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MIXIが2024年12月16日に提供を開始した新しいSNS「mixi2」が、サービス開始から5日で登録者数120万を突破、好調な出だしを見せている。初代「mixi」から20年余りが経過した現在、なぜMIXIは新たなSNSにチャレンジするに至ったのか、これまでの経緯を振り返りつつ今後を占ってみたい。
●ゲーム会社が提供するSNSが突然人気に
スマートフォンゲーム「モンスターストライク」などのスマートフォンゲームや、「千葉ジェッツふなばし」「FC東京」などのプロスポーツチームを有し、デジタルを活用したエンタテインメント事業を主力としているMIXI。だがそのMIXIが2024年12月16日、突然新しいスマートフォン向けSNS「mixi2」を提供開始して大きな評判を呼んでいる。
mixi2について簡単に説明しておくと、「X」に代表される短文のテキストを主体としたSNS。フォローしたユーザーの投稿が時系列に表示される比較的スタンダードな仕組みである一方、特徴的な要素もいくつか備えている。1つは感情を表現する「エモテキ」や、スタンプで反応を示す表現する「リアクション」など、感情表現に重点を置いている点だ。
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2つ目は、複数の人が共通のテーマに沿って交流できる「コミュニティ」の存在。友人同士や趣味の仲間などで集まってコミュニケーションを楽しむことに重点が置かれている点は、「Facebook」など短文主体ではないSNSや、「LINE」などのメッセンジャーアプリに近しい部分もある。
そして3つ目が、招待制の仕組みを採用していること。知り合いから招待してもらわないと登録ができないので誰でも始められるわけではなく、そもそも18歳未満は利用禁止と定められている。
こうした内容を見ると、mixi2は一定の差異化が図られているとはいえ、他のSNSと比べ際立った特徴があるわけではない。だがそれでもmixi2は提供開始当初から非常に大きな注目を集めたようで、サービス開始から5日間で120万を超える登録者数を獲得している。
●初代「mixi」とはどのようなサービスだったのか
なぜそれだけmixi2が注目されたのかといえば、mixiの存在があるからに他ならない。そもそもMIXI、以前の社名であるミクシィはSNSの大手企業として知られ、およそ20年前の2004年に提供開始したSNS、mixiが主力のサービスだった。
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そのときのmixiの特徴に挙げられるのが、1つに招待制を採用し、18歳未満の利用を禁止していたこと。後にこうした制約はなくなっていったが、mixiを早くから利用していた人には招待制・18歳未満禁止のSNSというイメージが強いことだろう。
2つ目が、誰が自身のページを訪問したかが記録される「あしあと」機能の存在であり、現在でいえばLINEなどの「既読」がそれに近いものといえる。足あとは誰が自分のページをチェックしているかを知ることができる、無言のコミュニケーションとなる一方で、既読機能と同様にコミュニケーションを縛り、利用者にストレスを与えていた部分もあり、一時姿を消すなど紆余(うよ)曲折をへた機能でもある。
そしてもう1つ、大きな特色となっていたのがコミュニティだ。mixiは現在もサービスを継続しており、その継続利用につながっているとみられるのが、mixiのコミュニティを通じて趣味や共通する目的を持った仲間と培った関係性である。そうしたことを考えれば、強いコミュニティの存在こそが現在のmixiの主力機能と見ることもできるだろう。
これら特徴を見れば、mixi2は新しいSNSとはいえ、初代mixiをかなり意識して設計されていることが分かる。他のSNSでは採用されなくなった招待制をあえて採用し、身近な人同士のつながりに重点を置きつつ、コミュニティ機能を当初から用意してグループでのコミュニケーションを促進することで、mixiに近いコミュニケーション環境を現代にマッチした形で提供しようとしている訳だ。
一方で、足あとに類する機能は現在のところ盛り込まれていないようだ。足あとはmixiを代表する機能だったが、先にも触れた通りユーザーのストレスにもなり得る存在だっただけに、SNSに対するストレスが増えている現在の状況では盛り込みにくかったのではないかと考えられる。
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●なぜmixi“2”である必要があったのか
ただ、それならばmixi2を新たに立ち上げるのではなく、既存のmixiを大幅にリニューアルして強化を図る手もあっただろう。MIXIがそうした手段を取らなかったのはなぜかといえば、mixiが現在も継続しているサービスだからこそではないだろうか。
mixiはもともとPC向けとしてサービスを開始したが、インターネットを活用するプラットフォームの変化の波によって存在感を大きく失っていった。実際、NTTドコモの「iモード」などフィーチャーフォン向けインターネットサービスが人気となった2000年代後半から2010年代初頭にかけては、フィーチャーフォン向けに注力したディー・エヌ・エー(DeNA)の「mobage」やグリーの「GREE」に押され、当時人気だったソーシャルゲームの分野では両サービスの後手に回ることとなった。
