トランプ政権発足で不確実性が高まる今年、日本経済の成長を見極めるためどこに注目すべきか。円安や株価の行方を占う重要イベントや指標を専門家が読み解きます。
【映像】2025年は日本経済「分岐点」 日銀は5月まで利上げできず 米雇用弱くても経済が強い理由
3月に“時差”で決断を迫られる日銀の利上げタイミング「勝負は3月かなと思います」今年の直近の経済見通しについて、大和証券チーフエコノミストの末廣徹さんはこう展望します。
「アメリカ経済が堅調であるというコンセンサスのもと、少し円安も落ち着いてきた日本の消費もそろそろ持ち上がるんじゃないか、というのが多くのエコノミストの2025年の予想です。それを基準に日本経済が強いか弱いかを見ていくことになる」と末廣さんは説明します。
なぜ3月に注目すべきなのでしょうか。
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まず1月は20日にトランプ新大統領の就任式があり、23日からは日本銀行が金融政策決定会合を、28日からは米FRBが金融政策を決定するFOMCを開くなど、重要イベントが目白押しです。日銀は利上げに踏み切るかが注目されるものの、トランプ政権発足直後では判断が難しいと末廣さんは見ます。
就任直後のトランプ大統領が前回登板時と同様、矢継ぎ早に関税引き上げなどの政策を打ち出す可能性はあるものの「経済は基本的なデータを見ながら判断するのが基本ですが、(23日までの)4日間ではデータは出ません。1月の利上げは結構難しいのではということで、マーケットでも利上げか否かは五分五分ぐらいの予想になっています」
「またFRBは今年から利下げペースを減速すると明言しており、昨年12月に利下げしたので1月は“スキップ”が基本でしょう」
一方、3月には春闘があり、日本企業が十分賃上げできるかが焦点となります。「中小企業は心配なデータが出てきていますが、労働組合がある企業は大企業が多く、春闘全体としては悪くない数字が出るのでは」と末廣さん。春闘の結果が日銀の利上げの判断を後押しするのではという読みです。
また、3月18・19日には日米で金融政策を決める会合があり、時差の関係で日本の方が先に会合の結論を出さなければいけない局面が訪れます。
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「これは非常に悩ましいです。市場予想だと日銀は1月か3月どちらかで利上げするのではと8割弱ぐらい織り込まれています。ただトランプ政権の政策を受けたFRBの経済見通しを見てから日銀が判断したいとすると、その直前で決めるのはかなり難しい」
「一方、前回利上げしたのはもう2024年の7月ですから、3月もスキップすればかなりインターバルが空いてしまう。日銀の利上げの到達点は低いのでは、とマーケットがみなすと日本の金利が上がらず対ドルで円安が進み、日銀が急いで利上げしなければいけない展開もあり得る」
「基本的にはしばらくは為替にらみで、円安方向に突っ込んだら早めに動くか、そうでなければ落ち着いて判断していく。後者の場合は4・5月の会合まで利上げのタイミングが遅れる可能性もあると思います」
円安160円台でも為替介入の可能性が低い理由その円安と株高は25年も続くのでしょうか。QUICK社が24年12月にエコノミストに対して行った月次調査では、対ドル円相場の最高値が141円台、最安値は162円超、日経平均は最高値が4万3000円台で最安値が3万6000円台でした(いずれも単純平均)。
「160円を超えると為替介入や日銀の利上げも含め何らかの動きが出てくるのでは、という昨年の経験則でこういう数字になっているのだと思います。他方で円高になった場合も140円ぐらいという予想なので、幅は広いですが(一定の変動幅で動く)レンジ相場というイメージでしょう」
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「為替介入するかどうかは円が対ドルだけでなくヨーロッパの通貨などと比べても独歩安かどうかも重要です。昨年160円につけたときと比べると円だけ弱いという感じではないものの、160円を超えるのが政治的に許容できないという話になれば、介入はあり得ると思います」
「株価はあまり上値が高くない。強気な人も4万円を超えてどんどん上がっていくというよりは、まずは4万円台を固めていく、というぐらいで見ている印象です」
アメリカ株についてはどうでしょうか。
「今年のアメリカ経済のテーマは“アメリカ1強”が一つのキーワード。トランプ次期米大統領の政策がアメリカ・ファーストということもあり、昨年も結局アメリカ経済が圧倒的に強く、その反対側で中国・ヨーロッパなど経済が不調な国が目立った。やはり25年もアメリカが一番であることはおそらく変わらず、アメリカの株価の方が強気に見ている人は多いと思います」
「ただ年末に金利が上がってきています。ここまで上がってくると株価も耐えられるか不安が出てくる意味では、“金利見合い”でしょうね」
さらに、今年の日本経済の行方を見通すうえでは「需給ギャップ」も注目されていると末廣さんは解説します。
今年は日本経済の「分岐点」だが、デフレ脱却宣言はなし?「日本経済は為替の影響を除いてみるとかなり真価が問われる年になりそうです。本当にいい形でデフレを脱却して消費が回復していくかが問われるなか、その一つの指針が、需給ギャップです」
「需給ギャップとは、日本の経済の需要と供給のバランスを見たときに、需要が強いのか弱いのかを測る指標です。具体的には実際のGDP(総需要)と潜在GDP(経済全体の供給力)の差をギャップと呼んでいます」
内閣府は24年12月、政府の経済見通しに基づく需給ギャップの試算を示しました。25年度の実質成長率が1.2%となった場合、需給ギャップは0.4%で7年ぶりにプラスとなり、需要増に転じるという見通しです。
「今のところ日本はインフレですが、円安で輸入物価が上がるコストプッシュ型インフレの影響が大きいと言われており、需給バランスはまだマイナスです。これがプラスになるということは、日本は需要の方が強く“前向きな”インフレが定着していくということになる」
個人消費などの需要の上昇に供給が追いつかず、物の値段が上がっていけば「いよいよ経済の好循環だという話が出てくる。その分岐点に今あるということですね」
ただ、末廣さんは25年度に1.2%の成長率が達成されることには懐疑的です。また需要がプラスに転じれば内閣府が示しているデフレ脱却の条件をすべて満たすことになりますが、「今政府が『デフレ脱却です』と言っても、国民が物価上昇で苦しいのに今更なにを、と受け取られてしまう」
「賃金なのか消費なのか、日本経済の本質的な課題に目標がシフトしていく形となり、デフレ脱却宣言は明示的には行われないのではと思います」