【横浜家系ラーメン&モツ煮定食】王道絶品家系ラーメンと衝撃のモツ煮をダブルで堪能:パリッコ『今週のハマりメシ』第167回

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2025年01月04日 12:01  週プレNEWS

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小田急相模原「町田家」のラーメン&モツ煮定食

ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

【写真】しっかりと煮込まれたモツ煮

* * *

正月に家族で妻の実家へ帰省した。

世の中には家族の数だけ帰省の形があるのだろうが、ありがたいことに、僕の場合はわりと気軽なスタイルでやらせてもらっている。妻のご両親は人間のできた良い人たちだし、ふかふかのふとんや絶品の食事は用意してもらえるし、加えて、日中の娘の相手を喜んでしてもらえるのがありがたすぎる。

重ねてありがたいことに、家族は僕の「見知らぬ街を徘徊するのが好き」という趣味と、「その街でふらりと飲み食いすることが仕事の糧になる」という特殊な事情に対し、一定の理解を示してくれている。ゆえに、毎度帰省するたび、ひとり自由時間を、しばし気ままに過ごさせてもらえるのだった。

妻の実家は神奈川県だ。今回も買いものがてら、いくつかある近場の駅のうちのひとつ、小田急線の小田急相模原駅前まで散歩に出てきた。とはいえ、時間は中途半端で午後2時ごろ。しかも1月2日という、基本的に誰もができれば働きたくなんかないタイミングだ。以前この連載でも取り上げた名店「ギョウザの萬金」をはじめ、個人経営の飲食店はたいてい正月休みをとっていて、そりゃあ当然だ。


小田急相模原の街は、駅周辺自体は適度に栄えていつつ、節々に僕の好きな昭和っぽい味わいも見てとれ、ものすごく好みの空気感。夜に飲みにきたら楽しいハシゴ酒ができそうだ。


と、ダメもとで駅前エリアをふらふらしていたら、ひとつ気になる営業中の店を発見。南口の駅前すぐにある「町田家」というラーメン店だ。看板には「究極ラーメン町田家」とある。


まず第一に、こんな日に営業をしてくれていること自体が嬉しい。そして今日は、朝からなかなかに混んだ道をえっちらおっちら車でやってきたから昼メシも食べそびれているし、頭もぼーっと疲れはじめている。がっつりとラーメンを食べるにはいいタイミングだ。しかもよく考えたら、2025年の初外食。ラーメンは景気が良くておあつらえ向きな気がする。

それに加えてだ。この店は、本場神奈川県のご当地ラーメン「横浜家系ラーメン」の店であるらしい。そういえば近年、同名のチェーン店が世の中に増えまくっている気がするが、ここはどう見ても、ちょっと雰囲気が違う。名前が偶然同じなだけの別の個人店か、それとも、本店やルーツとなった店的な存在か。というか、こざかしい理由などこねくり回す必要はない。気になる。他に選択肢がそう多いわけでもないし、入ってみよう。

店内へと続く扉をからりと開けた瞬間、思わず顔がほころんでしまった。入店して左側が細長い厨房。その前が長〜いカウンター。右側の壁際も同様のカウンター。そこに、こんな時間だというのにびっしりとお客さんがいて、みなストイックにラーメンをすすっている。店内にはアニメグッズやレコードなどが所狭しとディスプレイされ、そして充満するかなりのとんこつ臭。クセがあって、すごくいい。

メニューは、「ラーメン 並盛」の税込850円から、「チャーシューメン 大盛」の1250円まで。他に「辛ラーメン」「魚介豚骨」「梅豚骨」「特濃醤油」「つけ麺」、それから、この支店だけの名物だという「豚野郎」なんてのもある。トッピングもいろいろ。

そのなかで僕が気になったのは、ひときわ異彩を放つ「モツ煮定食」(1200円)だ。内容は、ラーメンの並におかわり自由のライス、そこに、もつ煮込みがつくセットらしい。なぜ、モツ煮? 

しかも正直、いくら腹ペコ状態とはいえ、僕のふだんの食事量からしたら、ラーメンとライスでじゅうぶんすぎる。けど気になる。一度気になってしまったら最後、頼んでみないわけにはいかない。それと「ビール」(350円)で、決まり!

