100年に1度の大変革期の波が日本の自動車業界を直撃!? ホンダと日産が統合に向けて大きくかじを切ったのだ。しかも、そこに三菱も参画予定という! この大再編の背景には何が? 今後どうなるのか? 関係者や専門家を徹底取材してきた。
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■正念場を迎えた日産は、大リストラへ
「歴史的合体はなるのか」。
言うまでもなく、ホンダと日産の間で降って湧いた経営統合の話だ。そもそも両社は昨年8月1日、電動化技術などの協業を推し進める近未来戦略を発表した。
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ところがである。暮れも押し迫った12月23日に会見を開き、経営統合の協議入りを宣言、今年6月の最終合意を目指す考えを示した。ちなみに日産傘下の三菱も参画を検討中だ。
仮に統合が成立すればの話だが、26年夏に共同の持ち株会社を設立し、両社は上場を廃止する。持ち株会社の社長はホンダが指名し、取締役会の過半数もホンダが決めるという。
つまり、今回の件はホンダ主導による経営統合なのである。実際、日産内部からはこんな声が。
「日産はブランドとして生き残れるようですが、従業員の間では『ウチはホンダさんに吸収されるんだ』という落胆の声が広がっています」
23年12月に設立90周年を迎えた名門・日産に何が起きているのか。実はドル箱の北米市場で大苦戦。そして、昨年9月の中間決算は連結営業利益が前年同期比で90%減! すでに世界で9000人の大リストラを発表している。
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「喫緊(きっきん)の課題は経営統合よりも業績の立て直しです。しかし、現状では売るクルマもなく、V字回復は夢のまた夢」(日産関係者)
日産は10年に世界初となる量産型EV「リーフ」を世に送り出したパイオニアだが、現状では新興メーカーの米テスラや中国BYDがEVのトップランナーを務める。加えて、EV販売の鈍化により世界の売れ筋はハイブリッドに移行中。
だが、日産にはトヨタやホンダのようなストロングハイブリッドの用意がない。この戦略ミスが"痛恨の一撃"になったとの指摘もあるが......。
「日産の低迷の理由は19年12月に社長に就任した内田誠氏のかじ取りに尽きます。何しろ就任5年で、世界新車販売台数を150万台も落としている。さらに言えば、新車の開発期間というのはだいたい4年程度。今、売れる新車が日産にないということは、要するに社長が売れるクルマを造ってこなかったのです」
こう一刀両断するのは自動車評論家の国沢光宏氏だ。
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「内田社長は日産の生え抜きではないし、クルマについてもあまり詳しくない。結果、日産は致命傷を負った。なぜ社長として日産に残っているのか首をひねるしかない」
とはいえ、ホンダ日産三菱連合が実現すると、世界新車販売でトヨタグループ、フォルクスワーゲングループに次ぐ世界3位の規模を誇る巨大自動車連合が爆誕。これにより日本市場はトヨタ軍団と、3社連合の2陣営へと再編される。
多くのメディアが、《世界3位の巨大連合誕生》《歴史的な再編》などとお祭り騒ぎだが......。
「単純に23年の世界新車販売の数字を足せば3社で世界3位にはなる。しかし、昨年の日産は販売が低迷し、これから痛みを伴う大改革を断行するわけです。世界3位と浮かれるのは時期尚早では」(元自動車誌幹部)
実際、経営統合検討のリーク報道を受けた昨年12月18日の東京株式市場では、日産株がストップ高になる一方で、ホンダ株は低迷......。
「統合協議は日産の得、ホンダの損と受け止められたのでは」(市場関係者)
■ホンダの二輪部門から大ブーイング!?
