◆ 「大きな壁を乗り越えるためにやるしかない」
同じポジションのライバルが加入する宿敵を「大きな壁」と表現した。タイガースの梅野隆太郎が、その名前に反応したのは12月某日の球団イベント後に行われた番記者による囲み取材の時。ホークスからFA宣言した甲斐拓也がジャイアンツへの移籍を決断したのがその数日前だった。
「勝負師として本当にすごい。今年リーグ優勝も経験して12球団の中で一番すごい経験をしてるキャッチャー。拓也が加入することでチームとしてもガラッと変わってくるやろうし。その存在は大きい。ジャイアンツは優勝してなおさら乗り越えないといけない壁。大きな壁を乗り越えるためにやるしかない」
甲斐とは知らない仲ではない。梅野は大学時代に、当時ホークスの育成選手で1歳下の甲斐と練習試合で対戦し、交流があったそうだ。プロ入り後はともに強肩を武器とする捕手として少なからず意識してきた間柄。これまではオープン戦や交流戦ぐらいでシーズンでは数えるほどの対戦が、来季からは同一リーグで相まみえ、しかも今季リーグ優勝を果たしたライバル球団の正妻候補になるとあって、警戒を強めた。
「交流戦で当たる3試合だけじゃなくなったんで、負けないようにしていきたい。個人としてもチームとしても負けないように」
2人に共通するストロングポイントからも盗塁阻止率などに注目が集まるが…そんな私の質問に梅野は首を振って続けた。
「数字とか見えるところばかり言われるけど、(意識するのは)いろんなところがある。(甲斐は)勝負所の送球の強さっていうのはすごいものがあるので。そういうところを負けないように。“ここでこれするか”っていうのがキャッチャーの醍醐味。負けないように」
数字に表れ、リーグ内でランキング化される盗塁阻止だけが捕手の貢献ではない。一塁けん制や、走者の進塁を防ぐバント処理での送球など、ときに「勝負所の送球」が試合の行方を左右することを11年間のプロ生活で体感してきた33歳の言葉。そして、捕手目線で「巨人の甲斐」に付け入る隙があることにも自信を見せた。
「(最初は自軍の)ピッチャーの特徴をつかむ上では苦労すると思うんで(打線全体で)つけ込める部分はあったりもすると思う」
捕手としても、打者としても「対甲斐」が来季の伝統の一戦でのポイントの1つになる。
「対ジャイアンツで盛り上がるところでお互い競い合いながらシーズン戦っていけたら」
不完全燃焼の今季から逆襲を期す梅野に、また大きなモチベーションが加わった。
文=遠藤礼(スポーツニッポン・タイガース担当)