バレーボール女子日本代表を強化部長・中村貴司が総括 「大きな自信になった」勝利とは?

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2025年01月01日 10:00  webスポルティーバ

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日本バレーボール協会 中村貴司 女子代表強化部長 インタビュー前編

 バレーボール女子日本代表強化委員長(取材当時/現・強化部長)の中村貴司氏にインタビュー。準優勝を果たしたネーションズリーグ(VNL)やパリ五輪のチームづくりなど、2024年の女子代表活動を振り返ってもらった。

【VNL初戦に勝って"よし!"】

ーー女子日本代表はネーションズリーグ(VNL)で目標としていたパリ五輪出場権を獲得。そして、ファイナルラウンドでは銀メダル獲得。どのように評価していますか?

中村貴司(以下同) パリ五輪の出場権をかけた2023年の「パリ五輪予選/ワールドカップ」では、残念ながらトルコとブラジルに惜敗し、出場権は獲得できませんでした。そのため、2024年のVNL予選ラウンド終了時点での世界ランキングをもって出場権獲得を目指すことになりました。

 何が起こるかわからない状況でスタートを切ったわけですが、気を抜くことができない戦いで、本当に苦しい状況であったとは思います。眞鍋政義監督以下、スタッフ、選手たちは五輪に出場するんだという意気込みが強く、ネーションズリーグ初戦のトルコ戦に勝利することができました。

 当時、トルコはランキング1位でしたから、そのチームにフルセットで勝ちきれて、選手たちも「よし!」という気持ちが1戦目で芽生えたのだと思います。その後、負けた試合もありましたけど、なんとか出場権を獲得することができた。これはチームだけじゃなくて、バレーボールファン含め、皆さんの温かいご声援のおかげだと思っています。

 カナダ戦に勝利すれば、出場権獲得というところだったのですが負けてしまって。ただ、ランキングの算定方法が非常に複雑で、ポイントの勝敗ではなく、対戦相手のランキングによってもまた微妙に違ってくるシステム。そういうなかで、カナダに負けて気を落としている状況の時に、他のチームの対戦状況で出場権が獲得できました。

 本当はカナダに勝って出場権を確実にわかる形で獲得できたらよかったのですが、なかなか思うようにいかないのが勝負の世界。それでも最終日を待たずに出場権獲得が決まり、選手たちもスタッフも素直に安心したと思います。

【五輪を控えるなかでも勝ちにこだわった】

ーーそこから弾みをつけて、ファイナルラウンドでの銀メダル獲得となりました。

 そうですね。ただ、ファイナルをどう戦っていくのかが非常に難しかった。日本はフィジカルの面で諸外国に劣るので、ファイナルが終わって1カ月後に五輪開幕ということで、スケジュールの問題があったと思います。

 そうは言っても、ファイナルで世界と戦うという気持ちがみんな強くありました。そこでどう戦うかによって、五輪の目標をどうするか、メダルに挑戦するのかということにも関わってくる。五輪のことを考えないということではなく、目の前の世界との戦いも大切にしてファイナルを戦ったと思います。

 ファイナルに出てくるチームとは、五輪で戦う可能性もありました。実際、ブラジルとも戦いましたし、そういうなかで、ファイナル準々決勝の中国戦は、五輪に照準を合わせるということで中国はAチームではありませんでしたが、ストレートで勝つことができました。

 これは結果論だと思いますが、中国やセルビアのようにVNLでは別のメンバーを出して、Aチームは五輪に集中しても、五輪で結果が出る場合もあるし、出ない場合もある。その国ごとの方針もありますし、戦い方はいろいろあるので、どちらが正しいとは言えないのですが、日本はそうも言っていられないので、一生懸命戦って勝ち負けにこだわる方針でファイナルは戦って、ブラジルとの準決勝になりました。

 ブラジルにはパリ五輪予選でもフルセットで惜敗したということもありましたので、やはりそこを破らない限りは、五輪で上位を目指すこともできない。ブラジルとはここ数年、フルセットが多くて、世界選手権での1戦を除いて、いつも負けていました。最後にひっくり返されるという状況だったので、本当によく頑張って勝ってくれたなと感じています。

