困っている人に手を差し伸べたいと勇気を出して声をかけたにもかかわらず、その相手がとんでもない人だったとしたら、ショックを受ける人も多いのではないだろうか。今回はそんな体験をした、伊吹剛紀さん(仮名・40代後半)に話を聞いた。
◆修理屋の2代目が目撃した光景
伊吹さんは車の板金や塗装、キズや凹みの修理などをおこなう修理店の2代目。父がオープンさせた小さな修理店を引き継ぎ、地元のお客を中心に平和でのんびりと商売を営んでいた。そんなある日、修理店から出てお昼ご飯を買いに徒歩で移動中だった。
「車道のすぐ横の歩道を歩いていると、『やっぱエンジンかからんわ』『どうするつもりなん?』という女性の怒鳴り声が聞こえてきたんです。車道のほうを見ると、2車線あるうちの歩道側、停止線で止まっている軽自動車から聞こえてくる声だと判明しました」
窓は全開で、とにかく女性の声がデカイ。青信号のため進みたいほかの車は、中央車線寄りのもう一車線を利用し、停車したままの軽自動車をグングン抜いていく。40代ぐらいの女性の権幕がすごく、あまり関わり合いたくはないとは思ったが…。
◆どうやら同棲中のカップル
「困っている姿を見ていると放っておけず、つい『僕、修理屋なんで、車みましょうか?』と近づいたんです。すると2人は『ホントですか?!』と満面の笑みを浮かべ、食いついてくれたので、声をかけてよかったと思いました」
軽自動車に乗っていた女性は40代後半。男性のほうはどう見ても20代ぐらいだったため、最初は2人の関係は親子かきょうだいだと思っていたとか。ところが、どうも様子が違う。2人の会話から、どうやら同棲中のカップルだということが判明した。
「サービスの麦茶を紙コップに入れて提供しながら、『2人がカップルなら、普段はどんな感じなんだろう?』などと、楽しく想像していたんです。でも、楽しかったのは、束の間。車の点検を終えてテーブルへ戻ると、すでに不穏な空気が流れていました」
◆「結婚の貯金が減るだろうが!」
女性はムスっとしたまま、無言でスマホ。男性が「機嫌直してよ〜」と猫なで声で懇願している最中でした。嫌な雰囲気が漂うなか、原因がバッテリー上がりであったこと、そして修理店までのレッカー移動や修理の料金を伝えた伊吹さん。
「次の瞬間、女性がブチ切れたのです。そして、男性に向かって『お前はホントに穀潰し!』と、時代劇でしか聞かないような言葉で男性を叱責しはじめました。男性のほうは『ゴメンって。ほんとゴメン!』と苦笑いしていましたが、女性は止まりません」
そして、「あんだけ点検しろって言ったのに。バカじゃねーの」「結婚の貯金が減るだろうが!」と不満をぶちまける。するとついに男性が、「しつこいな! いい加減にしろよ!」と立ち上がり、女性の胸ぐらを掴むなどヒートアップしてしまう。
「その勢いで簡易なテーブルが揺れ、麦茶の紙コップが転倒。近くにあった女性のスマホがびしょびしょになってしまったのです。これには女性も大慌て。パニック状態でテーブルのティッシュを鷲掴みにしてスマホを拭きはじめたのです」
◆女性は半泣き状態に
冷静になった男性がスマホを拭くのを手伝っていると、女性は伊吹さんをグッと睨みつけ、「お前が麦茶なんか淹れるからだ! 頼んでもないのによぉ!」「壊れてたら弁償しろよ!」「だいたい、こんな近距離でレッカー代を請求するとか詐欺」などと言いはじめたのだ。
「さすがに『これって、僕が悪いの?』とイラっとしましたが、これには男性も思うところがあったのか、『いい加減にしろ!』とブチ切れ。女性の腕を掴んで座らせました。さすがの女性も驚き、そのあとは終始無言。女性は半泣き状態になっているし、最悪でした」
レッカー代や修理費は男性が支払って2人は帰って行ったが、嫌な気持ちがズーンと広がったとか。それ以降、困っている車を見かけても声をかけることはなくなったという伊吹さん。迷惑な行為は、親切心も削ぎ落してしまう悲しい行為。私たちも気をつけたいものだ。
<TEXT/山内良子>
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意