鍵谷陽平インタビュー 全6回(3回目)
インタビュー#2>>鍵谷陽平が明かす引退セレモニーの舞台裏
2012年、中央大からドラフト3位で日本ハム指名されプロ入りした鍵谷陽平氏。同年のドラフトで1位指名されたのが、花巻東高の大谷翔平選手(ドジャース)だった。前例のない"二刀流"に挑戦する大谷選手をどう見ていたのか。また鍵谷氏と大谷選手との知られざるエピソードとは?
【みんなで二刀流をバックアップしよう】
── 2012年にドラフト3位で日本ハムに入団。1位が花巻東高の大谷翔平選手でした。
鍵谷 そうです。
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── その大谷選手ですが、投打"二刀流"に挑戦するという触れ込みで日本ハムに入ってきたじゃないですか。
鍵谷 「本当にできるのかな?」とは思いました。とにかく前例がないことなので、どうやってやるんだろうと興味深く見ていました。
── 大谷選手を初めて見たのは自主トレですか?
鍵谷 入寮日が一緒だったので、すぐその日に軽く練習しました。接していくうちに「(二刀流を)できる、できないじゃなく、みんなでバックアップしよう」と。それが選手たちの共通認識になっていきました。みんなにそう思わせる翔平の人柄、キャラクターはやっぱりすごいですよね。
── 練習する大谷選手を間近で見て、どんな印象を受けましたか?
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鍵谷 高校を卒業したばかりだったので、ピッチングは抑えめだった印象があります。でも野手のほうの練習はガンガンやっていました。その時は今みたいにホームランをバンバン打つというより、体を柔らかく使ってうまいなというイメージでしたね。一軍のピッチャー相手でもふつうに対応するし、「すげぇな」というのは強く残っています。
── そして大谷選手は、18歳で開幕スタメンを果たしました。
鍵谷 当時、西武のエースだった岸孝之さん(現・楽天)からヒットを2本打ちました。「こいつマジで?」と思って見ていました。
── 何か覚えている大谷選手のエピソードはありますか?
鍵谷 覚えているのは、遠征先でコンビニに行ったことですね。翔平は注目されているし、出待ちのファンもいたりして、外に出られないんですよ。それを案じて、栗山(英樹)監督からは「頼むね、翔平のこと。面倒見てやって。何もわからないから」と言われていたんです。
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たしかロッテ戦だったので幕張に宿泊していて、翔平が「コンビニに行きたいんですけど、どこにあるかわからないし、どう行けばいいかわからないんで、鍵谷さん、一緒に行きましょう」と言うので、「わかった、いいよ」と。ただ、正面から出ると出待ちのファンがいると思って、「このホテルは2階から通路を渡って降りれば、ファンに会わずに行けるから大丈夫だよ」と言うと、翔平は何て言ったと思います?
── え、なんだろう?
鍵谷 あいつ「いいSPですね」って(笑)。「うるせえ!」って返しましたけど。それは今でもめちゃくちゃ覚えています。翔平って、茶目っ気があるんですよ。ただ当時から、「世界一の選手になるためにどうすればいいか」ということを逆算してやっていたように思います。食事に誘っても「ウエイトがあるので行けません」と......。それにデカいし目立つので、外に出ると「あっ、大谷だ!」となる。おそらく、すごくストレスになっていたのかもしれないですね。
【大谷翔平がコンビニで買ったもの】
── ちなみに、コンビニで大谷選手は何を買ったのか覚えていますか?
鍵谷 クレープですね。甘いものが好きだったので。1年目、2年目の頃は、中島(卓也)の車に僕と翔平がよく乗せてもらっていて、帰りに「コンビニ寄ってく?」と聞くと、「いいっすね」みたいな感じで、甘いものを買ったりしていました。でも、3年目あたりからやめていましたね。
── 甘いもの断ちですか?
鍵谷 「いま食べられないので、僕はいらないです」と。ある日、「翔平、今日誕生日だろ?」って、コンビニに寄ってケーキを買ってあげたら、「僕、食べられないのでいらないです」ってふつうに断られました(笑)。「あっ、そうか。ごめん」って。ファイターズが優勝するちょっと前の、本格的に二刀流が始まったぐらいのタイミングだったと思います。
── ドラフトで一緒に入団した時に、これほどの選手になるという想像はつきましたか?
鍵谷 栗山さん以外、誰も想像できないんじゃないですかね。もちろんすごい選手だし、すごくなるというのは誰もが想像していたと思うんですけど、やっていることが前例のないことなので......。誰もやったことないことをやるって、想像できないじゃないですか。ホームラン王やサイ・ヤング賞を獲るというのは、ギリギリ想像できるかもしれないですけど、「50−50」をやったり、ホームラン王を2回、MVPを3回獲るとか......だから、途中から想像するのをやめました。おこがましいというか、想像できる選手じゃない。だからシンプルに楽しんだほうがいいなと思って。
── ユニコーンですもんね。
鍵谷 すごいです。成長のスピードが異次元で。でも「圧倒的にフィジカルです」と、意外と考え方はシンプルなんですよね。今のこの情報が溢れる時代のなかで、いろいろやりたくなると思うのですが、翔平の考えはいつもシンプル。そういうところも含めてすごいなと思いますね。
── 引退セレモニーでは、大谷選手から「引退されるので少し悲しい」と言われていました。
鍵谷 びっくりしました。これからは同期としてというより、"いちファン"として翔平を応援したいと思います。
つづく>>
鍵谷陽平(かぎや・ようへい)/1990年9月23日、北海道亀田郡七飯町出身。北海高から中央大に進み、2012年ドラフト3位で日本ハムに入団。1年目から38試合に登板するなど、おもにリリーフとして活躍。17年にはシーズン60試合に登板した。19年シーズン途中から巨人に移籍。23年オフに戦力外通告を受けるも、古巣である日本ハムと育成契約を交わす。24年7月に支配下になるも一軍登板の機会がなく、9月に現役引退を発表。25年から日本ハムのチームスタッフとして活動する。妻は女優の青谷優衣