ホープフルSや東京大賞典と競馬カレンダーが進むと年越しムード、そろそろ「初詣はどこに行こうか」と考え始める頃だ。そんな時期に2025年の幸運を願うにはもってこいの場所がある。東京都大田区にある穴守稲荷神社は江戸時代・文化文政の頃に創建された由緒ある神社で、「平成3強」と称された名馬と深いつながりを持つ。
その名馬の名はイナリワン。ミルジョージ産駒で86年に大井でデビューすると、破竹の8連勝を飾った。88年の東京大賞典を制して中央に転厩すると、翌年の天皇賞(春)、宝塚記念、有馬記念と一気にGI・3勝。90年の宝塚記念を最後に引退したが、オグリキャップやスーパークリークとともに平成初期の競馬界を彩った一頭である。
果たしてどんな縁があったのかを探るべく同神社を訪ねた。羽田空港へのアクセス路線である京急空港線の穴守稲荷駅から商店街を抜けて歩くこと5分。ひらけた境内に一際大きく目立つ赤い鳥居、そこが穴守稲荷神社である。社務所へと伺うと、宮司の井上直洋さんが競馬界との関わりについて教えてくれた。
「イナリワンのオーナーだった保手浜弘規さんが、当時の禰宜(神職の職名の一つで宮司を補佐)と中学時代に乗馬部で一緒に活動しており、その縁で崇敬を集めておりました。そこで名付けにあたり禰宜と相談して、穴守稲荷の“稲荷”とナンバーワンになってほしいという願いを込めた“ワン”を組み合わせて命名したと聞いております」
同馬との深い縁を象徴するように、神社の中にはGI制覇時の優勝レイやゼッケン、引退後の姿を捉えた貴重な写真などが飾られたコーナーも設置。最近ではクロスメディアコンテンツ「ウマ娘プリティーダービー」のキャラクターにもなっており、ウマ娘のファンの方が寄贈した関連グッズも置いてあった。しかし競馬とのつながりはイナリワン以前からあるようで…。
「水害に悩まされてきた羽田において、“堤防に空いた穴から入ってくる災いから土地を守る”ということから“穴守”なのですが、神社仏閣っていうのはゲン担ぎでお参りされる方も多く、古くから競馬ファンの方がいらっしゃっていたようです」。井上さんが手にした1975年の新聞のコピーには、ファンが“穴”だけに大“穴”的中を祈願しに参拝していると記されていた。
かつての穴守稲荷は現在の羽田空港B滑走路付近にあり、1930年代には当時地方競馬日本一となる売上を記録した羽田競馬場も門前町に存在。東国一の観光地と言われるまで発展した過去を持つ。戦後に空港から少し離れた今の場所へと移転。境内には本殿などに加えて様々な摂社(祭神と関係のある神などを祀った小規模な社)があり、その中には必勝稲荷もある。
保手浜オーナーと禰宜の方が「必勝に特化したお稲荷さんを祀ろう」と勧請したもの。井上さんが宮司就任後の22年以降は、毎年イナリワンの誕生日にあたる5月7日に例祭として、競馬界の発展と競走馬の健康・活躍を願う必勝稲荷祭も行われている。「おかげさまで大雨でも600人もの方がお越しくださったこともありました」と感謝の思いを口にする。
これだけのつながりがあるところとなると、ぜひ願掛けへといきたいところ。最後に井上さんはこう付け加えた。「願いが叶った際にはぜひお礼参りをしましょう。お礼も大切にすると、益々のご神徳がいただけると思いますよ」。お参りの際はこれまでへの感謝の気持ちも忘れないようにしたい。