。
<了>