情報にあふれた現代において、怪しく危険な陰謀論に触れずにいることは難しい。であれば、適度に接して、"免疫"を獲得するしかない! 陰謀論ウオッチャーの雨宮純さんに、今年最注目の陰謀論を教えてもらった!
【写真】六本木ヒルズには、界隈で「悪魔の象徴」とされるクモの彫刻もある
■今年は六本木で"何か"が起こる!?
――最近注目している陰謀論はありますか?
雨宮 「6」関連ですね。昨年火災があった猪口邦子参議院議員の自宅マンションが6階で、同じく昨年12月に亡くなった中山美穂さんの住まいも6階。なので、陰謀論界隈では「6階に住んでいると危ない」といわれています。
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また、中山美穂さんは亡くなる直前に六本木ヒルズにある森美術館のルイーズ・ブルジョワ展に行かれていた。ブルジョワが作品にしているクモは悪魔崇拝の象徴でもあります。
さらに六本木という漢字を分解すると、「六六六」と「十」と「1」に見える。六本木ヒルズの住所は東京都港区六本木6丁目10番1号。ご存じのとおり、「666」は悪魔の数字。
ここから六本木はディープステート(DS。世界を支配する闇の政府で、アメリカ民主党の政治家や共産主義者が運営しているとされる)の日本拠点といわれており、六本木で新しい陰謀論が生まれる可能性があります。
――「2025年」というキーワードではどうでしょう?
雨宮 オカルトとしてよく知られているのは、たつき諒さんの『私が見た未来 完全版』という漫画に「2025年に人類が滅亡する」という予言が描かれているというものです。
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陰謀論でありがちなのが、「世界では光と闇が戦っていて、光側が勝てば世界は救われ、闇側が勝てば世界は滅ぶ」という形式です。『私が見た未来』が大災害を予測した2025年に合わせて、新しい光対闇の陰謀論が出てくるかもしれません。
光対闇でいうと、「ゲサラ陰謀論」というものもあります。光側が勝ったら金融システムが変わって貴金属や仮想通貨が暴騰し、それまで貧乏だった人たちが救われるというものです。
でも、実態は「外貨や仮想通貨の価値が上がるから、今のうちに買っておきなさい」という、詐欺まがいの営業に使われています。経済格差が広がって困窮する人々が増える中、こういう陰謀論を絡めたビジネスがさらに増える可能性もあります。
あと2025年といえば「昭和100年問題」です。日付を昭和の年号2桁で処理しているコンピューターでは、「昭和100年(2025年)」で3桁になったら障害が発生するというものです。
日付を西暦の下2桁だけで処理していたシステムが問題を起こすといわれた「2000年問題(Y2K問題)」と同じですね。当時はジョン・タイターという未来人が類似の2038年問題から世界を救うためにタイムトラベルしてきたという話が広まり、後にドナルド・トランプがジョン・タイターだという説も出回りました。
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それをパクって、日本でもタイムトラベルネタ、未来人ネタが盛り上がるかもしれません。
――昨年は選挙で陰謀論めいた言説が出回ることもありました。今年の選挙における陰謀論はどうなるでしょう?
雨宮 昨年の衆院選ではワクチン反対派が支持する参政党が比例で3議席を獲得しましたが、比例の得票はそれほど伸びているわけではなかった。同党が参院選でどれだけ陰謀論めいたことを言ってくるかには注目していますね。
また、立憲民主党の原口一博衆議院議員が立ち上げた超党派の「ゆうこく連合」にも注目です。原口議員はDSやワクチン生物兵器説など陰謀論めいた発言をしていて、今後の展開次第では同党のアキレス腱になる可能性がある。
あと、昨年の兵庫県知事選では、N国党の立花孝志党首が陰謀論めいた真偽不明のストーリーで有権者を引きつけました。今後の選挙戦では彼のような方法を取る人が増えてくるかもしれませんね。
■われらのポケモンが陰謀論者の玩具に!?
