2024年、反響の大きかった記事からジャンル別にトップ10を発表。独自の視点で2024年を振り返る「ニュース」部門、第9位の記事はこちら!(集計期間は2024年1月〜10月まで。初公開2024年1月10日 記事は取材時の状況) * * *
以前から副業として若者から中年層に人気のあった治験。「負担軽減費」と呼ばれる謝礼金が高額であることが多いからだ。コロナ禍を経て、高齢者向けの案件は徐々に増えており、副収入を得たいシニアの間でも注目を集めている。
◆副作用のリスクは自分で避けられる
すでに年金受給中の辻本清志さん(仮名・67歳)は、60歳の頃にとある治験募集サイトに登録。仕事を辞めた現在は、貴重な収入源のひとつになっているという。
「私が登録しているサイトには、高齢者向きの認知症や骨粗しょう症、高血圧関連の治験が数多くあります。ほかにも老化に伴う疾患の治療薬や予防薬、サプリのモニターも比較的多く、思っていた以上に我々世代の人間が受けられる治験やモニターが多いとの印象を受けました」
なかでも積極的に応募するのは、高血圧や糖尿病、脂質異常症、生活習慣病の疾患の治療薬や予防薬の治験だとか。
「“治験”と言われて気になるのは副作用のリスクですが、応募者に情報は開示されており、確認したうえで判断できるので、リスクが比較的高いとされるワクチンなどは個人的には避けています。報酬が30〜40万円など高額なものが多いため、金額を見た時は一瞬悩みますけどね(笑)」
◆トクホモニターで10〜15万円も
ただし、仮に応募しても必ず治験を受けられるとは限らない。参加基準を満たしていなければならず、「スクリーニング」と呼ばれる調査にパスする必要があるからだ。
「経験上、申し込み時のアンケート調査で弾かれなければ、実際に指定された医療機関で検査を受けます。当然、ここで落とされることも多いのですが、無報酬ってことはありません。案件によって金額は異なりますが、交通費として3000〜1万円ほど貰えます」
また、高齢者でも受けられるモニターの中には特定保健用食品も多いらしく、辻本さんも飲料系を中心にこれまで4回受けたことがあるとのこと。期間は2〜3か月程度で、報酬はそれぞれ10〜15万円だったとか。
「商品が箱入りで自宅に届き、期間中は決められた時間に決められた量だけ飲みます。そして、定期的にクリニックを訪れ、血液検査などを行います。治験というよりはモニターに近いですけど、市販前の商品を飲めるのは楽しかったですし、飲料が美味しくて体重が減ったりすると得した気分になれました。」
◆シニア向けの治験は増加傾向
一方、治験を募集する側にも話を聞いてみた。大手治験情報サイト「治験ネット」の担当・藤井氏によると、9万人以上の登録者のうち、60代以上の会員は約3%。全体に占める割合はまだ少ないが、やはりコロナ禍を通して「治験」に対する認知度が上がったためか、登録者は順調に増えつつあるという。
「以前は高齢者対象の治験が少なく、弊社サイトで募集している案件も限られていました。現在も下の世代の方対象のものに比べるとまだ限られていますが、最近はシニア層の治験データが求められるようになり、さらにジェネリック薬や海外で認可されている薬のほか、高齢者を対象とした認知症薬などの治験も増えています。そうした状況を踏まえ、今後は年配者向けの治験がさらに増加していく可能性が高いと見られています」
◆治験の謝礼金は「若年層<シニア」
ちなみに謝礼金は案件によって大きく異なるが、若年層よりもシニア向け治験が割高で設定されていることが多いとか。
「例えば、入院型の治験だと1日あたりの報酬は、1泊3万円ほど手渡されることも。24時間ずっと時給が発生すると思っていただければイメージしやすいと思います。入院期間はまちまちで短いものだと3〜4日ですが、過去一番は50泊で100万円超えでした。一般的な入院食と違ってしっかりした食事が与えられ、外出こそできませんが基本的に過ごし方は自由です。今はスマホやパソコンがあるので比較的時間は潰しやすいですし、同じ治験を受けている人同士で仲良くなるケースも多いです。ただ、入院型の治験は施設が関東と関西、九州、北海道にあるため、それ以外の地域にお住まいの方は少し不利かもしれません」
それでも入院型はもちろん、通院型の治験も報酬は相応の額になるため、求められる条件はかなり細かい。しかも、各案件によって条件自体もそれぞれ違うようだ。
◆治験は副次的な健康管理にもなる?
「大きく分けると、健康な状態の健常時、何かしらの疾患を抱えている有疾患の方を対象とした2つのタイプがあります。ただし、60代にもなると病院に通院している方も多く、若い方のようなレベルでの健康を維持している人は少ないでしょう。その点、生活習慣病や糖尿病など、有疾患向け治験は、募集対象の疾患に該当していれば合格基準は緩めです。特定健康食品や美容品などのモニターなども、条件のハードルは低くめに設定されています。こちらも、応募者が多い傾向にありますね」
ほかにも事前のスクリーニングでは一般的な健康診断よりも細かい精密検査を実施。治験が受けられなかったとしてもここで思わぬ身体の異常が発見できることも。
◆報酬ばかりをアピールするサイトは注意
「異常があれば本人にも知らされるので副次的な健康管理にもなり、そこを目的のひとつにして応募される方もいるようです。とはいえ、治験を募集するサイトの中には、報酬面のことばかりをアピールところも少なくありません。そういうサイトは運営スタッフに専門知識を持つ人間がおらず、現場でトラブルが多いとの話も聞きます。そのため、登録するサイトは慎重に選んだほうがいいと思います」
すでに仕事を辞めている方なら時間に余裕があるため、拘束期間の長い入院型の治験でも支障は少ない。それ以外にも治験には多種多様な案件が用意されている。新薬開発という社会貢献に協力でき、かつ報酬を得ることできるのは大きな魅力。健康管理にもつながるし、思っていた以上に受ける側にとっても治験のメリットは大きいのかも。
【生活にプラス治験ネット 担当・藤井氏】
治験、臨床試験モニターなど幅広い案件を取り扱う大手サイト。現在、会員数が9万人を超える
<取材・文/トシタカマサ>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。