NYタイムズ「2025年に行くべき52の旅行先」に富山が選出された理由は?

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2025年01月09日 20:51  All About

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1月7日、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは「52 Places to Go in 2025(2025年に行くべき52の旅行先)」を発表。日本から選出されたのは30番目の富山と、38番目の大阪の2カ所。富山はなぜ選ばれたのか。
2024年の山口に続き、2025年は富山。偶然にも筆者が前年に取材した都市が、2年連続でニューヨーク・タイムズ紙の「世界の行くべき旅行先」に選ばれた。富山市とはどのような街なのか、その魅力を紹介したい。

富山が選ばれた理由

2025年1月7日、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは「52 Places to Go in 2025(2025年に行くべき52の旅行先)」を発表。トップにリストされたのは、今年生誕250周年を迎える小説家ジェーン・オースティンの故郷であるイングランド南部だった。

日本から選出されたのは30番目の富山と、38番目の大阪の2カ所。大阪は、今年万博が開催されるのが、選出の決め手になったのであろう。
街のシンボル・富山市郷土博物館(富山城)

では、富山はなぜ選ばれたのか。ニューヨーク・タイムズのサイトを見ると、「Enjoy cultural wonders and culinary delights while skipping the crowds(人混みを避けながら、文化的な驚きとおいしい料理が楽しめる)」と評価されている。

世界中でオーバーツーリズムが問題となる中、あまり知られていない場所を紹介しようという意図は読み取れるものの、あいかわらず選考基準があいまいな気がする。混雑しておらず、文化と料理が楽しめる都市など、探せばほかにもいくらでもあるだろう。

筆者が思うに、富山市の魅力の本質は、歴史・文化に裏打ちされた品のある街並みを大切にしながら、これと両立した先進的なまちづくりの取り組みが進められている点にある。観光地としてのみならず、都市設計の観点でも高く評価されるべき街なのだ。

また、富山が能登半島への玄関口でもあることも、今回の選出の一因になったのではないか。富山の知名度が上がることによる誘客効果で、能登の震災復興が加速することへの期待も考慮されたものと思われる。

本記事では以下、富山の歴史・文化とまちづくりについて見ていくことにする。

文化的な成熟が生んだ「風の盆」

富山市は、100万石で知られる加賀前田家の分家の1つ、富山藩10万石の城下町として栄えた歴史を持つ。

ニューヨーク・タイムズは富山城を「histrical castle(歴史的な城)」と表現しているが、現在見ることができる天守閣は1954(昭和29)年に開催された富山産業大博覧会の際に、街のシンボルとして建設されたもので、市の郷土博物館として活用されている。

富山という地域の文化的な気風を象徴するのが、ニューヨーク・タイムズでも紹介されている「越中八尾 おわら風の盆」である。おわら風の盆は、富山市の八尾町(2005年に富山市に合併されるまで婦負郡八尾町)で毎年9月1日から3日に行われている祭りである。

祭りの日の八尾では、日暮れ後、哀愁を帯びた太鼓と三味線、胡弓(こきゅう)の音曲と越中おわら節の唄に合わせ、編笠を目深にかぶったそろいの法被(はっぴ)姿の男性と浴衣に身を包んだ女性の集団が、優美な振り付けで、町の通りを踊り流していく。

まだ見たことのない方には、「高度に洗練された盆踊り」といえば分かりやすいだろうか。

この「芸術民謡」とも称される八尾のおわらが誕生した背景について、おわら風の盆行事運営委員会演技部会長の橘賢美さんは、次のように話す。

「八尾は元々、和紙と養蚕で栄え、富山藩の御納戸所(おなんどどころ=財政蔵)とされた。だが、町方があまりに財力を蓄えすぎると、藩にとって都合が悪い。八尾には5月3日に行われる、京都の祇園祭にも似た越中八尾曳山祭もあるが、こうした豪華な祭りは、各町にお金を使わせるための藩の政策だったのではないか」
八尾曳山展示館で実施の特別ステージでは、踊りの振り付け指導も行われる

このように富山藩の財政を支えるほどに繁栄した八尾には、「上方や江戸の清元、常磐津(ときわづ)、都々逸(どどいつ)、浄瑠璃、謡曲など芸事をたしなむ達人が多くあり、一家に一棹三味線があった」(『おわら風の盆公式ガイドブック』)という。こうした文化的な成熟が、「芸術民謡」を生む下地になったのだ。

市街地を縦横に走るLRT

一方、富山市の先進的なまちづくりを象徴するのが、市街地を走る路面電車(LRT=次世代型路面電車)だ。JR富山駅では改札を出てフラットな床面を歩き、そのままバリアフリーで路面電車に乗車できる。車両も、系統によっては旧型車両が残っているものの、低床型車両が多く導入されている。
富山駅構内の「市内電車」乗り場はバリアフリー

富山の路面電車(富山地方鉄道の「市内電車」)は、現在、計6系統が運行されており、行先別で見ると富山駅を起点に市街地をぐるりと1周する環状線をはじめ、南富山駅前行、富山大学前行、岩瀬浜行があり、市街地の主要スポット間を回遊できる。

富山の路面電車は、元からこのような設計になっていたわけではない。富山市北部の岩瀬浜(富山港)へ向かう富山港線(富山駅―岩瀬浜間7.7km)は、元々はJRが運行する通常の鉄道路線だったが、北陸新幹線の富山駅乗り入れに伴う駅の高架化工事を機に2006年にLRT化された。また、現在の環状線も「市内電車環状線化事業」によって一部区間に線路を新設して、2009(平成21)年に環状線として運行が開始された。

さらに2020年に、富山駅北側に路線のある富山港線と南側の環状線などの路線を富山駅構内で接続し、直通運行を開始。このように路面電車をはじめとする公共交通の使い勝手を飛躍的に改善するなどした富山の取り組みは、今後も進むであろう少子高齢化時代を見据えた「コンパクトシティ」構想に基づくまちづくりの手本とされている。

富山の路面電車は乗ってみると非常に楽しく、なかでも富山港線は魅力的だ。終点の岩瀬浜では、4月から11月にかけて富山でしか味わえない「シロエビ料理」を楽しめるほか、岩瀬地区にはミシュラン掲載店が6店舗もあり、近年、グルメの街として注目されているという。

このほか、富山市の見どころとして、ニューヨーク・タイムズでも紹介されている隈研吾氏が設計した「富山市ガラス美術館」は必見だし、市街地から眺める冠雪した立山連峰は壮観だ。今後の旅先として、おすすめしたい。
(文:森川 天喜(国内旅行ガイド))

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