古賀紗理那は「正直、まだまだできる......」バレーボール女子日本代表強化部長が伝えたい感謝

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2025年01月01日 10:20  webスポルティーバ

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日本バレーボール協会 中村貴司 女子代表強化部長 インタビュー後編

 バレーボール女子日本代表の強化委員長(取材当時/現・強化部長)を務めた中村貴司氏にインタビュー。近年増えている海外へ挑戦する日本選手や現役引退をした古賀紗理那さんへの思いなどを聞いた。

【関菜々巳は"強気"な選手に成長してほしい】

ーー現在、石川真佑選手や関菜々巳選手、福留慧美選手はイタリア、小島満菜美選手はアメリカで挑戦していて、女子も海外に行く選手が増えていますね。

中村貴司(以下同) 私の個人的な考えもありますが、日本にとどまらず、どんどん挑戦してほしいです。世界と戦うという意味でも日本のバレーボール界の発展のためにつながってくれればと思います。代表として海外にチャレンジすれば、日本のレベルも上がると思いますし、いろんな部分での幅を広げてほしいです。

 関のチームにはポーランド代表のセッターがいるので、いろんな意味で勉強しながら、ポジションを奪うつもりでやってくれたら。どちらかというと、関は性格が優しいので、特にセッターである彼女に関しては強気でいくことも大事かなと。

 もちろん、セッターならではの優しさも必要ですし、このポジションは繊細さがないとできないですし、逆に繊細なだけでもできない部分もあります。経験を積んで、プレーや人間的な幅を広げてもらえれば。いろいろ吸収して、より成長につなげてほしいなと思っています。

ーー関選手は2024年、代表でスターターから外れて悔しい思いもしてきたのでは?

 石川も2023年くらいまではそういう部分があったと思います。でも、昨年からイタリアに行って、ひと皮向けたように私は感じています。

【今後の日本代表を牽引する選手たち】

ーー石川選手はイタリアで高いブロックに対するブロックアウトなど、技術面でも成長していましたね。

 アンダーエイジカテゴリーもそうですが、アジアの大会でも中国などの大きい選手と初めて対戦すると、最初はみんな面食らうんですよね。日本にはない高さが中国にはあります。

 ですから、石川はイタリアで海外の大きい選手と対戦することが当たり前のことになって、日本代表でも臆することなくプレーできるようになったのではないでしょうか。それまでも代表で試合には出ていましたが、レギュラー定着には至っていなかったので、この1年間の成長には目を見張るものがありました。

ーーそして、2024年はイタリアでさらに強いチームに移籍しています。

 より自分自身を高めようとしているのではないでしょうか。

ーー今後の日本代表を牽引してほしい選手として、やはり東京五輪、パリ五輪に2大会連続出場した石川、林琴奈、山田二千華の3選手には特に期待がかかるのでしょうか?

 五輪経験がありますし、ネーションズリーグ(VNL)の試合数も多くこなしてきましたし、2022年世界選手権でも中心となって戦ってきた世代です。国際経験豊富なその3人や、加えて関選手などはその経験を活かして、自分たちが代表を引っ張るという気持ちを強く持ってもらいたいですね。パリを経験した荒木彩花、和田由紀子など若い選手たち多くいますので、そういう選手たちと一緒に、また次のロサンゼルス五輪に向けて頑張ってほしいと思います。

【古賀紗理那に伝えたい感謝の思い】

ーーそして、パリ五輪で現役を引退した古賀紗理那さんについて。所属チームはNECレッドロケッツ川崎一筋で、中村さんもGMでしたからずっと長く見てきた選手だと思います。

 彼女が入社した時に私がNECの採用担当だったということもあって、彼女を約10年近く、ずっと見てきました。天性のバレーボールの才能が入団当初からありました。NEC、日本代表と過ごし、途中、少し壁にぶち当たったところはあったと思いますが、ここ3〜4年でひと皮もふた皮も剥けて成長し、私自身も非常にうれしく感じていました。

ーー本人も会見などで技術的なものやフィジカル面も相当努力して鍛えたと話していました。

 彼女は精神的、体力的、フィジカル的なものも含めてすべての部分で本当に大きく成長した選手で、誰が見ても変わったと思える選手になったと思います。最終的に世界に通用する選手に成長しました。

ーーまだやれるんじゃないかと思う人も多かったのでは?

