AIの登場は世の中を大きく変化させ、その関心は日々高まっているが、競馬界においてもAIの分野で挑戦している企業がある。それが競走馬管理クラウド「EQUTUM(エクタム)」を開発する株式会社ABELだ。AIを活用して「凱旋門賞を勝ちたい」と豪語するのが同社の大島秀顕代表取締役である。AIを導入することでレース選択にも変化があると語る。
──AIを活用することでレース適性はより分かるようになるのでしょうか。
「はい、適性への理解はどんどん上がると思います。これまではまずは血統データを元に選択されてきましたが、皆さんが一番気にされているのはデビューの距離だと思うんです。芝とダートというのはある程度配合の時点から意識していると思うのですが、いざ走らせるときに『距離はどうしようか?』という悩みは結構あると思います。
そういったときに血統は長距離向きだけど、データを見る限りマイルもきついかもしれないという馬も少なくない。そういったことを事前に把握することで、デビュー戦の大きなミスマッチがなくなる可能性がかなり高まります。限られた期間にまずは1つ勝ち上がることが大事な競馬で、これは大きなアドバンテージだと思います。
また、デビュー後もこれまでは調教師の目や、乗り手の感覚を頼りに模索していたところを前後のデータがきっちり分かっていれば、感覚とデータを掛け合わせて1レースでも早く得意なところで走らせることができるようになりますね」
──暑い時期、寒い時期の得意不得意なども分かるのでしょうか。
「分かりますね。いいコンディションかそうじゃないかは調教のときに必ず何かしらの差が出ます。今でいう『息の入り』という言葉がありますが、言い換えれば心臓がどのくらい早く戻るかということ。その戻る数値が夏の間は悪いなどといったことが出てくる。一方で季節に全く左右されない馬もいて。そういう馬は夏に強かったりしますね。そういった感じで狙う“季節”も判断できるかなと思っています」
──怪我の予防という点ではどのようにデータを活用されるのでしょうか。
「ちょうど今トライしていることがあります。それは馬のカルテを電子化したいなと思っているんです。いまはどの馬がどこをどういった怪我をした、という情報が紙でまとまっていることが多いんですね。ちょうど『ホースノート』という新しいサービスもリリースしたのですが、そういった電子の健康手帳のようなものを作って管理していければと思っています。
それを作ることでその馬の怪我の履歴などはもちろん、例えば跛行した馬のデータがたくさん集まってくれば怪我をする馬の傾向も見えてくる。そうなれば予防はもちろん、早期発見にもつながっていくかなと思っています。
また、事前のデータを獣医師が把握できれば、これまで厩舎に呼ばれてから行くでは手遅れだった怪我を、その兆候を見つけてあらかじめ診察するという流れが作れると思っています。予防ができたという証明ってすごく難しいですが、事前の策を打っていって怪我の症例がどんどん減っていったらいいなと思っています」