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2025年01月05日 12:10 ITmedia PC USER
ここ数年で、大きなトピックとなりつつある“AI PC”。Microsoftが「新しいAI PC」として「Copilot+ PC」を定義し、要件を満たしたPCでは、Windows 11で新たに追加された(される)さまざまな機能を利用可能だ。
新しいAI PCおよびCopilot+ PCの要件を満たす40TOPS以上のNPUを統合したプロセッサは、QualcommのSnapdragon Xシリーズが先行したが、AMDからはRyzen AIシリーズが、IntelからもCore Ultra シリーズ2が発表され、それぞれの搭載機が登場している。
AI PCに注力する日本HPは、3種それぞれのプラットフォームを採用したAI PCを発売済みだ。今回それらを借用することができたので、3回に渡って比較検証していく。最終回となる今回は、バッテリー駆動時間や放熱性能のテストを実施するとともに、AI PCならではの機能を紹介しつつ、まとめていこう。
●3モデルのスペックをチェック
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まずは、今回取り上げる3モデルのスペック(抜粋)を掲載する。「HP OmniBook Ultra Flip 14-fh」(Core Ultra 7 258V)、「HP OmniBook Ultra 14-fd」(Ryzen AI 9 HX 375)、「HP OmniBook X 14-fe」(Snapdragon X Elite X1E-78-100)の3台について下記にまとめた。
今回はバッテリー駆動時間と動作音などのテストを進めていくが、公称のバッテリー駆動時間、バッテリーレポートで確認した設計容量(DesignCapacity)はそれぞれ異なっている。Qualcomm機が最も長く、次いでAMD機、Intel機の順となっている。AMD機とQualcomm機の画面が2.2K(2240×1400ピクセル)の液晶ディスプレイであるのに対し、Intel機のみ2.8K(2880×1800ピクセル)の有機ELディスプレイを搭載しており、輝度も最大400ニト(他の2モデルは300ニト)と高くなっていることが影響しているのだろう。
●バッテリー駆動時間はQualcomm機が圧勝
バッテリーの駆動時間は、3モデルが共通の条件でテストできるPCMark 10 Applicationsを利用した。バッテリー駆動時の画面の輝度は50%に調整している。
また、Windows 11の電源設定は「最適な電力効率」、離席検知で画面を消灯するプレゼンスセンシングは「無効」、バッテリー駆動時の省電力モードへの移行は「20%以下」で統一。Intel機とAMD機で設定できる「myHP」ユーティリティーのシステム制御設定は「SmartSense」を選択した。
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結果は、Qualcomm機が21時間36分と他の2モデルを圧倒する長時間駆動を見せた。次はAMD機で15時間41分、Intel機は12時間11分だった。Intel機は高輝度/高解像度の有機ELディスプレイであることが響いているのだろう。
●最も静音なのはIntel機
動作音については、CINEBENCH 2024(最低実行時間10分)を使ってアイドル時と高負荷時で計測した。システム設定関連は性能テストと同様で、Windows 11の電源設定は「最適なパフォーマンス」、Intel機とAMD機で設定できるmyHPユーティリティーのシステム制御設定は「パフォーマンス」を選択している。騒音計は本体の手前から5cmの距離に置いた。
アイドル時については、どれもほぼ無音で低負荷時もほとんど気にならないが、高負荷時には差があった。最も静音だったのはIntel機で、高負荷時であっても静かな部屋でなければ気にならない程度の音に抑えられていた。
一方、Qualcomm機とAMD機は高負荷時には明らかに動作音が大きくなった。特にAMD機は外部GPUを内蔵しないビジネス機としては少しピークの音が大きめの印象だ。高いパフォーマンスを発揮できるぶん、冷却の必要性もあるということだろう。
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●Intel機が発熱を抑えAMD機も放熱性能は優秀
次にボディーの発熱、放熱性能を見よう。CINEBENCH 2024実行開始から約10分後のサーモグラフィーをFLIR ONEで撮影した。測定時の室温は約18度だ。システム設定関連は性能テストと動作音テストと同様で、Windows 11の電源設定は「最適なパフォーマンス」、Intel機とAMD機で設定できるmyHPユーティリティーのシステム制御設定は「パフォーマンス」を選択している。
発熱の傾向はIntel機とAMD機が似ており、ヒンジ部からキーボード中央部の奥側にかけて熱を帯びるが、手がよく触れるパームレスト部までは伝わらない。発熱部の最大温度は、AMD機が47.5度に対し、Intel機は39.2度と低かった。
また、Qualcomm機の発熱はボディー左奥が中心となる。ピーク温度は46.3度、パームレスト部は最大で33.2度と体温より低いものの、Intel機やAMD機に比べるとパームレストまで若干熱が伝わってくる。
●新しいAI体験はQualcomm機が先行もIntel/AMDでも実装間近
