いつから夫がうっとうしくなったのだろう
「先日、私と子どもたちが食事をしているところへ夫が帰ってきたんです。その瞬間、私、心の中で『うわ、邪魔くさ』『帰ってくるな』と思ってしまった。直後、私はいつからこんなに夫に冷たい気持ちを抱くようになったんだろうと、我ながら愕然としたんですよ」笑うしかないという感じで口角を上げながらそう言ったのは、ユイさん(44歳)だ。1歳年上の夫との間に、13歳と10歳の子がいる。今年の夏、結婚15周年を迎えた。夫はメーカーの正社員、ユイさんは契約社員として働いているが、ご多分にもれず、家事育児は9割方、ユイさんが担っている。
「悪い夫じゃないんですよ。収入も明細を見せてくれるし、小遣い制で文句も言わない。たまに足りない時はお願いって手を合わせたりするけど。子どもたちにはいい父親だと思います。それなのに、なぜ私は邪魔くさい、帰ってこないでほしいと思ったのか。自分でもショックでした」
夫の肉体の存在感そのものが不快
子どものことはもちろん、無条件に愛している。こんなに愛おしい存在がこの世にあるなんてと日々感じている。たまに憎らしいことを言うこともあるが、それも成長の証だとユイさんは受け止めている。「ごく普通の家庭ですよね。それなのに、なぜか夫のことだけは日々、うっとうしくなる。上の子が小さいころ、熱を出して苦しんでいるのに、どんなに起こしても夫が起きなかったことがあるんです。仕事が忙しくて2晩くらい寝てなくて、夫も大変だったんだとあとで分かったけど、起きない夫に困り果てて、私、救急車を呼んだんです。
そうしたらやっと起きて、救急車なんて呼ぶなと怒りだして。でも救急隊員の方が、子どもの様子を見て、すぐに搬送しましょうって言ってくれたんです。あと少し遅かったら、子どもの命は危険だったかもとあとで言われました」
その時は夫も涙を流して「ごめん」と謝った。下の子の時は、まずは子どもの健康が第一だと注意深く見てくれた。それなのに、上の子の時のある種の恨みは、今もユイさんの心に残っている。
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夫の肉体の存在感そのものが、ユイさんには非常に不快なのだという。
夫のことを嫌いというわけではない
夫との会話は嫌なわけではないとユイさんは言う。揚げ足をとったり言葉尻をとらえて嫌みを言うタイプではない。どちらかといえば「単純なので」、対話が深まらない傾向はあるが、ネチネチされるよりはずっといいそうだ。「自分で自分が分からなくなって、私は男嫌いになったのかと実家に行ってみたんです。実家は弟が離婚して出戻っていて、たまたま弟の友達も来ていた。でも身内と赤の他人と認識しただけで、快も不快もない」
親友に、こっそりその話をしてみると「なんとなくわかる気がする」と言われた。
「彼女が言うには、『夫は赤の他人と身内の中間くらいなんじゃないの? 夫は家族だけど身内じゃないって思ったこと、私もあるよ』と。そういうことなのかなあとその時は思いましたが、真相はわかりません」
やんわり拒絶を続けて完全レスの状態
ここ5、6年は夫とは完全にレスの状態が続いてもいる。それも彼女からやんわりと拒絶を続けたそうだ。夫は納得はしていないようだが、襲ってくることはないという。「触れられるのが嫌なんです。でも会社の若い男性と冗談でハグした時は、とても気持ちが癒やされました(笑)。やっぱり私がおかしいのかなと思う」
親友には、「どうしても夫と同じ部屋の空気が吸えなくなったら、その時考えればいいんじゃない?」と言われたそうだ。
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「夫のこともわからないけど、それ以上に自分の気持ちがつかめない。別れたいほど嫌いなわけじゃないけどどこか不快。そんなことってあるんでしょうか」
人の気持ちは複雑で難解である。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))