ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――昨年12月にパリを訪問したトランプ米次期大統領が、マクロン仏大統領、ゼレンスキー・ウクライナ大統領と会談して、「いまの世の中が狂っているようだ」と発言しました。さらに、ウクライナ支援には否定的な立場を明らかにしました。
佐藤 それとゼレンスキー大統領に対して、ロシア領土に「長距離ミサイルを撃つな」と言っていましたね。
――はい。露大統領府のベスコフ報道官が、「我々の立場と完全に一致している」と同調しました。
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佐藤 だからやっぱり、トランプは現実主義者だということです。エマニュエル・トッドが自著『西洋の敗北』で書いていること全く一緒ですよね?
――はい、そうです。
佐藤 それは私が言っている事も一緒です。だから、リアルに見ている人は最初から同じ見え方になるんですよ。
――すると、1月20日にトランプ王が即位しますが、ウクライナに関してはどうなりますか?
佐藤 「半年以内にウクライナ戦争を止める」と言うと思いますよ。
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――それで、どう止めさせるんですか?
佐藤 「俺はそう言ったんだから、お前らが考えろ」ってことです。
――え?
佐藤 たとえば、日本は殺傷能力のある兵器をウクライナに提供していませんよね? だから「仲介をやりましょう」と動けるわけです。「トランプさん、お手伝いできることは何かございませんか? 御下命ください」と揉み手摺(す)り手でいけばいいんです。
――出ました!! あの名物「御下命」ですね(笑)。
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佐藤 乱暴に言うと「トランプさん、ケツも拭きますよ。金袋も洗います」とアプローチするわけです。
――「何でもやります」と(笑)。
佐藤 そういう感じでトランプの意向を受け入れればいいんです。
――日本がそうしている間、ロシア軍(以下、露軍)はどこまでウクライナに入るんですか? 米英仏製の長距離ミサイルがあるならば、ドニエプル川右岸を全て獲るのですか?
佐藤 そうですね。いまのままであれば右岸まで来るでしょう。
――来れちゃいますね。
佐藤 その能力がありますからね。最近、ドネツク地方の様子がかなり変わってきましたよね?
――露軍は押しに押しています。1日2000人死んでいますが、ガンガン前進しています。
佐藤 それから、クルクスに投入された北朝鮮軍もすごいですよね。「白人を殺したい」からウクライナに来ているわけですから。
――ロシアの軍事ブロガーが、北朝鮮軍がウクライナ兵を300人射殺して、ロシアの集落を奪還したと伝えています。派遣されたのは白人の血に飢えた人狼、"暴風軍団"ですね。
佐藤 全てロシア領内でのことなので、殺害しても問題ないわけですよ。
――はい。これはロシアの対テロ作戦として、テロリストを殺している。だから捕虜はひとりも捕っていない。
佐藤 皆、そこにどうして気付かないのか? ということですよね
――クルクスはいま、二千年前のスパルタ軍の戦場ですよ、映画『スリーハンドレッド』の名台詞、「ノープリズナー、ノーマーシー」(捕虜は取らずに皆殺しだ、容赦するな)のまま、暴風軍団はやっています。
そして、北朝鮮軍は300人を射殺したと露軍事ブロガーが伝えていますが、実際は弾丸ではなく、いろいろな方法で殺されたと思いますよ。
佐藤 やはり、直に殺さないと訓練になりませんからね。どうしても人は初めて人を殺す時、怯(ひる)みますから。
――はい。
佐藤 北朝鮮軍としては、実際の殺しの訓練をやると、かなり錬度が高まると思います。
――高まりますね。そして、北朝鮮軍は無人ドローンの使い方も後方で教わっています。つまり、韓国軍が経験してない21世紀の最前線の実戦テクを学んで、38度線以北に持ち込むことになります。
佐藤 そうです。だから、北の思い通りになっていると言えます。
――38度線界隈もヤバくなってきます。結局、ウクライナの1月20日以降はどうなるんでしょうか?
佐藤 最近ゼレンスキーは「当面、ウクライナ領土のすべてを回復しなくてもいい」などと言っています。しかし結局、米国への亡命でおしまい、という結論は変わりません。ベトナム戦争の際の南ベトナムのグエン・バン・チュー大統領と同じですよ。
――シリアの独裁者、アサド大統領はモスクワに行きましたが、ウクライナのゼレンスキーは、キエフからワシントンに向かうと。
佐藤 そのシナリオしかありません。だって彼は、敗北した大統領になるわけですから。最初から「善戦する」などと曖昧にしておけば良かったのに、「クリミアまで取り戻す」と勝敗ラインを明確にしてしまった。そうしたら、自ら敗北に進んだ。
――やはり、プーチンに学ぶべきでした。
佐藤 そう。プーチンは一言も明確な目標を言っていません。
――で、仮にウクライナが敗戦すると、次の大統領は誰がなるんですか?
佐藤 いません。
――いない!? すると、合議制とか三頭制とかになるのですか?
佐藤 いや、まずひとつは、ウクライナの占領地はそのままになるでしょう。
そして、残ったウクライナがどこかにまるまる一個あるとするならば、そこは誰かが大統領になります。そして、米独ポーランドか、どこかが大統領顧問や米軍顧問みたいなものを置いて統治する形になると思います。
――英独仏ポーランドの4か国がウクライナに進駐するという話が出ていますが、あれはどうなんですか?
佐藤 一応「再建する」ということであり得るシナリオだと思いますよ。
――それぞれの進駐軍の所に軍顧問がいると。
佐藤 さらに高等弁務官みたいなものも置くでしょう。ウクライナ民政府があって、そこで占領政府の高等弁務官、そこを管理する軍顧問がいて、国家を再建する形になるのではないでしょうか。
――トランプ王は、「ロシアの全面侵攻でウクライナが受けた被害の復興には100年以上かかる」と言っていますからね。長い再建となりますね。
佐藤 そうですね。だからロシア・ウクライナ戦争では一昨年の2月24日、その時点で西側連合が負けていたということですね。
――開戦日に負け決定。史上最速の負け戦ではないですか。
佐藤 もうひとつは、イスラエルのハマス・ヒズボラ戦争で、結局、西側の主張する人権というモノは、全く機能しないということ。さらに外交も全く機能しないこと。このふたつのルールが適用されるようになりました。
結局、全ては力で解決する。物事を決めるのは道理よりも力だということが明瞭になりました。
――しかし、その力を行使する時は先ほどの「ノープリズナー、ノーマーシー」でありますね。
佐藤 そう。そういう流れになってきています。
――金正恩最高指導者は、「いよいよ、俺の時代が来た」と自負してますね。
佐藤 そういうことになると思います。
さらに韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が、戒厳令を発して3000人くらい殺す腹を持っていれば、きっと思い通りにいったでしょうね。そうしたら、南北に引き締まった独裁国家が誕生していたでしょうから。でも、先進国でそれだけの人を殺すのは大変ですけどね。ただし、ロシアはそれを実行しました。これがロシアの強さです。
取材・文/小峯隆生