缶ビールにキンキンに冷えたグラスがついてくる、とても好ましいスタイル。このグラスを持ち上げた瞬間、思わずほほえんでしまった。というのも、絶対にガラス製だと思っていたそれが、なんとプラスチック製だったから。酒場歴もずいぶん長くなるけど、プラのコップを冷やして出している店には初めて出会ったかもしれない。

実際にビールを注いで飲んでみると、当然ながらガラスほどの冷たさはない。すぐ常温に戻る。しかし、それでも冷やしてくれる。その心意気が嬉しいし、届いた瞬間の視覚効果はきちんとあったのも事実。そして、こういう小さなポイントこそ、僕がそのお店を大好きになってしまう理由だったりするのだ。すでに忘れられない店になってしまったぞ、オダサガの町田家。

続いて、19時まで無料、かつおかわり自由だというライスを、カウンターによそいにいく。僕は家系ラーメンに詳しいわけではないけれど、濃い味のラーメンやスープ、チャーシューなどをおかずにごはんを食べるのが定番だとは聞いたことがあり、ぜひともやってみたい。


続いて、まずはもつ煮込みがやってきた。大ぶりのおわんにたっぷり。もうこの時点で、完全に昼食として成り立ってしまっているボリュームだ。箸で確認してみると、こんにゃくやねぎなどとともに、豚もつがごろごろと入っている。


さて、家系ラーメン屋さんのもつ煮込みはどんな味? と、まずはつゆをひとすすり。すると、これがかなり衝撃的。まず、みそ仕立てのとろとろ濃厚スープに、豚もつを長時間煮込んだからであろう旨味が飽和している。しかもそれだけではなく、そこに魚介系(魚粉?)と思われる香りと風味が、ものすっごく効かせてある。言ってみれば、豚と魚介のダブルスープだ。それがふわふわのもつや野菜に絡み、唯一無二の美味を生み出している。

こんなもつ煮込みは初めて食べた。そして、なぜこの味が他にないんだ? ってくらいうまい。きっと、ラーメン作りの方法論があったからこそ生まれた一品なのだろう。いや、違ったら面目ないけど、そんな想像も楽しいモツ煮。年始から嬉しすぎる出会いだ。

当然、ビールにもごはんにも合いすぎる。ラーメンが届く前に、思わず1杯目のごはんを食べきりそうになってしまい、胃の容量を考えてセーブしつつ。


そしてラーメンが到着。うんうん、そうそう、この感じ。僕のイメージする家系ラーメンそのものだ。


ちなみに、料理が届くまでの間、せっかくなので家系ラーメンについてをスマホで調べておいてみた。 家系ラーメンの源流は、1974年に創業した「吉村家」。特徴は濃厚なとんこつ醤油スープと太めの中華麺。基本のトッピングは、チャーシュー、ほうれん草、海苔。多くの店では、麺の硬さ、味の濃さ、油の量を好みに応じて調整してもらうことができる。

その他にない美味しさから、吉村家からのれん分けや派生が広がっていき、本家をリスペクトして、名前に「〇〇家」とつける店が多かったことで、"家系"と呼ばれるようになった。

現在は吉村家とは関係なく"家系スタイル"のラーメンを提供する店やチェーン店も多く、僕がさっき関連があると勘違いしたのは、近年店舗が増えまくっているチェーンの「町田商店」という店で、ここ町田家とはまったく無関係のようだ(すみません)。

ちなみに町田家は、平成8年開業。町田、新百合ヶ丘、新宿南口、小田急相模原の4店舗で営業する小規模チェーン。店内にあった麺の木箱に「酒井製麺」とあり、これは基本的に吉村家の派生店にのみ卸されている麺だそうで、つまり正当な流れをくむ店であると思われる。

以上、にわか知識でした。そんなことより、ラーメンラーメン!


ちなみに僕のオーダーは、麺普通、味普通、油多め。まずはスープをすすると、うわー、こりゃうまい......。店内に充満している香りから想像するよりもずっと上品というか、爽やかさすら感じる味わいでありながら、しっかりと豚の旨味に満ちている。どういう調理工程を経るとこんな味が出せるんだろうか。醤油だれによる塩気も絶妙で、それを若干平打ちの、太め短めのぷりんぷりんの麺に絡めて思いっきりすする。たまらない。すかさず白メシをばくばく。もはや、快感で脳がショートしそうだ......。


しばらく無心ですすり、身も心も満足しはじめたところで、残りの麺が1/3ほど。ここで卓上のにんにく、コチュジャン、ごま、コショウなどを思いきって加え、味変も楽しんでおこう。もちろん、徐々に味の変わる具材やスープをごはんに合わせながら。このストーリー性もまた、家系ラーメンの魅力なのだなと実感する。


今まで食べたことがなかったわけではないけれど、今日ほど真剣に家系ラーメンと向き合ったのは初めてだった。そして、一気に大好物のひとつになってしまった。今日、町田家と出会えて良かった。

とはいえ、まだまだ初心者が入り口に立ったばかり。この先には広大な"家系ラーメン大陸"が広がっていて、これから自由に探索できるなんて、人生ってなんて楽しいんだろうか。

この1食を新たなる起点として、2025年も良いハマりメシにたくさん出会えますように。

取材・文・撮影/パリッコ

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