「Software Defined X」とは? JEITA会長会見から読み解く新時代のキーワード

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2025年01月06日 16:01  ITmediaエンタープライズ

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電子情報技術産業協会 会長の津賀一宏氏

 「“Software Defined X”の時代がこれから到来する」


「Software Defined X」とは? JEITA会長会見から読み解く新時代のキーワード


 電子情報技術産業協会(以下、JEITA)会長の津賀一宏氏(パナソニックホールディングス会長)は、JEITAが2024年12月19日に開いた記者会見でこう語った。


 まず、「Software Defined X」とは何か。津賀氏の発言をかみ砕くと、「さまざまな分野でソフトウェアの開発力が問われる」ことを指す。つまりDX(デジタルトランスフォーメーション)を意味する言葉であり、2025年の新たなキーワードにもなり得るこの言葉に今回は注目したい。


●自動車業界は“100年に一度の大改革”「Software Defined X」時代とは何か?


 JEITAは毎年末に会長会見を開催し、業界動向として「電子情報産業の世界生産見通し」を発表(注1)するとともに同協会の活動状況を説明している。今回はそれらに加え、技術動向のキーワードとして「Software Defined X」を挙げた。その中でも自動車分野における「Software Defined Vehicle」(以下、SDV)に関する動向調査を発表した(注2)。同調査の概要を以下で紹介する。


 調査レポートではまず、自動車のSDV化について「自動車はこれまで、エンジンなどハードウェアの性能が競争の源泉だった。近年では自動車の電装化によってハンドル操作やブレーキなどの基本性能をソフトウェアが制御するようになり、今後はソフトウェアの性能が競争力を左右する。通信技術の高度化により、搭載ソフトウェアがインターネット経由でアップデートされるようになり、走行性能や安全機能が向上する。電装機器構造が一層進化し、搭載される半導体や電子部品が高性能化するのに伴い、自動車のSDV化が進むと見込まれる」と説明した(図1)。


 SDV化の進捗(しんちょく)のスピードについてはどう見ているのか。調査レポートでは新車生産台数に占めるSDV比率について、2035年における世界の新車生産台数は9790万台、そのうちSDVは6530万台、SDV比率は66.7%になるとの見通しだ。また、日本の新車生産台数は690万台、そのうちSDVは430万台、SDV比率は62.0%になるとの見通しだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で減速した世界の新車生産台数は、回復基調にあるが、2030年をピークに一段落することが予想される。SDVは2030年以降に普及が進み、市場は急速に拡大するとの見方を示している(図2)。


 つまり、世界だけでなく日本でも新車生産台数に占めるSDV比率が10年後に6割を超える見通しだ。日本政府もSDVをはじめとする自動車分野のDXにおける国際競争を勝ち抜くため、2024年5月に「モビリティDX戦略」を策定した。EV(電気自動車)化などと合わせて自動車は今後10年で大きく変わりそうだ。自動車業界で言われる「100年に一度の大変革」が、これから10年でドラスチックに起きそうだ。


 一方、調査レポートでは、SDVの普及に向けた課題としてセキュリティ対策とソフトウェア開発効率を取り上げている(図3)。


 図3の内容はSDVを対象としているが、その多くは自動車以外の分野にも当てはまりそうだ。


(注1)JEITA、電子情報産業の世界生産見通しを発表(JEITA)


(注2)SDV の進展に伴う車載半導体・電子部品市場の需要額見通しを発表


●Software Defined X時代を生き抜くために必要なこととは


 「ソフトウェアの重要性が高まるのは自動車分野に限らない。これからはさまざまな分野においてデジタル技術を使うエッジサイドのソフトウェア開発力が勝負の行方を左右するようになる」


 SDVに関する調査レポートの概要を説明した津賀氏は、こう述べた上で、冒頭で紹介したように「Software Defined Xの時代がこれから到来する」と発言した。同氏は「背景にあるのは、日本の潜在成長率や労働生産性の低さの改善に向けた社会的要請だ」としながら、SDVと違う例について次のように話した(図4)。


 「例えば、日本の強みであるものづくりにおいても、デジタル技術による生産性向上を目的とした“Software Defined Manufacturing”が既に始まっている。熟練した強い現場力があるがゆえに、なかなかデジタル化が進まないと言われた日本のものづくりも変わり始めている。AIなどのデジタル実装を進めるにあたり、単にソフトウェアを導入すればよいというものではなく、現場との共創により、一緒になって現場を変えることが最も重要だ」


 このコメントは、先の発言にあった「エッジサイドのソフトウェア開発力」について説明したものでもある。


 津賀氏はさらに会見の質疑応答で、SDVに関連して次のような見解を示した。


 「個人的な経験から言うと、約30年前、AV(オーディオビデオ)機器はアナログで構成されており、極めてハードウェアオリエンテッドだった。記録、再生するメディアも磁気メディアに代表されるようにハードウェアだったが、その後どんどんコンピュータ化していった。一方、そうした変化をコンピュータ側から見ると、I/O(入出力)がどのぐらい複雑なのか、またリアルタイム制御がどのくらい必要なのかなどによってコンピュータ化のスピードが変わってくる。AV機器の分野はその意味でコンピュータ化が早く進み、I/Oにもネットワークがいち早く活用されるようになった。そうした技術の波がいよいよ自動車分野にもやってきたと受け止めている」


 家電メーカー出身の同氏らしいコメントだ。


 Software Defined Xは2025年の新たなキーワードにもなり得ると冒頭で書いたが、「Software Defined」という表現自体は以前から使われてきた。筆者の記憶では、最初に使われたのは「Software Defined Network」(以下、SDN)という言葉だ。本連載では2013年1月15日の掲載記事で「2013年はSDN市場元年になるか」とのタイトルでSDNを大々的に取り上げている。


 12年前の同記事では、SDNを「ネットワーク上のネットワーク機器を個々に管理・制御するのではなく、ネットワーク全体を俯瞰(ふかん)した上でソフトウェアによって柔軟かつ一元的に制御することで、ネットワークの仮想化を実現しようという考え方」と説明している。すなわち、ハードウェアからソフトウェアオリエンテッドにすることで仮想化などのメリットを享受しようという意味だった。それは今も変わらないだろうが、SDVをはじめとしたSoftware Defined Xには、「ソフトウェア開発力を高めてDXを推進しよう」という意味合いが強いように感じる。


 では、ソフトウェア開発力をどう高めるのか。企業においてはIT部門の増強に加え、業務現場でのソフトウェア開発の「内製化」、そしてそのソフトウェア開発を支援する「AIの活用」が重要なポイントになるだろう。


 さらにもう一つ挙げておきたいのは、SDNのキーワードになっていた「仮想化」が、Software Defined X時代にどのような意味を持つのかだ。おそらくリアルとバーチャルの空間を行き来する「デジタルツイン」の有効活用を示唆しているのではないか。


 そうした変化にどれだけ早く気付いて自社に合う形でアクションを起こせるか。Software Defined X時代を生き抜くには、まず、その「気付き」と「想像力」(「創造力」も)を働かせたいところだ。


著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。



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