 そうですね。プレーヤーは男子、女子に限らず、自分ができる限界までやる選手もいれば、もう少しできるんじゃないかというところでやめてしまう選手もいる。極端に分ければ、その2つかと思うんですね。でも、やはりそれぞれの人生や考え方があるので。古賀は本当に残念だと思いますけど、彼女が選んだ道ですから。28歳という年齢はまだまだできるとは正直思いますけど......。

 彼女には「ここまでバレー界を引っ張ってくれてお疲れさま。ありがとうございます」とお礼を伝えたいなと思いますし、また違った形でバレーボールに携わってくれたらうれしいです。

 若手の頃は試合後のインタビューなど、話すのが苦手なタイプでしたが、経験を積むにつれ、対応能力が上がっていきました。プレーの成長とともに人間的なものも並行して成長していったのではないかと思います。

【次世代を担う若手の注目は?】

ーー2024年は、若い選手が戦うアンダーエイジカテゴリーでいくつか国際大会がありました。各大会をご覧になられて、強化部長として感じたことがありましたら教えてください。

 中国で開催されたアジア東部地区選手権は私も現地に視察に行ってきました。日本からはユニバーシアード代表が出場しました。2025年、「FISUワールドユニバーシティゲームズ」があるので、ユニバの選手たちにも海外での試合経験を積ませたいという目的がありました。

 他のアンダーエイジカテゴリーもそうですが、中国になかなか勝てないのは課題ですね。予選では勝っても順位決定戦で負けたりと......。中国は人口が多いから、日本に優秀な選手がひとりいたとすれば、向こうは10倍いるのではないでしょうか?(笑) ですから、中国も今、アンダーエイジカテゴリーを含めて強化していると思います。高身長の選手もたくさん発掘されていますね。

ーー2023年の「ワールドユニバーシティゲームズ」も中国に負けて銀メダルでした。

 シニア代表経験のある宮部愛芽世、佐藤淑乃の両選手が決勝戦でそれぞれ16得点挙げましたけど、最後に勝ちきれなかった。予選ではフルセットで勝った中国に決勝で負けました。やはり高さ慣れしないと面食らう部分があるのではないかと思います。

ーー秋本美空選手は高校生ながらU20代表のカテゴリーで大会に出場しました。ロンドン五輪銅メダリストの大友愛さんの娘ということで注目度も高いと思いますが......。

 身長もお母さんを追い抜いたようですね。まだ細いから、そこまで大きく見えないんですけど。185センチという身長は、やはり日本の将来にとって大事な選手です。今、高校3年生ですが、共栄学園ではキャプテンをやっているということもあって、人間的にも成長するとともに、プレーも成長してもらって、近い将来、代表の主力になってほしい選手です。

ーー古賀紗理那さんのように身長があって、スパイクやサーブだけでなく、レシーブやブロックもできるオールラウンドなサイドアタッカーに成長することが期待されますね。

 古賀も新人の頃からサーブレシーブがすごく優れていたかというとそうではなく、努力でうまくなったので、そういった意味では秋本はそれに近づける素質があり、ポテンシャルもあると思います。

ーー他に中村さんの視点で見て、アンダーエイジカテゴリー代表で注目選手は?

 ポテンシャルという意味では、2024年に旭川実業高校からクインシーズ刈谷に入った笠井季璃選手。175センチと決して大きくはありませんが、春高バレーでもキャプテンシーを発揮して、チームを引っ張っていました。バレーは個人競技ではないので、プレーで中心となりつつ、チームを支え、引っ張っていく。そういう力のある選手がキーマンになってくるんじゃないかなと思いますね。バレーボールはチームスポーツなので、ひとつにならないと勝てないですから。

 現時点ではまだまだ成長途上ですけど、環太平洋大学4年の山地梨菜選手(※大学2年から埼玉上尾でもプレー)も楽しみな選手です。アジア東部地区選手権でも、優勝すれば彼女は最優秀選手賞を獲得できたのではないかなと思います。これから経験を積んでほしいですね。あと、高校生では前回の春高でMVPの活躍をした就実高校3年の福村心優美選手にも期待しています。

ーー高校生では東九州龍谷高校の忠願寺風來・莉桜姉妹も注目されていますね。妹の莉桜選手は181センチの身長で守備もこなしています。姉の風來選手はAstemoリヴァーレ茨城に内定が発表されていますし、姉妹で出場する春高も楽しみです。姉妹のお父さんが元Vリーガー、日本代表経験もある日本製鉄堺ブレイザーズの高野直哉選手がいとこと、バレー一家で話題性もありますね。

 莉桜選手は年代の枠を超えて、ひとつ上のU18のカテゴリーに入れました。私が莉桜選手を最初に見たのはJOCジュニアオリンピックカップだったと思います。大分県代表で出場した彼女が中学2年の時。その時からいい選手だなと思っていました。その後も順調に成長し、アンダーカテゴリーの代表合宿にも参加してもらいました。

 このように若い世代に優秀な選手もおり、明るい材料も多くありますので、また次のアンダーも含めて、指導者にはいい形で育成していただいて、これからも下の世代からの強化を継続していけたらと思っております。

終わり

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【プロフィール】
中村貴司 なかむら・たかし 
日本バレーボール協会女子強化部長。1966年生まれ。早稲田大学卒業後、1988年に日本電気株式会社(NEC)入社し、NECブルーロケッツでプレー。現役引退後、NECレッドロケッツのゼネラルマネージャーなどを経て、2021年から女子強化委員長を務め、2024年11月より現職。

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