【ワシントン時事】第1次トランプ米政権下で実施された大型所得減税が2025年末に期限を迎える。トランプ次期大統領は「誰も見たことがない」強い経済を実現するため、延長を目指す。このほか、さまざまな減税を「看板政策」として掲げるが、与党となる共和党は議会で僅差の過半数を占めるにすぎない。膨らみ続ける財政赤字には党内でも危機感があり、大規模減税の実現には不透明感が漂う。
「(財政健全化が)進展せず申し訳なく思う」。イエレン財務長官は24年12月、政府債務圧縮への道筋を付けられず、次期政権に高水準の赤字を引き継ぐ「負い目」を認めた。
24年度(23年10月〜24年9月)の財政赤字は対国内総生産(GDP)比6.4%と、コロナ禍前の4%台を大きく上回った。大規模な財政出動で経済はコロナ禍から目覚ましい回復を遂げたが、財政再建は置き去りにされたままだ。
財政赤字の拡大は、金利上昇に伴う国債利払いの負担増が要因の一つだ。24年度の利払い費は初めて1兆ドル(約158兆円)の大台を突破し、国防費を上回った。大型所得減税が延長されれば、今後10年で約3兆7000億ドルの赤字拡大が見込まれ、財政悪化に拍車が掛かる恐れがある。
「とても大きな減税を行う。米国で生産するなら法人税率を21%から15%に下げる」。トランプ氏は12月、ニューヨークで演説し、さらなる減税で経済成長を後押しすると強調した。減税で減る収入を補う配慮はうかがえなかった。
財源の一つに考えられるのは関税収入だ。トランプ氏は就任前から、メキシコやカナダ、中国に対し、合成麻薬の流入が止まらないことへの対抗措置として関税を課すと主張するなど、高関税の「脅し」をフル活用。だが、関税が「ディール(取引)」の一環なら、安定財源にはならない。
トランプ氏はまた、実業家イーロン・マスク氏が率いる新組織「政府効率化省」を通じて行政の無駄を省き、歳出削減をもくろむ。ただ、シンクタンク「タックス・ファンデーション」のマクブライド副所長は、トランプ政権下の共和党は上下両院とも「近年で最も僅差の過半数」となり、「劇的な歳出削減は非常に難しい」と予想した。
共和党は上院では「財政調整措置」と呼ばれる特別な手続きを行使すれば、減税法案を単独で可決できる。だが、財政赤字膨張に反発する同党下院の保守強硬派は無視できない勢力を保つ。財政調整措置では長期的に赤字を増やせず、「減税延長は2年間にとどまる」(専門家)との見方もある。議会運営につまずけば、減税は「看板倒れ」になりかねない。