箱根駅伝総括・優勝争い
【山で「想定以上」だった青学大】
今年の箱根駅伝は、青山学院大が10時間41分19秒という大会新記録を打ち立てて連覇を果たした。この11年で8度の総合優勝。青学大には"絶対王者"の風格が漂っている。
一方で、今季の出雲駅伝と全日本大学駅伝を制した國學院大と、スピードキングの佐藤圭汰(3年)が復帰した駒澤大は完敗の形になった。そんな"3強"の差はどこにあったのか。
数字だけで見ると、まずは"山"になるだろう。
往路のアンカーとなる山上りの5区は、前回の同区間で2位だった青学大・若林宏樹(4年)が1時間09分11秒の区間新記録で区間賞を獲得。駒大は「1時間8分台」を狙っていた山川拓馬(3年)が1時間10分55秒の区間4位、國學院大は高山豪起(3年)が1時間12分58秒の区間14位に沈んだ。
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復路のスタートとなる山下りの6区も青学大が強すぎた。前回の6区で区間2位と好走した青学大・野村昭夢(4年)が、区間記録を30秒も更新する56分47秒という驚異的なタイムを叩き出す。駒大も、前々回の区間賞・伊藤蒼唯(3年)が区間歴代5位の57分38秒で快走するも、野村に51秒も引き離された。國學院大・嘉数純平(3年)は59分41秒の区間16位だった。
山は青学大コンビが「想定以上」だったのに対して、駒大は5区の山川に「誤算」があった。山川は全日本の最終8区を日本人歴代2位で走破。2分37秒先にスタートした青学大を大逆転している。"山の神"となる期待が高かった選手だが、「全日本で出しきった後、箱根の上り区間に合わせていくのが難しかった。特殊区間の準備が足りていなかったのかなと思います」と本領を発揮できなかった理由を語った。なお、青学大の若林は全日本に出場していない。
國學院大に関しては、5区の上位にくる大学のタイムについて、前田康弘監督は「1時間10分台では」と話していた。タイムの「読み」が甘かったと言えるかもしれない。
【4区までの組み立てに差】
3強の「山のタイム」(5区と6区の合計)と「総合タイム」を比べてみよう。
青学大 「山」2時間05分58秒 「総合タイム」10時間41分19秒
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駒大 「山」2時間08分33秒 「総合タイム」10時間44分07秒
國學院大 「山」2時間12分39秒 「総合タイム」10時間50分47秒
駒大は山のタイムが青学大から2分35秒遅れで、総合タイムは2分48秒差。國學院大は山のタイムが青学大から6分41秒遅れで、総合タイムは9分28秒差だった。國學院大は平地区間のタイムも青学大と少し差がついたが、駒大に関しては山での差がほぼ総合成績のタイム差になっている。
ただ、駅伝は単純な計算ではない。走力だけでなく、選手のメンタル面がパフォーマンスに大きな影響を及ぼす。青学大が山でフルパワーを引き出すことができたのは、4区までの組み立てがよかった部分も大きいだろう。
4区終了時でトップは中央大。青学大は45秒差の2位につけていた。一方、駒大は青学大から1分32秒差、國學院大は同大を1分38秒差で追いかける展開だった。
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青学大の5区・若林にとって中央大は射程圏内で、自分がヒーローになれるチャンスが大きなモチベーションになっただろう。対して駒大・山川、國學院大・高山は青学大とのビハインドが重荷になったはずだ。
その4区までの流れは、2区のエース対決から徐々にできていった。
青学大・黒田朝日(3年)は、日本人最高記録と区間記録を上回る1時間05分44秒で区間3位。駒大・篠原倖太朗(4年)も、スタート前に設定したタイム(1時間06分30秒)を上回る1時間06分14秒の区間4位と好走したが、3年連続の2区となった國學院大・平林清澄(4年)が苦戦する。1時間06分38秒の区間8位。2区終了時で駒大は青学大と18秒差につけたが、國學院大は50秒差をつけられた。
3区は青学大・鶴川正也(4年)が1時間01分51秒の区間4位、駒大・谷中晴(1年)が1時間02分05秒の区間6位、國學院大・山本歩夢(4年)が1時間01分54秒の区間5位。3強内の順位は変わらず、タイム差もさほどつかなかった。
しかし、4区でレースが動いた。前回に3区を爆走した青学大・太田蒼生(4年)が、区間歴代2位&日本人最高の1時間00分24秒で区間賞。駒大・桑田駿介(1年)は1時間01分24秒の区間4位、國學院大・青木瑠郁(3年)も1時間01分09秒の区間2位と好走するも、"千両役者"の太田にリードを広げられた。
【1区の中大・吉居の独走もレース展開に影響】
他大学を含めたレース全体を占う意味では、1区の展開が優勝争いにも影響したと言えるだろう。中大は、前回7区で区間賞に輝いた吉居駿恭(3年)を当日変更で1区に起用。序盤で抜け出すと、3強の選手たちが反応しなかったこともあり、1分32秒もの大量リードを奪ったのだ。
「往路優勝」を狙っていた創価大は、2区に入った吉田響(4年)が爆走。怒涛の13人抜きを演じると、3区のスティーブン・ムチーニ(2年)が青学大をかわして2位に浮上した。しかし、1区で中大に想像以上の大差をつけられたことが誤算だった、と榎木和貴監督は振り返った。
「正直、吉居くんがあそこまで抜け出すのは予想していませんでした。離されても1分以内かなと。吉居くんの独走がなければ、2区以降の流れも変わっていたと思います」(榎木監督)
創価大は3区のムチーニでトップに立つプランだったが、中大のロケットスタートにそのチャンスを阻まれた。駒大と國學院大も、ペースを乱されたのかもしれない。
あくまで結果論になるが、國學院大はエース平林が本調子ではなかったことを考えると、1区に青木を起用し、ライバル校を引き離す戦略を取ったほうがよかったようにも思える。さらに駒大は、当日変更で7区に入った佐藤圭汰(3年)が区間記録を1分近くも更新。4分07秒あった青学大との差を一気に1分40秒まで短縮している。佐藤を7区ではなく3区に起用していれば、5区を任された選手たちの走りが少し違っていたかもしれない。
いずれにしても、駒大と國學院大は青学大を追いかける形で山に入った時点で、敗北が濃厚になったと言えるだろう。國學院大に関しては、出雲と全日本を制したことで、例年とは比較にならないほど注目を浴びた。その重圧が、コンディショニングにも影響したのかもしれない。
山だけでなく、レース全体の組み立て、選手のピーキングやモチベーション......。すべてで王者・青学大が何枚も上だったと言えそうだ。
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