日本代表・苦闘の記憶(1)
2026年ワールドカップへの出場権をかけたアジア最終予選が年をまたいで進行中だが、そこで日本が圧倒的な強さを見せている。
今回の最終予選では6カ国がホームアンドアウエーの総当たりで対戦するため、全10試合を戦うことになるが、日本は6試合を終えた段階で5勝1分けと、早くも2位以下に勝ち点10以上の差をつけて首位を独走。今年3月に行なわれる2試合で、本大会出場が決まる可能性は極めて高い。
だが、あまりの強さにも一抹の不安を覚えるのは、試合に出場するメンバーがほぼ固定されてしまっていること。そして、これまでの流れが過去の苦戦と敗戦の記憶と重なること......そんな理由からだ。
2002年、日本は自国開催のワールドカップで初めての決勝トーナメント進出を果たした。
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過去に開催国がグループステージで敗退した例はなく(その後、2010年に南アフリカ、2022年にカタールが敗退)、決勝トーナメント進出がなかば義務づけられていたなかでの快挙達成だった。
と同時に、この快挙が単にこの大会だけのものでなく、次回の大会につながる大きな期待を生むことになったのは、2002年ワールドカップのメンバーの多くが、いわゆる"黄金世代"を中心とした20代前半の選手だったからである。
彼らがキャリアのピークを迎える4年後のドイツでは、ベスト16を超える成績が残せるかもしれない――。そんな期待は大きく高まった。
実際、2002年ワールドカップを終え、ジーコが監督に就任した日本代表は強かった。
一次予選を6戦全勝で突破すると、最終予選でも難敵イランにこそアウェーでは敗れたものの、残り5試合は全勝。5戦目の北朝鮮戦に勝利した時点で、ワールドカップ出場があっけなく決まってしまった。
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しかし、期待に違わぬ強さを見せる一方で、試合に出場するのは、いつもおなじみの顔ぶれがほとんど。特に最終予選に入ると、その傾向は顕著なものとなっていったのである。
ワールドカップ出場を決めるまでの最終予選5試合を振り返ると、そのうち3試合以上に先発出場した選手は全部で10人。それほど多くはない印象を受けるかもしれないが、これはボランチやFWに人材が豊富だったことによるところが大きかった。
【皆無に近かった新戦力】
5試合先発:宮本恒靖、中澤佑二、福西崇史
4試合先発:田中誠
3試合先発:川口能活、中田英寿、加地亮、小笠原満男、鈴木隆行、中村俊輔
2試合先発:楢崎正剛、柳沢敦、高原直泰、玉田圭司
1試合先発:三浦淳宏、稲本潤一、遠藤保仁、小野伸二、中田浩二、三都主アレサンドロ
ボランチであれば、福西、中田英、遠藤、稲本、FWであれば鈴木、柳沢、高原、玉田といった具合である。
その結果、出場機会が多少分散されることになったのだが、そうでなければ、もっとメンバーは限定されていたに違いない。
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しかも、3試合以上に先発出場した10人を見てみると、うち6人が前回2002年ワールドカップの登録メンバー。そうではなかった中澤、中村にしても、最終候補には残っていた選手なのだから、本当の意味で2002年後に登用されたと言える選手は、田中と加地くらいのものだった。
この傾向は、最終予選5試合に1、2試合のみ先発出場した10人を加えても変わりはなく、2002年当時のワールドカップメンバー、あるいはその候補でもなかったのは、玉田だけ。その他では、最終予選のスーパーサブとして名をはせた大黒将志がいるくらいだ。
最終予選に先発出場した全20選手+大黒のうち、最終的に2006年ワールドカップの登録メンバーから漏れたのは、三浦淳宏、鈴木のふたりだけだったのだから、いかにメンバーが固定されたまま本大会まで行きついたかがうかがえる(田中は一度選出された後、ケガのため離脱)。
特別な才能を持った選手が揃った世代であり、力のある選手が順当に選ばれただけ。その他の選手とは力の差があったのだから、仕方がない。そんな見方も可能なのかもしれない。
だが、史上最強と称され、最近の日本代表とは比べものにならないほどの巨大な注目と期待を集めたチームは、2006年のドイツでどんな成績を残したのか。
結局はグループステージ3試合で1勝も挙げることができず、1分け2敗の惨敗である。
のちに、当時の日本代表内には、主力組と控え組の分断があったことが語られるようになるが、その"敗因"もまた、メンバーの固定化に端を発するものだと言っていい。硬直化、あるいはマンネリ化が生んだ結末だった。
もちろん、時代は変わっている。
海外組がまだまだ特別で少数派だったおよそ20年前から、現在では日本代表のなかにJリーガーを見つけるほうが難しくなった。選手のレベルにしても、19年前と比べれば、各段に上がっているに違いない。
同じ轍を踏むことはない、のかもしれない。
しかし、2022年のカタールでの成功体験を引きずるかのように、お決まりの顔ぶれがいつものようにピッチに立ち、楽々とアジア最終予選を突破していく。そんな様子を見ていると、どうにも既視感を覚え、嫌な予感がしてしまうのである。
(つづく)