全身を刺青が覆うセクシービデオ監督・鈴木リズ氏(39歳)はその企画力でも異彩を放つ。監督を務める『ヤリマンワゴン』(桃太郎映像出版)シリーズは40作以上を数える大ヒット作だ。彼女はなぜこの業界に身を投じ、息の長いヒット作を産み出せたのか――。
◆刺青で困ったことは「全くありません」
――存在感のある刺青ですが、私生活で困ったことはないですか。
鈴木リズ:全くありません。私の姿を見て、「嫌だな」と思う人とはたぶん仲良くなれないので、この刺青はスクリーニング機能も果たしています(笑)。特にこの仕事においては、見た目に特徴があるから覚えてもらいやすいというメリットがあります。
――刺青には昔から憧れがあったのでしょうか。
鈴木リズ:そうですね、学生時代に雑誌で読んでいて憧れがありました。20歳になってから彫師のところに行って刺青を入れました。私自身、刺青を入れている人たちの生き方に魅了されることが多いです。特に日本社会においては敬遠されることがわかっているのに、自分がやりたいことに打ち込んでいるからだと思います。話が合う人は、概ねそういう“自分の芯”がある人なんですよね。
――文字を彫っていると伺いましたが。
鈴木リズ:俳人・飯田蛇笏の名句「を(お)りとりて はらりとおもき すすきかな」を太ももに彫っています。浮薄にみえても手に取れば重みがある、そんな人間に私自身もなりたいと思うからです。また、太宰治『女学生』の一節、「幸福は一夜おくれて来る」も鏡文字にして彫ってあります。
◆「性格が真逆」な母とは、喧嘩ばかりだったが…
――20歳で刺青を入れたとき、ご家族から何か言われませんでしたか。
鈴木リズ:怒られましたよ、もちろん(笑)。今でも、母からは「あなたの刺青はどこに何が彫ってあるかすべてわかるから、増やしたら気づくんだからね」と釘を刺されます。毎月のように増えていますが(笑)。
――お母様は刺青には反対なんですね。ご家族については、これまであまりお話しされていないので新鮮です。
鈴木リズ:母とは昔から性格が真逆で、一緒に住んでいても喧嘩ばかりでした(笑)。今はまだマシな関係になりました。家族については隠しているわけではないんです。父と母は結婚を反対され、駆け落ちをしたらしいです。しかし私ができてから、少し両親と雪解けしたと聞いています。母は「こうだ」と思い込んだら考えを変えられない人なので、どこまで真実かはわからないのですが、母の弁によると、水商売をしていたことがきっかけで結婚を反対されたのだと言っていました。ちなみに母方の祖母は舞妓をやっていた人で、キセルを吸う姿が印象的な粋な人でした。
◆「男性と女性の目線」を持っているからこそ
――30歳を目前にしてセクシービデオ業界に転じたとのことですが、鈴木さんは“レズビアン寄りのバイセクシャル”を公言していますよね。作品づくりにこの視点が生かされているのでしょうか。
鈴木リズ:私は幼い頃から女性が好きでした。初恋は小学校1年生で、相手はクラスメート。積極的な性格の子で、ポジティブで明るい子でした。いわゆるスクールカーストの上位にいるようなタイプです。一方で20代後半くらいから男性とのセックスでも嫌悪感が薄れてきたことで、男性の目線も女性の目線も持ち合わせたように思います。作品を褒めてくださる方からは、「男の気持ちを理解している」と言っていただくことが多いですね。
――『ヤリマンワゴン』シリーズは男性を“逆ナン”して絡むのが醍醐味ですよね。鈴木さんも実際、学生時代に逆ナンをしていたと伺ったのですが。
鈴木リズ:事実です(笑)。念のため言っておくと、もともとは自分の逆ナン経験を企画に流用したわけではありません。女優さんの魅力を伝えやすい企画を考え抜いた結果、生まれたものです。逆ナンはあくまで仲間同士の遊びみたいなものです。隣の中学校の通学路に、日サロに併設されたコンビニがありました。そこに集まって、「誰が1番男子の電話番号を聞き出せるか勝負しよう」みたいなノリでやってたんです。遊びとはいえ、勝負事になるとかなり熱くなってしまうタチでして……。研究しながらやっていました。
◆豊富な経験が作品作りに役立っている?
――差し支えなければ研究の成果を発表してもらいたいです(笑)。
鈴木リズ:狙うのはオドオドしている自信のなさそうな男子か、逆に今でいう陽キャな男子ですね。前者は押し切れば番号くらい聞き出せますし、後者は遊び慣れているから割と簡単に教えてくれます。あるいは、複数人の男子グループを狙うのも定石です。こちらは一人だし、誰かしら「教えてやればいいじゃん」みたいに助け舟を出してくれるから、ことが運びやすいんです。
――その営業力と分析力が今の仕事に生きていますね。
鈴木リズ:その視点で考えたことはなかったのですが、まったく無関係ではないかもしれませんね。私個人の意見ですが、どれほどいい作品を産み出せても、それを観てもらえなかったら意味がないと思っているんです。だから「どう伝えるか?」はとても大切ですよね。私は監督という立場ですが、パッケージの写真の選定から何からだいたいの工程に立ち会うようにしています。
◆観ている人の“テンションが上がる”女優は…
――女優さんを選ぶとき、何を重視して選ぶのでしょうか。
鈴木リズ:『ヤリマンワゴン』の場合、“絡み”以前の女子同士のわちゃわちゃした雰囲気とか、ワゴンの中での男性との会話なども視聴者が楽しみにしてくれている部分だと思います。そのためには、ある程度オープンマインドで話してくれる女優さんを選ぶようにしています。何かを問いかけても短文の返答で終わってしまう人ではなく、きちんとコミュニケーションとして成り立たせる力を持っている女優さんだと、観ている人もテンションが上がるのでありがたいです。どんどん会話をリードして、話しすぎるくらいの女優さんがいいですね。
――企画を生み出すとき、大切にしていることは何でしょうか。
鈴木リズ:性にフォーカスした商品を作っているので、日常生活からインスピレーションを得ることは多いです。この仕事にかかわらずクリエイティブな仕事というのは同じだと思いますが、いわゆる勤め人のようにオン/オフがはっきりしておらず、どちらかといえばグラデーションに近いと思います。ふとした瞬間に心地良い言葉に出会ったりするので、必ずメモをするようにしています。
――仕事をするうえでのモチベーションを教えてください。
鈴木リズ:私が嬉しく感じる瞬間は、作品を多くの人が楽しんでくれたことがわかったときです。監督として、作って終わりではなく、きちんと商品を客観的に分析してもっと多くの人に視聴してもらえるようにしていきたいと思っています。可能な範囲で、携われることにはすべて携わりたいと考えているため、社内では営業も広報も兼ねているんです。また、配信先に掲載する作品の紹介文なども自分で書いています。どんな角度からも視聴者を楽しませられるようこれからも精進します。
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どうすれば見る人を楽しませることができるか。生身の人間同士が画角のなかで激しく絡み合う熱気を作品に宿せるかどうかは、あらゆる条件が重なり合って決まるのだという。派手で明るく、奇抜ななかに鈴木さんの思慮がひときわ光る。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki