2024年秋、福岡県・南筑後の保健所のサイトに、大型の収容犬の情報が公開されました。
「大型犬。威嚇攻撃性はない。人に友好的に尻尾を振り、頭を持ち上げるが、首から下が動かない」
首から下が動かない…どういった状況で保健所に収容されたのでしょうか。飼い主から持ち込まれたのか、事故なのか、猟犬として活動しそのまま迷子になったのか。状況はわかりませんでしたが、明らかなのは「飼い主のお迎えが来ない」ということ。そして、頭以外の体が動かない状況から、飼い主または新たな引きとり手が現れなければ、殺処分ということになります。
金曜17時までの保護を目指して奔走
この大型犬の存在を知った福岡県のボランティアチーム、わんにゃんレスキュー・はぴねす(以下、はぴねす)の代表は、関係先に「このワンコをお世話できるキャパはないか」と声をかけました。そのうちメンバーの一人が「手厚い介護ができるかどうかはわからないけど、うちで過ごしてもらうことはできる」と手を挙げてくれました。
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「良かった、これで大型犬の命を救うことができる」と喜んだ代表でしたが、改めて保健所の情報を見ると以下のような追記がありました。
「犬の状態が悪化。頭を持ち上げられなくなり、エサも食べなくなった」
情報から推測するに、大型犬は息も絶え絶えの状況でしょう。しかし、この情報を見たのは金曜の午後。土日は保健所が閉まってしまいます。一方、代表はその日、物理的に保健所に行ける状況ではありませんでした。
週明けの月曜日までに、頭が上がらず、首から下も動かない状況で、犬舎の冷たい床の上で死んでしまうことがあったら…。代表は「絶対に嫌だ」と、さらにメンバー同士のグループLINEで、保健所まで至急引き出しに行ける人がいないかと呼びかけました。
保護メンバー、ボランティアの連携で保護に間に合った
メンバーのうちの複数名が「私が行く」「仕事を終えたらすぐ向かう」と手を挙げてくれましたが、道中の大渋滞で、保健所が閉まる17時に間に合いそうにありません。
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頭を抱えるメンバーでしたが、南筑後エリアのボランティア仲間と連絡がとれ、代わりに大型犬を引き出し、はぴねすメンバーがやってくるまで駐車場で待っていてくれると申し出てくれました。
瀕死の大型犬のことを思い、多くの仲間たちが協力しあったおかげで、なんとか無事に大型犬を引き出すことに成功。「たまおくん」という名付け、まずは体の状態の確認とたくさんの栄養を与えることにしました。
動かぬ頭と体のまま尻尾だけを振りお礼を言ってくれた
保護当初のたまおくんは確かに頭も体も全く動かず、精気のない表情を浮かべ、そのまま目をつむって旅立ってしまうような様子でもありました。また、ガリガリにやせ、体のあちこちには床ずれやイボのようなものがありました。
そんな状態でも優しいメンバーと、温かい部屋、そしてミルクやエサを前にして、たまおくんは動かない頭と体の状態で、尻尾だけをバタバタと振ってくれました。
たまおくんが精一杯「助けてくれてありがとうね」と言ってくれているように映り、目頭が熱くなるメンバーでした。
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動物病院での検査中も嬉しそうな表情を浮かべたたまおくん
数日後、たまおくんの健康状態をさらに詳しく確認するため動物病院へと向かいました。
獣医師によれば、たまおくんが自力で立てないのは、脳などの異常ではなく頚椎(けいつい)の異常からくるものではないかという診断でした。この他にもいくつかの検査をしましたが、たまおくんは終始嫌がらず、むしろうれしそうな表情を浮かべています。
人間に触れてもらえることがただただうれしくてたまらない、といったその表情を前に「助けてあげられて本当に良かった」と改めて思うメンバーでした。
そして、「自力で歩けられないのなら、車椅子を用意しよう」「介助用のハーネスも欲しいな」とメンバーは話しあいました。
しかし、そんな最中、奇跡が起こりました。
「自力で立てるようにがんばってみるね!」
ケージの中で過ごしていたたまおくんが自力で一瞬立ち上がったのです。長時間は立っていられず、すぐにバタンと倒れ込むものの、たまおくんは何度も何度も自力で立ちあがろうとがんばりました。
その姿はまるで「みんなありがとう。僕も自力で立てるようにがんばってみるね!」と思ってのことのようにも映り、メンバーは目頭が熱くなるのでした。
そして「このまま栄養をいっぱいとってもらい、治療やリハビリを続けたら、たまおくんはもう一度自分の足で歩けるようになるかもしれない」とも思いました。
今日もたまおくんは「自力で立てるよう」に挑戦を続けています。そして、こんなに健気なたまおくんを前に、メンバーは「大丈夫。必ずたまおくんの『本当の家族』を見つけてあげるからね。一緒にがんばっていこうね」と約束を交わしました。
(まいどなニュース特約・松田 義人)