【日本の生命線はセッターとリベロ】

ーー古賀紗理那さんも引退会見で、思い出に残る試合としてその準決勝のブラジル戦を挙げていました。3大大会でメダルを獲得したのが初めてだったと。

 他の選手たちも同じですよね。だから、若い選手たちにもこのメダルがこれからのいろんな励みにもなってくれればいい。いい意味での自信を持ってもらいたいなと思います。日本が体格的に大きくなくてもなんとか世界と戦えるということは、大きな自信になるでしょう。みんなストイックに頑張ってくれたと感じています。 選手たちはそれぞれ納得いくまで個人のスキルを磨いていたと思います。そういった意味では、バレーボールに対してストイックに向き合っていました。

ーー女子は特にコンビ合わせも時間をかけてやっていかなければならないと聞きますが、現役時代にセッターだった中村さんから見てどうでしたか?

 男子も女子もセッターであれば、アタッカーの特徴とか高さとか速さがある程度、コンビ練習していくうちにわかると思うんですけど、女子ならではの繊細なところはあるかもしれないですね。

 日本の生命線って、やはりセッターとリベロだと私は思うんですね。ですから、眞鍋政義監督をはじめスタッフもセッターとリベロをすごく重要視していたと思います。もちろん、サーブのような個人技もありますけど、チームとして日本が世界と戦うためには、セッター、リベロの働きによってコンビネーションというものにつながっていくと思います。

ーー最終的に正セッターはベテランの岩崎こよみ選手が務めましたが、本来セッターを早い段階で固定していくほうが望ましいのでしょうか?

 女子選手は例えば4年間のスパンであれば、その1年目と4年目は恐らく体力的にも技術的にも異なってくるのではないかと思います。体力が落ちていく選手ももちろんいますし、パフォーマンスが落ちていく選手もいます。逆に円熟味を増したベテランの選手がいい味を出すということもありますので、やはりチームづくりにおいてもいろんな部分で変化が出てくるのではないかと思います。

 ですから、最終的には、その最後の五輪の年で一番活躍できる、調子のいい選手を最終的には選出したということになります。

ーー今回は東京五輪延期の影響で3年間とスパンが短かったというところでも、チームづくりにおいて難しかった部分はあったのでしょうか?

 五輪の出場枠は、今回は交替選手がひとりいましたが、わずか12名という限られた選手で構成しなければならない。そういったなかではセッターも普通に考えれば枠は2名ですから、現場のスタッフ陣は、最終的に選出するにも難しい判断もありました。

【リベロがそれぞれの持ち味を発揮してくれた】

ーー最終的にAP枠(交替選手)も合わせてリベロが3人になりました。AP枠の山岸あかね選手は、チーム全体のキャプテンの補佐役であったりと、そういうところも評価されて選出されたのでしょうか?

 すべてですね。まとめるという部分ももちろんありますが、眞鍋監督が会見でもおっしゃっていましたけど、やはり生命線であるレシーブというところで、万が一、リベロの選手にアクシデントがあった時のために、メンバーに入れておくというところは考えたと思います。そういうなかでは、山岸の技術的なもの、また人間味というか、そういうのもすべてトータルで評価したうえでのリザーブということに最終的になったのかなと思います。

ーー小島満菜美選手がレセプション、福留慧美選手がディグと役割分担していましたが、山岸選手はそのどちらもできるという評価もあったのでしょうか?

 そうですよね。小島、福留もチームに帰れば全部やりますけど。でもリベロというポジション的に考えると、相当なプレッシャーや体力、違った意味での精神的な体力を使うんじゃないかなと思います。

 私の現役時代は、まだリベロのポジションがありませんでしたが、見ていてリベロって自分で得点が取れないから攻撃面でのカバーができないし、そういった意味では精神的にも強くなければならないし、本当に負担が大きいポジションだなと。

 ですから、ずっとコートにいるよりは、違った形でディグとレセプションで分けるのは日本にとってもいい戦術だったんじゃないかなと思いますね。小島、福留のそれぞれの持ち味をネーションズリーグから含めて、うまく発揮してくれました。

つづく

【プロフィール】
中村貴司 なかむら・たかし 
日本バレーボール協会女子強化部長。1966年生まれ。早稲田大学卒業後、1988年に日本電気株式会社(NEC)入社し、NECブルーロケッツでプレー。現役引退後、NECレッドロケッツのゼネラルマネージャーなどを経て、2021年より女子強化委員長を務め、2024年11月から現職。

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