本誌年末年始の恒例企画に、執筆陣がこの1年間で何を買ったかを白状……いや報告する企画がある。今年もその依頼が来て、カメラやレンズのほか、11月に買ったばかりのMacBook Pro(M4/14インチ、以下「M4」)を挙げたところ「それ別枠で紹介させてください」という、まるで冬のボーナスのような話が。
2018年モデルのMacBook Proから買い替えたら、いろいろな驚きが
これまで使っていたMacBook Pro(Mid 2018/13インチ、以下「Mid 2018」)が、この半年ほど絶不調。タッチバーのあたりが卵が焼けそうなほど熱くなり、バッテリーが100%でも1時間ほどしか保たなくなった。その原因が、Chromeの異様なCPU消費ということを突き止め、ブラウザはSafariのみにしたものの、卵が焼けそうな現象が時折発生。ファンは掃除機のようにうなり、そのせいなのかそうじゃないのか、モニターのバックライトの一部が切れたり戻ったりという状態になった。この間、サポートもチャット、電話、そしてジーニアスバーと随分お世話になった。オンラインでも担当者が遠隔操作してくれるので問題解決が早い。そして全部無料。このAppleのサポートの手厚さはなかなか他にないと思う。
ただし、無料なのは相談だけ。卵が焼けそうな現象は解決できず、バックライトはそもそも公式には修理が終了しているが、もし部品があっても10万円近くかかるという。発売から6年(僕目線でいえば2019年に購入しているので5年)で修理対象外とは、SDGsの時代に早すぎやしないか。でもこのまま調子の悪いMacBook Proを使い続けたら、僕の仕事が持続可能でなくなってしまう。もう新しいのを買うしかないか……と思ってAppleのホームページを開く。適当にスペックを選んで注文しようとしたら、通常すぐ発送してくれるはずなのに、予約受付中で発送が来月。何これ、どうなってるの?と思ったら、なんと新しいMacBook Proがその日に発表されたばかりだったのだ。グズグズしていた自分を褒めたい気持ちである。
本当はモニター16インチのM4 Maxで、メモリもストレージも大盛りだと読者の皆さんの興味を引くのかもしれないが、購入したのは前述の通り、小さいほうの14インチ。チップも松竹梅の梅というべきか、無印のM4だ。メモリも標準の16GBだが、ストレージは前のMacBook Proが512GBで苦労した(長く使うと謎に容量を消費されていく)ので、1TBに増量。キーボードは1998年に人生で初めて買ったコンピュータ・PowerBook G3以来、ずっとUS配列なので、今回ももちろんそれで注文した。色はスペースブラックに傾いたのだが、何かに紛れたとき見つけにくいのでシルバーに。
僕はカメラマンが本業ではあるが、こうして文章を書く仕事も多く、ノートパソコンは主にそれ用として使ってきた。画像処理に使うデスクトップは今にいたるまで一貫してWindowsで、ノートもVAIOを使っていた時期が長く、505やC1などいろいろなモデルを使っていた。ただ、VAIOがソニーから切り離されて様変わりしてしまい、MacBook Air(たぶんMid 2011と称されている2代目)をモデル晩年に購入。それをたしか6年ほど使い倒して、Mid 2018になり、それも退役してこのたびのM4という次第である。
デスクトップをMacにできない理由は、Macで開けないハードディスクがたくさんあることや、稀にWindowsでしかできないことがあるから。その逆みたいなこともあるのでノートはMacにしているのだが、Macの利点といえば買い替えたときのセットアップ。簡単な操作をしたうえ、2台を近付けるだけで新しいマシンが古いマシンのクローンになる。散らかったデスクトップはもちろん、ゴミ箱の中身までそっくりコピー。だから新しいマシンを買った喜びは薄いのだが、映っているもの自体が変わらないため、見え具合の違いが目立つ。Mid 2018は対角13.3インチ、2560×1600ピクセルの227ppi。対応色数は「数百万以上」とアバウトだった。対するM4は対角14.2インチ、3024×1924ピクセルの254ppi。広色域を誇り、10億色対応だ。緻密さや鮮やかさと同時に、写真や動画を鑑賞すると深みが感じられる。白や黒のトーンが豊かなのだろう。
両者を並べて外部とのインターフェースを比べると、Mid 2018はThunderbolt 3(USB-C)ポートが左右に2つずつという構成で、拡張アダプターが欠かせなかった。対してM4はThunderbolt 4(USB-C)ポート3つに加え、懐かしいMagSafeのポートが。2021年にMagSafeが3世代目として復活したのは知っていたが、ケーブルに足をひっかける心配が再びなくなったのはありがたい(Mid 2018では何度か…)。しかもThunderbolt 4ポートからUSB-Cケーブルでも充電や給電ができるので、出先で電源ケーブルが急遽必要になっても何とかなりそうだ。あと、2016年に省かれたHDMIポートとSDカードスロットもある。これが今回お買い得なMacBook AirではなくM4を購入する決め手になった。アダプターが必須の場合、忘れると大変なことになるし、接点不良などで認識しないのも怖い(これもMid 2018で何度か…)。とまぁいろいろ使い勝手はよくなっているというか、昔のMacBook Proに戻ったという感じですかね。
一方で、Mid 2018にあったTouch Barがなくなって、ファンクションキーが復活していた。あれ、とても便利という触れ込みだったけど、そう感じたことがまったくなかったので妥当な判断だと思う。またMid 2018はキーボードの感触が芳しくなく、タイプ音もうるさいといわれていた。個人的にはこんなものかと思っていたが、M4は適度な反発力や剛性感があり、Mid 2018とは別モノのように感触がよい。また現物を見ないまま購入したので届いて分かったのだが、左下のfnキーに地球のアイコンがあり、ここを押すと入力言語を切り替えられる。今まではショートカットを自分でアサイン(僕はcommand+space)しなければならず、つまりはかなと英字を切り替えるには、2つのキーを押さなければならない。それが左の小指でポン、で変えられるようになったのは地味にうれしい。