AI PCがもたらす体験についても触れておこう。Microsoftが定める「Copilot+ PC」の要件を満たしたPCは、Windows 11が標準で提供するローカルAIアプリ(NPUでAI処理を行うアプリ)により、新しいAI体験を得られる。
現状では、Qualcomm機に導入されているArm版Windows 11のみが先行していて、イメージスケッチやテキスト情報から画像を生成する「コクリエイター」や、再生した動画にリアルタイムに翻訳字幕(現状英語のみ)を付けてくれる「ライブキャプション」、カメラの映像にリアルタイムにエフェクトを加える「Windows スタジオエフェクト」にもより高度な効果が加わっている。
さらに、ファイル/画像/テキストなどPC上で見たもの、操作したものを過去にさかのぼって探し出すことができる「リコール」機能も開発者向けのプレビュー版で実装されており、近日正式に実装される見込みだ。
Intel機やAMD機向けのWindows 11ではリコール以外の機能も正式実装が遅れているが、こちらもリコール機能を含めてプレビュー版では実装されており、いずれは使えるようになる。
●AIに積極的にフォーカスする日本H 独自の体験も提供
また、日本HPのAI PCについては、Copilot+ PCの要件を満たすモデルに独自のマーク「HP AI Helix」を付与している。DNAのらせん構造をモチーフとしており、「AIのDNAをPCに組み込む」というコンセプトを表す。
今回取り上げた3モデルを含め、上記のロゴがあるモデルには独自のAIアプリとして「HP AI Companion」(テスト時点でβ版)と「Poly Camera Pro」がプリインストールされている。
「HP AI Companion」は、OpenAIが開発した言語モデル「GPT-4o」ベースのAIアシスタントだ。使いやすいよう「Discover」「Analyze」「Perform」3つのセクションに分かれている。
Discoverは、対話型インタフェースでさまざまな質問に答えてくれる。ビジネス用途やAI関連のトピックがあらかじめ用意されているので使い方の参考になる。
またAnalyzeは、PDFなどのドキュメントファイルの要約や比較が行える機能だ。Performは、ハードウェアモニターと連携し、PCの設定最適化やトラブル解決を助けてくれる機能である。
ちなみに、GPT-4oの無料版は回数制限があるが、現在、HP AI Companionは「HPアカウント」の作成/ログインすれば、回数制限なく無料で利用可能だ。高度なAI機能を追加コストなしで活用できる環境を手に入れられるのは魅力だろう。
●NPUを生かせるオリジナルのローカルAIアプリ「Poly Camera Pro」
HP AI Companionと共にプリインストールされるのが、ビデオ会議向けのカメラ効果ソフト「Poly Camera Pro」も見逃せない。これは、Windows 11標準のWindows スタジオエフェクトと同様、処理にNPUを活用するローカルAIアプリだ。
これを利用することで、背景ぼかしやフィルター、フレーミング調整、透かし表示など、凝った効果をリアルタイムで適用できる。Windows スタジオエフェクト同様にNPUを活用するため、CPUやGPUへの負荷を減らして消費電力を削減可能だ。長時間のビデオ会議でも、PCの性能低下やバッテリー持続時間への影響を最小限に抑えられる。IntelやAMDのNPUの本領をいち早く発揮できるのはうれしいところだ。
●似ているようで異なるAI PCと最新プロセッサ 適材適所で選択を
日本HPから登場したAI PCの3台を横並びで比較してみた。一見、同じHP OmniBookブランドで似たような製品に思える3モデルだが、実際にはかなり性格の異なる製品であり、それぞれのプロセッサの特徴を生かして製品企画されていることが明確になった。
まず、最先端のパッケージ技術と3nmプロセスルールを導入したIntelのCore Ultra 200Vシリーズは、省スペース性と低発熱性に優れており、1kg以下の超薄型軽量クラスや1kg前後の2in1モデルに向いている。フリップタイプのHP OmniBook Ultra Flip 14-fhに使うプロセッサとしてはまさに最適解であり、どのスタイルで運用しても発熱や動作音が気にならず、快適に使える2in1モバイルPCに仕上がっている。
AMDのRyzen AI 300シリーズはパフォーマンス、特にマルチスレッド性能に秀でており、性能重視のビジネスPCやクリエイターPC、ゲーミングPCに向く。HP OmniBook Ultra 14-fdは、薄型ながら大きめのフォームファクターにまとめたパフォーマンス志向のビジネスPCであり、持ち運べる範囲内でその高い性能の恩恵をしっかり享受できる仕上がりだ。
また、QualcommのSnapdragon X Eliteは、Armネイティブアプリに限れば、Ryzen AI 300シリーズに近いパフォーマンを示すとともに、傑出したバッテリー効率も兼ね備える。Armアーキテクチャゆえ幅広い用途で活用するには互換性の不安が付きまとうが、ビジネスや教育などの現場で利用するアプリが限定されているならば、Armネイティブ環境中心に問題なく運用できる現場も少なくないと思われる。
HP OmniBook X 14-feはIntel機やAMD機に比べてコストダウンを図っており、20万円を切る入手しやすい価格にまとまっている。そうした限定的な用途においては、長時間駆動という付加価値を備えた高いコストパフォーマンスな選択肢として浮上する。もちろん、互換性の不安を承知で目新しいArmアーキテクチャと、新しいAIの可能性を体験したい方にも適した製品だろう。
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