2024年の大反響だった記事をピックアップ! まだまだあるジャンルに収まらない大人気記事はコチラ!(初公開2024年1月20日 記事は取材時の状況) * * *
インターネットの主流が動画コンテンツになって久しいが、悪質な配信者たちは次々と過激な動画を配信し続け、ユーザーとプラットフォーマーのイタチごっこはやむことがない。偽ブランド品をたたき売りする者も…その最前線を追った!
◆シャネルにグッチ…偽ブランド品を販売するライブ配信者
最近、TikTokのライブ配信で奇妙な光景を目にするようになった。
「ミタイ商品アレバ言ッテクダサイネ〜」
配信者である中年女性は、イントネーションに若干、違和感のある日本語でそう視聴者に語りかけた。背後の棚にはシャネルにグッチ、セリーヌ……欧米の高級ブランド品が並んでいる。
「3番見せて」と視聴者からコメントが入ると、ルイ・ヴィトンのバッグをカメラに寄せ、デザインや機能の説明を始めた。話し終えると、女性は掲示してあるLINEのアカウントを指さし、「詳しくはこちらで話しましょう」と言った。
確認すると、同様のライブ配信は15以上あった。スニーカーやコートなどを売る配信者もおり、どこも視聴者からのコメントがついていた。
なにかにおう。強烈な違和感を覚えた記者は、試しに接触してみることにした。
◆「普通はバレないよ」怪しげなカタログから購入を促す
ある中年女性の配信者に「シャネルの財布はある?」とコメントすると、「チョトマッテ」と背後にあった段ボール箱を漁り、財布をアップにして見せてくれた。
その後、LINEでのやりとりとなったが、送られてきたURLをクリックすると、怪しげなカタログが出現した。どうやらここから買うようだ。先ほどの財布は「1万5000円」で“新品”だという。
あえて偽物という言葉は使わず「レプリカですか?」と問うと、「SSランクより上のNランク、普通はバレないよ」とのこと。はっきり偽物だと認めたのだ。
◆都内北区から発送された“ブランド品”は偽物?
さらに別の配信者を当たる。こちらは若い女性だ。さっそくフェンディのマフラーを配信越しに見せてもらい、「早く欲しいんだけど発送はどこ?」と聞いてみた。
「在庫は中国と日本、両方あって……あ、このマフラーは日本からなのですぐ届くよ」
女性はそう答えた。その後、LINEへと誘導され、振込先銀行口座が提示された。支払いをし、送付先を伝えると翌日には商品が届いた。
発送元は都内北区。タグやギャランティカード、紙袋もついており、素人には見分けがつかない。
◆“フェンディのマフラー”を買い取りショップに持ち込んでみた
記者は同商品を大手ブランド買い取りショップへ持ち込んだ。
「申し分けございませんが、こちら買い取りができない商品でございます」
偽物であることが暗に伝えられた。女性にそのことを報告すると、ブロックされたのか以降、既読マークがつくことはなかった。
◆急増中の“偽ブランド品”ライブ販売
実は今、こうしたTikTok上での偽ブランド品のライブ販売が猛威を振るっているという。
中国事情に詳しいライターの広瀬大介氏は言う。
「日本在住の中国人、ベトナム人、フィリピン人などが日本で在庫を持ち、国内で販売するケースと、中国から配信・発送するケースを確認しています。動画投稿とは違い、ライブ配信は終了後に消えるので、アシがつきにくいと思っているのでは。2024年に入って急増している印象です」
◆“毎日4時間のライブ配信で月給20万〜30万円”
実態を探るべく取材を続けると、事情を知る中国人女子留学生が話を聞かせてくれた。
「WeChatの留学生グループに『配信主募集。日本語堪能な人、短期間で高額報酬も可能』という書き込みがあったので連絡したんです。話を聞くと服飾品の販売で、提示されたのは毎日4時間のライブ配信で月給20万〜30万円。さらに売れた額の1割が歩合でもらえるそうです。すぐに怪しいと気づき、やりませんでしたが、ちょうどコロナ禍でバイトができずお金に困っていたので、かなり迷いました。友人の中には、応募してやっていた人もいます」
◆リサイクルショップを装った中国系店舗が乱立
一種の闇バイトと化しているようだが、広瀬氏によると、ライブ配信用のTikTokのアカウント売買も行われているという。
「2024年に入り、アカウント買い取りますという書き込みが増えました。業者の拠点は新大久保にあると在日中国人から聞いたことがあります。リサイクルショップを装い、偽物を扱う中国系店舗がいくつかあるのですが、そこで配信しているようです。2023年10月から水際対策が強化され、偽ブランド品の輸入はかなり厳しくなりましたが、国内在庫については、どうやら大量輸送を請け負う中国系配送業者を使う裏技があるようです」
◆中国版TikTokで流行する「ライブコマース」が持ち込まれた結果
TikTokの本家・中国版には、ライブ配信を見てアプリ内でそのまま商品が買える「ライブコマース」が数年前から流行しているが、その手法が日本にも持ち込まれたかたちだ。ただし日本版TikTokにはライブコマース機能はないため、実際の売買はLINEなど外部アプリに誘導するという仕組みをとっているのだろう。
TikTok上で堂々と偽物を販売する輩が増えるなか、運営会社はどう答えるのか。
◆在日ベトナム人が逮捕されるという事件も
「TikTokでは、詐欺関連のコンテンツに対して断固とした措置を講じ、どのような形態であっても認めていません。違反行為が確認できた際には、コンテンツ削除やアカウント停止等のしかるべき対応を行っております」(バイトダンス日本法人)
ライブ配信の視聴中もユーザーが違反行為を「報告する」ことが可能だというが、実態として削除は追いついていないようだ。11月には、フェイスブックのライブ配信で偽ブランド品を販売したとして、在日ベトナム人が逮捕されるという事件も起きている。
TikTokのほか、ライブ配信機能を用いた偽ブランド品の売買は今後もさまざまなプラットフォームで行われるだろう。
◆監視の限界とプラットフォーム側の責任
なぜ動画配信は無法化しているのか。ITジャーナリストの高橋暁子氏は、TikTok上での偽ブランド品販売について、「個人間取引にはリスクがある」と警鐘を鳴らす。
「『単純接触効果』という心理学用語がありますが、顔や名前を出している人を頻繁に目にすることで好意を持ち、信用してしまうようになります。顔を出して配信し、コミュニケーションがとれているからと言って、簡単に信用してはいけません」
【ITジャーナリスト・高橋暁子氏】
成蹊大学客員教授。ITジャーナリスト。SNSのトラブルや事件、ICT教育事情に詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』など。
取材・文/週刊SPA!編集部