――選挙といえば、今年はトランプ氏が再びアメリカ大統領に就任します。トランプ支持者には陰謀論者も多いわけですが......。
雨宮 「これでリベラル悪魔崇拝者を一掃できる!」と大盛り上がりしていますね。ただ、少数派ですが「トランプとプーチンこそ闇の手先だ」と言う人たちも出てきて、保守的な陰謀論者を小ばかにしたりしています。
――今後のアメリカで注目すべき陰謀論はありますか?
雨宮 トランプ政権下では、やはり外国人や移民を排斥するような陰謀論が増えるでしょうね。エリートが白人を減らすために移民を推進しているという「グレート・リプレイスメント理論」などが活性化すると考えられます。
それとは別に、最近のアメリカではユナイテッドヘルスケアという医療保険会社のCEOが射殺された事件が話題です。アメリカの医療保険会社は保険金の請求却下や保険料の増額が非難されていて、ネット上ではこの事件の犯人を英雄視する人たちもいます。
そこで注目されているのが、犯人のXアカウントのヘッダー画像に使用されていたポケモン、キノガッサです。キノガッサのずかん番号は「286」。この数字は犯人からのメッセージなのではないかと、この数字と結びつく聖書の一節などを探す動きが広がっています。
トランプ支持者たちが「カエルのぺぺ」という漫画のキャラクターをミームにしたように、ポケモンが陰謀論のミームにされてしまわないか、個人的に心配しています。
■陰謀論への対策は陰謀論を知ること?
――陰謀論の泥沼にハマらないためには、どうすればいいのでしょうか?
雨宮 陰謀論のパターンを知っておくといいでしょうね。陰謀論の多くは、用語やロジックが似ています。例えば、「○○人が井戸に毒を入れた」系の陰謀論は大昔からあります。
日本でも関東大震災のときに、朝鮮人関連のデマが流れました。外国人への警戒心など、人が不安を抱くツボは時代や地域を問わずある程度決まっている。「敵はこいつで、こんな悪さをしている」という単純なストーリーを目にしたら、要注意です。
一方で、陰謀論にハマる気持ち良さをある程度知っておくのもいいかもしれません。
――それはなぜでしょうか?
雨宮 陰謀論には、「ほかの人は知らない本当のことを自分は知っていて、それを広めることで世の中がひっくり返るかもしれない」という、大きなストーリーと一体化する気持ち良さがあります。普段の生活や仕事では感じづらい人生の意義ですね。
通常、人生の意義を得るには地道に何かを頑張ったり、仲間と何かを成し遂げたりといった努力が必要ですよね。一方、陰謀論では「ある日突然、光側から戦士に選ばれる」みたいな数段飛ばしの話になる。そして、苦労をせずに報われるのは気持ちいい。
陰謀論と知った上で陰謀論に触れて、その気持ち良さを仮に体験してみると、ハマる側の気持ちもわかるのではないかと思います。
――面白がりつつ、距離を保つわけですね。
雨宮 はい。そのときに大事なのは、冷静に陰謀論を語り合える人が周囲にいることです。「さすがにあれはないよね」「ファクトが足りないね」とか、陰謀論とは距離を置きつつ、お互いの感覚の擦り合わせができるといいですね。
泥沼にハマってしまうパターンで多いのは、ユーチューブなどで陰謀論を知り、家族や友人とはまったく話が通じないまま、すでに陰謀論にハマっている人とばかりつるんでしまうケース。
陰謀論ウオッチャーの記事や本を読んだり、トークイベントに行ったりすると、陰謀論を知りつつ距離を置いた人たちとのつながりもできて、抵抗力がつくと思います。
●雨宮 純(あまみや・じゅん)
陰謀論ウオッチャー。オカルト・スピリチュアル・悪徳商法研究家。都内在住の30代。著書に『あなたを陰謀論者にする言葉』(フォレスト2545新書)、『危険だからこそ知っておくべきカルトマーケティング』(ぱる出版)がある
構成/仲宇佐ゆり 写真/PIXTA Getty Images