バッテリーが全然減らないうえ、処理速度の違いに驚く
というわけでいろいろ便利なM4だが、びっくりしたのはバッテリーが減らないこと。出先で1時間弱、ネットを見たりメールを打ったりして、バッテリー残量を見たら「100%」。ほんまかいな。そして、Adobe Photoshopの動きが速い。実は、レタッチなどで使っているWindowsのデスクトップはMid 2018よりさらに使用歴が長く、2018年夏に購入していた。CPUはインテルCore i7-9700、メモリは16GB。決してハイスペックではないものの、当時では十分だったと思う。実際購入直後は速っ!と思ったが、最近は「もう限界かも」と感じていた。
そこでランダムに選んだ6100万画素のRAWデータ100枚(計6.21GB)を、6年落ちWindowsとM4、そしてM4の低電力モードでそれぞれAdobe Lightroomを使って現像してみた。Apple Watchを使った手動計測なので1秒未満は切り捨てている。
○そのままの解像度でJPEG・最高画質に現像(3.95GB)
○長辺1800ピクセルでJPEG・画質50に現像(39.1MB)
6年落ちWindowsはおおむねM4の4〜5倍近い時間がかかっている。低電力モードにもほぼダブルスコアで負けている。これはもうM4買いましたと喜んでいる場合ではなく、Windowsも早く買い替えろよと叱られるレベルである。
そんな今、僕は久しぶりの写真展を控えており、ちょうど展示作品のレタッチ作業を迎えるところだった。そこで6年落ちWindowsではなく、M4ですべての作業を行うことにした。使うソフトはAdobe Lighroom ClassicとAdobe Photoshop。これをクラウドベースのAdobe Lightroom CCにすれば、両方のマシンで作業を共有できる。ただ、使える機能が限定されるので、モニターが小さいことを承知のうえでM4+Classicで進めることにした。Windowsで使っている大型モニターを接続することも考えたのだが、せっかくならこの新しいモニターでやってみようと思ったのだ。
まずはモニターをキャリブレーション。使ったのは「i1 DISPLAY PRO」。Windows用のモニターと一緒に購入した旧製品で、M4には有償アップデートで使えるとのこと。39.99ドルを払ってアップデートし、モニターを測定。そのまま結果を反映させると、購入時より青みが強くなった。Macといえばモニターの色が正確=キャリブレーションをしなくてよい、と思われがちだが、比較的正しいというだけで、“吊るし”で売られている状態が正確という保証はない。一方で、キャリブレーションをすればOKというものでもなく、肝心なのは最終的に仕上げる写真が自分の意図と合致していること。プリントで仕上げるのであれば、プリンターとモニターが合っていることが重要なのだ。キャリブレーション後にプリンターであれこれ印刷してみたが、ほぼ意図した通りに出力できた。実際には用紙でも変わってくるので、展示用のプリントであればあとはテストで追い込むことになる。
そしてペンタブレットを接続。僕はワコムの「Intuos Pro」を使っているが、デスクトップではワイヤレスキーボードを追いやって、モニターの下にタブレットを置く。しかし、M4では少々置き場所に悩んだ。横に置くと腕が画面から遠くなり、手前では目が画面から遠くなる。しかし、部分的な焼き込み・覆い焼きはペンタブレットが圧倒的に楽。最終的には、タブレットを太ももの上に置くということで落ち着いた。
これまで僕は多くの写真展を開いてきたが、ここ数年、AIによるレタッチツールの進化が著しい。そこで今回はAdobe Lighroom Classicの「強化」メニューを多用してみた。細部をシャキッとさせ、大きなプリントで効果がある「Rawディテール」のほか、超高感度で撮影した写真には「ノイズ除去」、古いデータや防水カメラで撮影したため解像度が不足気味な写真には「スーパー解像度」を施した。さらに、肌の調整にはAdobe Photoshopの「ニューラルフィルター」を活用。そのままでは肌がのっぺりしてしまうので、結果をレイヤーで保存して元画像の上に。レイヤーの透明度を調整することで、肌を自然な調子に仕上げた。
「スーパー解像度」は以前から展示はもちろん、仕事でも使うことも多いが、GPUが貧弱な6年落ちWindowsではまあまあな時間がかかる。それがM4では数秒レベル。AIが絵柄の隙間や足りない部分を埋めてくれるので、効果的な場合もあれば、稀におかしな結果になって使えないこともある。ただ、おおむね違和感はなく解像度がアップ。解像度はそのままの「Rawディテール」も、絵柄によって効果に差はあるが、レンズの解像力が追いつかない部分を埋めてくれる。プリントはまだこれからの作業だが、結果のほどはぜひ写真展「この雨が地維より湧くとき」(2025年1月10日〜1月23日、ソニーイメージングギャラリー銀座)でご覧いただきたい。
というわけでフィニッシュ作業にまで使っていると、14インチじゃなくて16インチにすればよかったかな…と思わなくもないのが1か月使ってみた感想。そこはまあデスクトップにするのが賢明なのだろうけど、ここまでノートのポテンシャルが高いと、AirDropで連携できるMac MiniかMac Studioにするのがいいのかしら…とまた悩みが増える。皆さんもよいパソコンを買って、よい年末を。
鹿野貴司 しかのたかし 1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。 この著者の記事一覧はこちら(鹿野貴司)