お正月は、子どもにお年玉を配ることがもはや恒例行事になっていると言えます。派遣社員の井上杏さん(仮名・35歳)は、新年を迎えるたびに憂鬱な気分になると語ります。
◆年末年始は何かと出費が多い
「手取り21万円ほどで、都内で一人暮らしをしています。いつもギリギリの生活を送っているということもあり、年末年始になると何かと物入りなので、お財布にはほとんどお金が残らないと言っても過言ではありません」
それでも年末年始には帰省して、親戚の子どもにお年玉をあげると言います。
「あらかじめ、親戚の子どもに1人3000円のお年玉を用意して帰省します。元旦になると、実家に妹家族がやって来るので、そこで甥と姪にお年玉をあげて。普段から可愛がっていることもあり、喜ぶ顔が見られるのが何よりも楽しみでした」
◆毎年苦しいながらもお年玉を用意して…
しかし、午後から叔母の家に親戚一同集まる際にどうしても納得いかないことがあるのだそう。
「時が経つにつれて、周りが結婚し出産したことで、徐々に親戚の子どもが増えました。この子たちが可愛くないというワケではないのですが、年に一度しか会わないのにお年玉をあげなければならないことが正直負担でしかなくて……。
お年玉をあげるのは全員で6人になります。1人3000円渡すとなると、合わせて1万8000円もの出費になるので、正直キツいとしか言いようがありません」
杏さんは、このことを思い切って母親に相談したと言います。あまりの出費に生活が圧迫されているので、いとこの子どもへのお年玉をなくしたいと打ち明けるも「子どもの頃はあなたもお年玉をもらっていたでしょ」「子どもはみんな楽しみにしている」と説得されてしまったのだとか。
「母親の言うことはごもっともなので、納得せざるをえませんでした。でも、自分の時よりも子どもの数が断然多いし、今後も人数が増える可能性もあって、さすがにきりがないと思ったのです。そうかと言って、私だけお年玉をあげないとなると親戚に陰口を言われそうだとも感じました」
複雑な気持ちを抱きながら帰省することになった杏さん。この後、予想外の出来事が彼女に襲いかかります。
◆お年玉の中身を見た子どもの“衝撃のひと言”
「いつも通り新年の挨拶のため、みんなで叔母の家を訪れました。親戚一同集まったところで、いとこの子どもにお年玉を手渡すと、その子は中身を確認して『えっ!たった3000円?こんなの少なすぎるよ』と吐き捨てるように言ったのです。
確かに少額かもしれないけれど、こちらが大変な思いをしてお年玉をあげているのにと腹が立って。その子は両親に叱られたものの、もやもやした気持ちが消えることはありませんでした。
その後、それとなく妹に聞いてみると、どうやら親戚同士でも、お年玉の額に差があったようです。そこでみんなで話し合い、小学生2000円、中学生3000円、高校生5000円という相場を決めたと後日妹から連絡があって。計算してみると、合計額は今までより3000円減るものの、まだまだ負担になる額。それに子どもが成長するにつれ、金額は上がる一方なので、余計に費用がかかることになってしまいます」
一足先に帰った杏さんは、その話し合いに参加していなかったと言います。
「みんな我が子にお金がいくらか還元されるため、そのルールでいいと思ったのでしょう。でも、私のように独身だとお年玉をあげるばかりになるので、そこは周りより相場を低い額に設定してもらいたかったのですが……。そもそも話し合いの場にいなかったので、特別ルールを作ってほしいというのはおこがましい話なのかもしれません」
◆翌年から年末年始の過ごし方を変えることに…
杏さんは、思い悩んだ末に翌年から「仕事が忙しい」という理由で、年末年始に帰省するのをやめることにしたのだとか。
「お年玉を減らすための苦肉の策です。ただ両親と妹家族には会いたいので、お正月から時期をずらし2月の休日に帰省することにして。都合さえ合えば、甥と姪に『少し遅れたけれど』とお年玉をあげるつもりです」
もちろん新年の挨拶をするため、叔母の家に行くことも想定しているそう。
「そこに親戚がやって来る可能性も十分に考えられます。もし、いとこの子どもがいたら、お正月ではないので、お小遣いとして1人1000円渡すつもりです。そうすると、6人で合計6000円なのでいつもあげているお年玉の3分の1の出費で済みますから。お年玉ではなくお小遣いの名目ならば少額でも何の問題もないのではないかと思います」
年末年始の出費に頭を悩ませていた杏さん。お正月に帰省せず、いとこの子どもにお年玉をあげないとなると親戚から不満が出るのはわかっていると言います。でも、自分の生活を守るためにはやむをえないと考えているのだとか。ただ親戚付き合いも大事なので、程よい距離感を保ちたいところです。
<取材・文/菜花明芽>
―[年末年始の憂鬱]―
【菜花明芽】
ライター。ゾッとする実録記事を中心に執筆中。カフェでのんびり過ごすことが好き。