経営統合の懸念材料はほかにもある。国沢氏が言う。
「仏ルノーと日産はマーケットが異なり補完関係にあった。しかしホンダと日産は、日本・北米・中国と注力する市場がモロかぶりしている。この部分をどうするか」
そんな背景もあり、ホンダも日産も中の人たちからは経営統合に慎重な声が渦巻く。特にホンダの二輪部門からは大ブーイングが巻き起こっているとの報道も。モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が解説する。
「今回のニュースはホンダの社員にとっても寝耳に水だったとか。そもそもの話ですが、ホンダの事業を支えているのは営業利益率の高い二輪事業ですから、二輪部門の一部から、『日産の経営不振を、バイクで稼いだ利益で埋めるなんて......』という声が出てもおかしくありません」
経営統合により日産はホンダ製のストロングハイブリッドなどの"お宝"が手に入る。一方、ホンダはスケールメリット(規模効果)以外に何を手にできるのか。
「それぞれの会社で、整理統合するべきだった変革に対する"大義名分"ですね。研究開発や事務業務など、本来はもっと早い時期に着手したかったはずです」
こう指摘するのは自動車ジャーナリストの桃田健史氏。
「具体的には、サプライチェーンのピラミッド型構造を抜本的に変えることです。3社の経営統合により部品メーカーの統廃合も加速するでしょう。それによりまったく新しい事業体系になる。
メーカーがディーラーに卸売り販売した後、リユース・リサイクルなどを経て車両廃棄するまでのバリューチェーン(価値連鎖)の流れを大きく変えるきっかけが欲しかったのでは」
ホンダと日産の経営統合は実現するのだろうか。
「可能性は7割と私はみています。というのも、ホンダの三部(みべ)社長が会見で、『経営統合しない可能性はゼロではない』と予防線を張ったように、今後の協議では数多くの課題が出てくるでしょう。
特に、従業員(組合)とサプライヤーからの反発を、どう取りまとめるかがカギになります」
ちなみに桃田氏は、三菱自動車の経営統合への参画についてはこう見立てる。
「日産・ルノーとの関係性が維持されるのならば、あえて参画しない選択肢も」
長年、自動車業界を取材してきた専門家らは、ホンダと日産の企業風土の違いを経営統合の懸念材料に挙げる。ホンダは創業者の"本田宗一郎イズム"もあり自主自立が強く、日産にはお役人さま的な空気が漂っているという。
さらに両社が経営統合を急ぐ背景には台湾メーカーの影もチラつく。国沢氏が言う。
「台湾の電子機器製造大手のホンハイから、日産に資本提携の打診があったと噂されていますよね」
ホンハイのEV部門の最高戦略責任者は、日産の元幹部で19年に退社した関潤氏。内田社長と権力闘争を繰り広げて敗れた人物だ。要は元幹部が古巣に倍返しとばかりに買収をブチカマしたように見えなくもない。
「多くの人の目には、ホンハイが日産の経営に手を突っ込むのを回避するため、慌ててホンダが助けに入ったように映ったのでは」
障壁はほかにもある。日産の大株主は今もルノーであり、加えてファンド系の"モノ言う株主"までいる。
つまり、ホンダと日産の経営統合には課題が山積しているわけだ。それをも乗り越えて経営統合するのなら、まさに相思相愛の熱烈合体! だが、国沢氏は首を横に振る。
「渋々のお見合いです。何せ両社の間を取り持つ"仲人"が断りづらいにも程がある相手ですから(苦笑)」
補足すると、実は12月23日の会見前にホンダ、日産、三菱の社長らは経済産業省と国土交通省を訪れ、統合協議入りを報告しているのだ。
一方、世界新車販売4年連続トップに立つトヨタにも動きが。実は昨年10月に韓国でトヨタと"リアル世界3位"のヒョンデがコラボイベントを開催。豊田章男トヨタ自動車会長と、ヒョンデグループの鄭義宣(チョン・ウィソン)会長が笑顔で握手し、急接近しているのだ。
両者の握手の先にはいったい何があるのか? こちらの行方も気になるところだ。
とにもかくにも、100年に1度という激動の変革期に襲われているニッポン自動車勢。この先の熾烈(しれつ)な国際競争を勝ち抜けるか? 今後の展開からますます目が離せなさそうだ。
取材・文・撮影/週プレ自動車班 撮影/山本佳吾 写真/時事通信社