東海大相模(神奈川)がベスト4進出――。
そう聞いて、スポーツファンが一番に頭に思い浮かべるのは、甲子園ではないだろうか。しかし、これは高校野球の話ではない。
東海大相模が次に挑む準決勝の舞台は、東京・国立競技場。春夏合わせて5度の全国優勝を成し遂げている野球の名門校は、全国高校サッカー選手権大会に初出場したばかりか、いきなりベスト4まで駒を進めたのである。
「(自分が監督に就任した)2011年を思い出すと、もう誰も信じてくれなかったと思うんですよね、東海大相模のサッカーが国立へ行くなんて。(東海大相模と言えば)野球と柔道じゃないですか。僕は(監督就任の)2年目に選手を連れて国立に(選手権の)決勝を見に行ったんです。こんなところでサッカーをしたら、スゲーだろうなとは思いましたけど、まさか本当になるとは思わなかったです」
笑顔でそう語るのは、東海大相模サッカー部を率いる有馬信二監督である。
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有馬監督が、自身の母校でもある東海大五(現・東海大福岡)から東海大相模へと移ってきたのは、2011年のこと。就任7年目にしてインターハイ(全国高校総体)出場は果たすも、その後も含めて選手権にはなかなか手が届かずにいた。
有馬監督のたとえを借りれば、「中間試験(インターハイ)では点を取れるけど、期末試験(選手権)では取れない。そこが一番の悩みどころだった」。
もともと有馬監督が志向していたのは、パスサッカー。「パスで(相手を)いなしたり、ファーストタッチでいなしたりというところを、僕はずっと追ってきた」。
だが、桐光学園、日大藤沢など、多くの強豪校が居並ぶ神奈川県にあって、それだけで選手権予選を突破するのは難しい。そこで取り入れたのが、フィジカル強化だったのである。
「今年のチームは能力の高い選手がかなりいるので、その選手たちが体を作って、走れて、強度も上がってきたら鬼に金棒だねという話をスタッフとして、監督とコーチが役割分担をしながら、走り込みやウエイトトレーニングをやってきた。それがちょうど丸1年になるんですけど、(1年前の同じ時期に)世間が選手権をやっているときに、彼らはグラウンドで苦しい思いをしていたんで、それが報われてよかったなと思います」
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実際、その効果は試合にもはっきりと表われている。
今大会初戦となった2回戦の草津東(滋賀)戦では、相手に先制されるも、前半のうちに同点に追いつくと、後半アディショナルタイムに決勝ゴールを奪っての劇的な逆転勝ち。準々決勝の明秀日立(茨城)戦でもまた、序盤こそ相手の強度の高いプレーに苦しみ、先制を許したが、そこから2点を奪い返して試合をひっくり返した。
時間の経過とともに足が止まるどころか、むしろ試合の主導権を力強く引き寄せていく戦いぶりは、まさにフィジカル強化の賜物だろう。
「だんだん(選手権の)雰囲気にも慣れて、勝っていくごとに自信をつけて、チームとしても選手としても、まさに伸びている」とは、指揮官の見立てだ。
そもそもピッチに立っているのは、有馬監督が志向するスタイルに共感し、東海大相模を進路に選んだ選手たちである。
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簡単に当たり負けしたり、倒されたりしなくなった彼らは、持ち前のテクニックをピッチ上で存分に発揮。有馬監督曰く、「うちには絶対的なセンターフォワードがいない」が、いわば技術の高いMF的な選手を前線にも並べることで、選手同士が近い距離を保ちながらピッチを広く使ってボールを動かし、相手ゴールに迫っていく。そんな厚みのある攻撃を実現している。
加えて、左サイドバックの佐藤碧が繰り出すロングスローも、今大会注目の飛び道具となっている。
敵陣のなかほどからでもゴール前まで届く飛距離はもちろんのこと、ダイレクトでヘディングシュートを狙えるほどのスピードが出せるロングスローは、プロの試合でもそうはお目にかかれないレベルにある。対戦相手にとっては、脅威以外の何物でもないだろう。
ロングスローについては、「野球部の選手から投げ方とか、スナップの利かせ方とかをいろいろ聞いているようで、かなり飛ぶようになった」(有馬監督)というのだから、まさに東海大相模ならでは武器と言えるのかもしれない。
東海大相模の代名詞とも言うべき野球部も、昨年夏の甲子園では準々決勝敗退のベスト8止まり。対してサッカー部は、顔役をも上回る快進撃を続けている。
意気上がる東海大相模が準決勝で対戦するのは、選手権での優勝経験を持つ流通経済大柏(千葉)だ。高校年代の最高峰リーグ、プレミアリーグEASTで今季4位となった強豪校は、3回戦で今大会の優勝候補筆頭、大津(熊本)を2−1で下して勝ち上がってきた。
それでも、「ヤバいですね。バレるまで12人でやろうかな」とジョーク交じりに話す有馬監督からは、臆する様子はうかがえない。
「立ち向かっていくしかない。逃げてもしょうがないんで」
少なくとも、夢だった大一番を楽しみにしていることは確かだろう。
高校野球界を代表する全国屈指の名門校が、今度は舞台をサッカーに変え、また新たな歴史を刻もうとしている。