投げやりに見えてしまう26歳若手社員
「うちはどちらかといえば古いタイプの企業なのかもしれません。もちろん儲けるのも大事だけど、それ以前に人と人との関わりを大事にする、社会の役に立つかどうかを考える。そういう仕事のやり方をしようというのが歴代オーナー社長の社訓なんです」ユリエさん(46歳)は、勤務先のそういうところが好きで、結婚後もやめることなく仕事を続けてきた。ところが最近の20代社員は、「どうしてこの会社はこんなにコスパが悪いことをやってるんですか」と言うらしい。
「異動になった前任者から担当を引き継いだ26歳のショウタくんという男性社員がいるんです。彼、日頃、世間話をしている時はいい子なんですよ。
だけどある日、取引先から連絡があった。どうやらショウタくん、異動になった前任者がその取引先にあいさつに行くから一緒に来いと言われた時、体調を崩して欠勤していた。そのまま間に合わなくて前任者が1人であいさつに行ったらしいんです。
その後、ショウタくんに『ちゃんと引き継ぐと先方に伝えたから、1人でもいいし、不安なら上司に頼んで連れて行ってもらってあいさつしてこい』と伝えたんですって。でもショウタくん、ある日突然、その取引先に発注依頼をかけたんです。しかもメールで、後任者ですとも言わずに……。おかしいでしょ」
26歳若手社員の言い分は?
上司から注意をされたショウタくん、「仕事が継続すればいいわけですよね?」と言い放った。彼にしてみれば反抗しているつもりはなく、シンプルにそう思っただけらしい。だが「人との関わりを大事にする」社訓には反する。
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結局、いろいろな仕事が彼のところで停滞してしまい、周りからは「仕事が遅いヤツ」だと思われているのを、彼自身は知らない。自分だけが大変だと思っているようだとユリエさんは言う。
頼むことができないのも課題
ショウタくんは、周囲に仕事を頼むことができないのだとユリエさんは指摘する。「自分がテンパっていても、それを周囲に知られたくないらしく隠す。誰か助けてと言えばすぐにでも手を差し伸べるのに、彼がどんな仕事をどこまでやっているか分からないから手の出しようもないんです。声をかけても大丈夫ですと言うだけ。
かといって私が騒ぎ立てても彼の立場を悪くするだけだし。本当はどう思っているのか、彼の本音を聞き出したいんだけど、仕事についての本音は言わない」
世間話や趣味だという野球の話ならいくらでもするのに、仕事に関しては妙にかたくななのだという。
「自分が仕事できないと思われたくないんでしょうね。でも彼は仕事ができないというよりは段取りが分かってない、うまくいくコツをつかんでないと言った方が正しいような気がするんです。もうちょっと素直になって、こういう場合どうしたらいいんですかって聞いてくれればいいんですけどね……」
レッテルを貼ってはいけない
かたくなになった人の心を溶かしていくのは難しい。彼に「仕事ができない」というレッテルを貼ってはいけないとユリエさんは言う。
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彼のいいところを見て、どうやったら彼の能力を伸ばしていけるのかをなんとか考えていきたいと語るユリエさん。こんなすてきな先輩がいるのだから、ショウタくん、早く気づいて甘えればいいのにと感じてしまう。
「社会人になった最初に先輩が教えるべきことだった。その時の私たちの同僚がいけないのか、聞こうとしなかった彼がいけないのかは分かりません。でも今ならまだ間に合う。あるいは彼が、もっと効率重視の会社に転職したいというならそれでもいい。
仕事が人を追い詰めたり人を曲げてしまったりしてはいけないと思うんです。普段の彼は決して感じの悪い人ではないだけに、心配でならないんですよ。余計なお世話だけど」
どんな仕事も最後は人間性がものを言う。ユリエさんの言葉が重い。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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