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ローソンストア100は、少量パックのおせち全40品の販売を開始した。2012年の販売開始以来、累計1750万食を販売してきたこのシリーズは、これまで「100円おせち」「150円おせち」として知られていた。
2025年分からは原材料価格や流通コストの上昇によって、100円の看板を外し「ローソンストア100 オリジナルおせち」として展開している。「価値ある価格」というコンセプトにシフトした舞台裏を、ローソンストア100商品開発本部の近藤正巳本部長に聞いた。
●300円商品も 決断の背景に「意外な消費者心理」
これまでローソンストア100は、定番から高級食材までのおせち料理を「適量小分け」でそろえた「100円おせち」を展開してきた。少子高齢化による核家族化の進行やお一人様需要が増えたことが需要にマッチ。長年にわたって人気を博してきた。
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しかしコロナ禍があけてから、世界的な原材料費の高騰や円安、人手不足、ウクライナと、中東のパレスチナ・ガザ地区の紛争などが発生。価格を維持するために毎年、いろいろな方策を打ってきた。2024年分のおせちは、全45種類のうち31種で100円を維持した一方、14種類は150円で展開した経緯がある。
2025年分からはついに「100円おせち」の名称を断念した。全40品のうち100円は15種類。150円を19種類、200円を4種類、300円を2種類という構成に変更した形だ。100円を諦めたからといって、一気に価格を上げるわけではない。今回も次の6つを継続的に実施することによって、販売価格を抑える努力を続けた。
1. =「早期の数量確約」をする。ローソンストア100側は安く仕入れられ、取引先は早くに売り上げが確定するためウィンウィンの関係に
2. =「サイズ不選別」とすることで、手間ひまというコストをかけない
3. =「工場の計画的稼働・効率化」を図る
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4. =「オフシーズンの工場を活用」する。稼働率の向上という製造業の基本を忠実に実行
5. =包材の価格も上昇しているため「商品パッケージも標準化」した
6. =「大量発注・大量生産」をし、規模のメリットを最大限に生かした
このほかにも、物流網を改革してきた。近藤本部長は「現在、価格に最も大きな影響を与えるのは物流コストです。今の物流システムにしていなければ、100円商品の販売はできなかったと思います」と話す。
2025年のおせちのコンセプトは「価値ある価格」「自由に選べる」「ちょうどいいサイズ」の3つだ。
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100円から「価値ある価格」に変えたわけだが、遅かれ早かれ、100円の維持に限界がくるのは、近年の世界情勢や市況環境を見ると、早期に分かっていたことだろう。近藤本部長も前年のインタビューで「次回は150円から100円に戻せればいいのですが、現在の世界情勢では実現は難しいどころか、どちらかというと150円を維持できればいいかなと考えています」とコメントしている。
前回、100円というアイデンティティーを維持するため、120グラムから85グラムに減量した商品が「御蒲鉾」だ。ただ減量するだけならば「ステルス値上げ」と、消費者から不満の声が上がる可能性が高いと予想し、鯛を混ぜることによって付加価値を付けた。もう一つ理由があって、適量小分けと言いながら、これまでのかまぼこの量が「ちょっと多い」という声があった故の措置だったという。
ところが客からの反応は予想外のものだった。「実際に販売したところ、御蒲鉾は客の理解を得られず、150円の商品の方が、高い満足度を得られたのです」。財布に優しくしたいという売る側の思いは、消費者からの高い評価を得られなかったのだ。
「それであれば、今回からは価値ある価格を追求していこうと考えたのです。価値ある価格とは何かといえば、顧客の満足度が第一優先になります。そこに自分たちの『これやりたい』『あれやりたい』を入れるのは、うまくいかないことが分かりましたので」
100円という縛りがなくなったことによって、商品開発をやりやすくなったと推測できる。
「価格の幅を広げたとき、今までやれなかった商品を作れるようになります。一方、顧客満足度の観点から言えば、価格にあった味や価値を提供できるかどうかという別の難しさも生まれます」
近藤本部長は、300円で販売している「酢だこ」を例に、次のように話す。
「たこの市場価格は非常に上がっています。たこをスライスして売れば薄くなりますから、もう少し安価に販売できます。ですが今回は、あえてブツ切りにすることによって、食感を楽しんでもらうように変えています。実は昔、たこのスライスを販売したのですが、(消費者の)満足度は高くありませんでした」
このように同じたこの商品を販売する場合、過去の反省を生かし、顧客が満足しそうな方法を模索した結果、300円と最も高い値段になる「ぶつ切りタイプ」を選択したのだ。
●今後は若者を取り込む戦略
これを契機として、販売戦略も変えた。これまでは「お重でのおせちは多すぎるという単身世帯やシニア世代」をターゲットにしてきた。これを「具があまり好きではない、なじみがないと感じる、おせちを食べる機会が少なかった層、若年層」を加えることにした。若者でおせちを食べる人は減少傾向にあり、若い世代を取り込むことで市場の拡大を狙うのだ。将来に渡って食べ続けてもらうことを期待する。
データコムの調べによると30代までの層に、おせちを食べるかどうかを聞くと「おそらく食べる」が40.0%、「食べない」が35.9%、「食べる」が24.1%で、20代と30代の3人に1人はおせちを食べないという。おせちは、もはや作るものではなく「買うもの」に変化したことも一因だ。
そこで同社は「おせちのカジュアル化」を進めた。伝統的な品目に加え、正月に食べたいものを加えるというものだ。
盛り付けの例として、数の子、豚角煮、里いも煮などに加え、から揚げ、ソーセージ、大福、串だんごなどを合わせた「ハイブリッドおせち」、伊達巻、黒豆、栗きんとんにロールケーキ、プリン、ティラミスなど盛り付けた「おせち宝箱」などを提案している。
「私も若年層が好むおせちはどんなものなのか、あまり分かっていませんでした。今回の商品をみて、驚きと同時に『こういう世代なんだな』と感じました。商品開発の幅もより広がったと感じています。2026年はローストビーフのような肉系の商品も視野に入れていきたいと考えています」
●難しい消費者心理
前回のインタビューで、近藤本部長は「今回の150円商品の売れ行き次第ですが、質が伴う形であるならば200円、300円の商品も受け入れていただけるかもしれないと考えています」と答えていた。
今回はその戦略を実行した形だ。ただし、御蒲鉾のように良かれと思って実施したことが裏目に出る場合もある。それだけ消費者の心理は非常に複雑なのだ。「売り上げは前年比105%を目指す」としたものの、それが達成できるかどうかは、商品ラインアップと値段など顧客を満足させられるかどうかにかかっている。発売後、客がどのような消費行動を示すのか注目だ。
(武田信晃、アイティメディア今野大一)
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