教員の業務は多岐にわたりますが、特に気を配らなければならない業務が成績表の作成です。
子どもたちも保護者も、成績表の内容を気にしているため、内容にはかなり気を遣って作成しなければなりません。最近では成績表に関するトラブルが話題となり、多くの教員がその苦労を訴えています。
この記事では、教員の成績処理に関する現状と、その背後にある課題について、元小学校教員である筆者が自身の経験も踏まえながら考察します。
◆教員にとって大きな負担となる成績表作成
成績表の内容は「評定」と「所見」です。「評定」は教科ごとの達成度を5段階や3段階で表したもので、観点別の学習状況「A・B・C」と併せて評価することが多いです。
「所見」は子どもたちのがんばりを、先生のコメントとして記載します。評定も所見も、学期における子どもたちの学習の成果を総合的に判断するものであり、作成には多大な時間と労力が求められます。
評定は、テストの点数や発言の回数などの単純な数値のみで決まるものではありません。学習意欲や発言の内容も評価対象になるので、教員は授業中、メモを取りながら子どもたちの学習の様子を評価します。
所見は、一人ひとりの学習状況や成長を保護者に伝える役割を果たします。そのため、正確で包括的な所見を作成することが求められますが、これが結構大変です。学習状況や行動を日々観察し、授業中や授業の合間にメモしておいて、それをもとに所見を作成します。
ただ、教員の業務量はかなり多く、現実的には所見作成を勤務時間内に完了させることはほぼ不可能と言ってもいいです。
多くの教員が定時後や休日に時間を割き、所見の作成に取り組んでいます。この時間外労働に対する対価は支払われていません。特に、年度末や成績表の締切が迫る時期には徹夜で作業をする教員も多く、その負担は非常に大きいものです。
◆成績処理期間中の対応は学校によって異なる
一部の学校では、成績処理期間中は子どもたちを早めに下校させて成績処理の時間を確保したり、所見の項目を精選したりするなど、教員の負担軽減を図る取り組みもなされています。
高学年であれば、専科(音楽、家庭科などに専任で入ってくれる先生)からコメントをもらうことで、担任の負担を減らすなどの工夫もしています。
私が勤務していた学校では、成績処理期間中、子どもたちは給食を食べた後下校していましたし、所見の項目は「総合所見」のみでした。
成績表の書式や項目は学校ごとに違い、最終的には校長が決定します。
友人が勤務していた学校では、「学習所見」「道徳の所見」「外国語活動の所見」「総合的な学習の所見」をそれぞれ別の枠で書かなければならなかったため、成績処理期間中は毎日、日付が変わるまで作業していたそうです。このように、学校ごとに対応が異なるのが現状です。
◆「地獄のような忙しさ」と形容される学期末
さらに、評価そのものも慎重に行われます。例えば、「C」を付けるのは結構勇気がいります。
公平かつ適切な評価をしなければなりませんが、小学校であれば学級担任はその子のがんばりをずっと間近で見ていますので、あと一歩足りなくても「努力点」をあげたくなってしまいます。
でも評価基準に照らし合わせ、公平な評価をしなければなりません。この過程で感じるプレッシャーやストレスも大きかったです。
加えて、成績表作成は学期末に行われるため、他の学期末業務と並行しなければなりません。
会計処理、卒業式など行事の準備、委員会やクラブ活動の引き継ぎなど、日々の業務が山積している中で、成績表作成に集中する時間を確保するのは容易ではありません。特に2・3月は、年度末に向けた様々な準備が重なり、「地獄のような忙しさ」と形容されることもあります。
◆成績表が原因で生まれるトラブル
時間がない中一生懸命成績表を作りますが、ここでもトラブルはつきまといます。
例えば、保護者が成績表の内容に納得いかない場合、クレームや問い合わせの対応に追われることになります。
「なぜこのような成績を付けたのか」「他の生徒と比較して不公平ではないか」といった具体的な質問が寄せられることがあります。このような質問にも答えられるように、評価の根拠を提示できる状態にしておかなければなりません。
成績表に誤りがあった場合も大変です。一文字の誤りでも、「誤記載」になってしまいます。
成績表に関するトラブルが発生する背景には、教育現場の労働環境が関係しているのは明らかです。教員は多忙な日々の中で成績表を作成しており、時間やリソースが十分に確保されていません。このような状況では、ミスが生じる可能性が高まりトラブルの原因となります。
◆成績表の“あり方”を工夫して成果が得られたケースも
近年、一部の学校では成績表の様式や項目を簡略化する取り組みが進められ、結果としてトラブルが減少するケースもあります。
例えば、所見を省略して評定だけを記載し、その代わりに保護者との面談で子どもの姿を丁寧に伝える時間を設けるなど、コミュニケーションの質を高める工夫も行われています。
成績表は、子どもたち一人ひとりの学びや成長を評価し、次のステップにつなげるための大切な資料です。そのため、教員の負担を軽減し、より効率的かつ正確に作成できる環境を整えることが求められています。
成績表の簡略化やICTの積極的な活用、労働環境の改善、そして保護者との連携強化が必要です。教員が健康で働きやすい環境を作り出し、教育の質を高めることも可能になります。
◆教員の声に耳を傾けた施策が求められる
さらに、社会全体が教員の労働環境を理解し、支える姿勢をもつことが重要です。
教育現場の改善は、子どもたちの未来に直結する問題であり、皆が共に考え、行動することが求められています。
教員の声に耳を傾け、その声を反映した施策を実行することで、教育の質も向上するでしょう。この記事が、教員の労働環境の課題解決に向けて考えるきっかけになれば幸いです。
【あや】
勤続10年の元小学校教員で、現在は民間企業人事部に勤める。会社員・副業ブロガー・Webライターの三刀流で働きながら、教員の転職・副業・働き方改革について発信中。「がんばる先生を幸せにする」のがモットー。X(旧Twitter):@teach_happiness