さらにスマートフォン時代に入ると、「Facebook」「Twitter」「Instagram」といった海外発のSNSが日本でも人気を博すようになり、コミュニケーションに主軸を置いており、これらSNSとユーザーの重複が大きかったmixiの存在感が急速に失われてしまった。その一方で、MIXIは2013年に提供を開始したモンスターストライクが大ヒット。以後事業の軸足をゲームなどに移すこととなった。
そうした経緯から、mixiに対する世間の関心は大きく失われていったのだが、一方で強固なコミュニティを形成していたこともあり、mixiはその後も長くサービスを継続している。それだけにユーザーの多くは現在のmixiに愛着があり、大きな変化を望んでいない可能性が高い。
ゆえにMIXI側もmixiの内容を劇的にリニューアルすればマイナス要素が伴うと判断、いっそmixiの要素を取り入れた新しいSNSを立ち上げた方がよいのではないか、という判断が働きmixi2が登場するに至ったのではないかと考えられる。
●「X」だけではない、既存SNSが抱える不満と混乱
そして現在のタイミングでmixi2をリリースしたのはなぜかといえば、やはりここ最近のSNS、とりわけXを巡る混乱が少なからず影響しているだろう。Xは実業家のイーロン・マスク氏がTwitterを買収して名称を変更したサービスであることは多くの人が知るところだが、Xとなって以降サービスが大きく変化し、荒れたコミュニケーションも増えるなど混乱が強まっている。
それゆえ、Xと同様の短文コミュニケーションを求めながらも、Xに不満や不安を抱くようになった人達が増えており、その受け皿となるべくここ最近、新しいSNSが増えている。主なものとしては、米メタがInstagramをベースに展開した「Threads」や、Twitterの共同創業者だったジャック・ドーシー氏が立ち上げた(その後離脱)「Bluesky」などが挙げられる。
mixi2も短文によるコミュニケーションに重点を置いていることから、やはりXに不満を抱く人の受け皿として提供されたサービスの1つと見ることができよう。だがMIXI側の発表内容を確認すると、もう1つ、既存のSNSに対する不満を解消したい狙いもあるようだ。
それは既存SNSの多くが、レコメンド主体のサービスになってきていること。以前のSNSは、フォローした友達の投稿が時系列に表示されるシンプルな仕組みのものが多かったが、最近ではSNS各社がレコメンド機能を強化しており、レコメンドエンジンが上位に表示する内容を決めるようになってきている。
だがそれは必ずしもユーザー同士のコミュニケーションにつながるものではなく、MIXI側の説明によると、レコメンドによってSNSのニュースメディア化が進んでいるという。そうしたことからコミュニケーションというSNSの原点に立ち返り、日々の出来事を投稿したり、身近な友達などと交流しやすくしたりすることを目的として、mixi2が提供された側面も強いようだ
●定着してもビジネスや社会的課題が多いSNS
そのmixi2が登場したのが、Xの仕様変更による混乱が一層強まり不安を抱く人が増えたタイミングであったこと。そして30、40代以上に抜群の知名度を持つmixiのブランドを冠したサービスだったこともあって、mixi2がうまくロケットスタートを切ることができたことは確かだろう。
だがその勢いが今後も続くかどうかは分からない。かつての「Clubhouse」のように、一時期大きな話題となりユーザーを集めたが、その後急速に関心が薄れ注目されなくなったコミュニケーションサービスは多く存在する。mixi2が多くの人に利用され、真に定着するかどうかはまだ予断を許さず、当面見極めが必要だろう。
また、サービスが多くの人に定着したからといって、それで安心というわけでもない。SNSは大きなユーザー基盤を抱えてもなお、その上でビジネスを展開し、収益を高めるのは非常に難しいからだ。
実際Twitterは、利用者数を大きく伸ばすことはできたがビジネス面で課題が多く、赤字体質が続いていた。それがイーロン・マスク氏による買収につながった側面も否定できず、買収直後にコスト削減のため、多くの社員を解雇したことでも注目を集めていた。
一方で、SNS最大手のメタは広告を主体として大きな収益を挙げているが、それは先にも触れたレコメンドを広告に活用している部分も多く、利用者の不満にもつながっている部分も少なからずある。加えてFacebookやInstagramなどでは2024年、国内で有名人のなりすまし詐欺広告が多数表示され大きな社会問題を招いた上、メタ側の対応の遅さから日本政府が動く事態に至るなど、ビジネスの先鋭化が社会問題を引き起こすケースも見られるようになってきた。
それゆえ、mixi2が人を集めた後、どうやって収益化していくのか? という点は非常に大きな課題となってくるだろう。収益化への注力によって居心地の悪い場所となってしまえばたちまちユーザーは離れてしまうだけに、非常に難しい判断が求められる所ではないだろうか。
そしてもう1つ、mixi2にとって大きな課題となりそうなのが18歳未満の未成年ユーザーの扱いだ。世界的にも未成年のSNSを巡るトラブルは増加傾向にあり、オーストラリアでは未成年のSNS利用を禁止する法案が提出されるなど、SNS運営会社側が社会的批判を大きく受ける状況にもなっている。
それだけにSNSで未成年のユーザーを扱わないことは、企業にとって不要なトラブルを避け、リスクヘッジとなり得ることでは確かだ。だがmixi2がユーザーの規模を求められるにつれ、その姿勢を維持できるかは分からない。
実際、mixiでは環境変化や競合の台頭によって18歳未満の規制を撤廃した過去もある。将来的な話にはなるだろうが、未成年を巡るMIXI側の判断も、今後大いに関心を呼ぶ所ではないだろうか。
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