2025シーズンF1トピックス10(前編)
今年で76回目を迎えるF1世界選手権は、3月16日にオーストラリアのメルボルンで幕を開ける。昨年に続いて史上最多24戦のカレンダーで行なわれ、世界各国を9カ月かけて回ったのち、12月7日のアブダビで閉幕する。
大混戦が予想されるチャンピオン争い、豊作と言われる大型新人ドライバー、そして5年目のシーズンを迎える角田裕毅の走り......。今年も話題に事欠かない。2009年からF1を現地で全戦取材するジャーナリスト・米家峰起氏に注目ポイントを10点挙げてもらった。
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(1)フェルスタッペン5連覇or新王者の誕生か?
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2024年はマックス・フェルスタッペン(レッドブル)がドライバーズチャンピオンに輝き、史上5人目となる4連覇を達成した。しかし、シーズン中盤戦以降はライバルチームの躍進によって大混戦となり、非常に苦しい戦いを強いられた。
2025年はレッドブルとフェルスタッペンの独走になるとは言えないだろう。マクラーレン、フェラーリ、メルセデスAMGとの争いがさらに激しくなる可能性が高い。
4強チーム(レッドブル、マクラーレン、フェラーリ、メルセデスAMG)8人のうち、フェルスタッペンが王者となればミハエル・シューマッハ(2000年〜2004年/フェラーリ)に並ぶ5連覇、ルイス・ハミルトンなら2020年以来で史上最多となる8度目の戴冠、そしてフェルスタッペンとハミルトン以外の6人なら初戴冠となる。誰が王者に輝いたとしても記録的なチャンピオンの誕生だ。
なかでも筆頭候補は、昨年初優勝を挙げて一躍タイトル争いに名乗りを挙げたマクラーレンのランド・ノリス。昨年のノリスは勝ちきれないところもあって4勝にとどまったものの、ポールポジションは8回。純粋な速さでは今、乗りに乗っているドライバーだ。
昨年のフェルスタッペンとの幾度かの絡みで、バトルの強さも身に着けつつある。そこからひと皮剝ければ、圧倒的な速さと強さで頂点に駆け上がる可能性も十分あるだろう。
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昨年の後半戦だけを見れば、フェラーリのエースとしてチームを牽引してきたシャルル・ルクレールは最多ポイントを獲得している。マシンは一発の速さよりもレースペースに優れており、決勝で強さを発揮した。
チームの戦略面やオペレーション面ではやや不安が残るだけに、チームがライバルを上回る最速のマシンさえ完成させられれば、ルクレールはいつでもタイトル争いに挑戦する準備ができているはずだ。そのチームの弱さをカバーすべく、ルクレール自身がチームをさらに強化するために動く必要もあるかも知れない。
メルセデスAMGのジョージ・ラッセルも昨年は実質的に3勝を挙げ(ベルギーGPは最低重量違反で失格)、マシンさえ揃えばタイトル争いに加わってくるドライバーだ。ただし、メルセデスAMGのマシンは本来のパフォーマンスを最大限に発揮できる幅が狭く、コンディションやセットアップを最適な状態に合わせ込めずに低迷することも少なくなかった。
ただ、昨年のシーズン終盤戦はこの対策のためのデータ収集にあてていた。2025年にこの点が改善していれば、常にトップ争いに加わってくるかもしれない。
そしてレッドブルも、昨年途中からマシン開発によって挙動がピーキーになるという問題に悩まされたが、終盤戦にはフロアの改修によってほぼ解決。2025年型RB21がドライバーの攻めやすいマシン挙動になれば、フェルスタッペンの妙技もより一層光るはずだ。
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もちろん、かつてのような独走はもう無理だろう。しかし、4チームが入り乱れるような大混戦の状況こそ、フェルスタッペンとレッドブルの強さが際立つ可能性も高い。
いずれにしても2025年型マシンが発表されるまでは予測できないが、昨シーズンの中盤戦以降のようなレースごとに勢力図が変わり、トップドライバーたちが勝利を分け合う大混戦が2025年シーズンも続くことは間違いないだろう。
(2)現行規定最終年。マシン開発競争を制するのは?
2025年はドライバーと同じく、コンストラクターズタイトル争いも熾烈を極めることになる。
昨年中盤戦以降の最速はマクラーレンであり、今季もマシンレギュレーションが変わらないため、その優位が続く可能性は十分にある。慎重な開発手法でアップデート投入の失敗がなかったように、2025年も着実にパフォーマンスを向上させてくるだろう。
昨シーズン後半戦で最多ポイント獲得のフェラーリは、一発の速さを向上させるのが課題。しかし、中盤戦にフロア開発でつまずいたところから挽回しており、「これをやってはいけない」という問題を把握できているのは2025年型開発において重要だ。
一方、その境界線を行ったり来たりしているのがメルセデスAMGで、2022年は攻めすぎ、2023年は攻めなすぎ、2024年は再び攻めすぎてマシンのパフォーマンスが安定してこなかった。2024年中盤からはマイルドな挙動に収めることに成功しつつあるが、まだパフォーマンスに波があり、完全につかみきっているとは言いがたかった。
2022年の現行規定導入から圧倒的優位を見せてきたレッドブルは、2024年、ついにライバルたちに追いつかれた。昨年5月にチームを離脱したエイドリアン・ニューウェイはマシン設計の実務を担っておらずアドバイザー的立場でしかなかったが、それ以外にも主要メンバーの離脱は進んでおり、現行規定最終年となる2025年にどれだけ注力できるかがカギとなる。
いずれにしても、2026年は車体・パワーユニットともに大幅に刷新されるレギュレーション変更を迎えるため、どのチームも開発リソースを2026年型に集中させたいのが本音だ。2025年型の開発は程々にして、シーズン中盤戦までには開発を終えてしまいたいだろう。
となれば、昨年までのような「シーズン中の開発競争」の勝負ではなく、シーズン開幕時点のマシン競争力、つまり「開幕前の開発競争」の勝負になる可能性が高い。開幕時点で完成度の高いマシンを開発できたチームがその後の流れを支配し、ライバルたちは「追いつく」か「あきらめる」かの選択を強いられることになる。場合によっては、早々に2025年の上位争いから脱落するチームも出てくるかもしれない。
(3)ハミルトンがフェラーリへ。跳ね馬の復活なるか?
2025年は例年と比べて、ドライバーの移籍が多いシーズンとなっている。そのなかでも最大の目玉と言えば、今年40歳になったルイス・ハミルトンのフェラーリ加入だろう。
2007年のデビューから2024年まで、マクラーレンとメルセデスAMGで走ってきたハミルトンは、メルセデスAMG製パワーユニットしかドライブしたことがない。深紅のマシンとレーシングスーツをまとい、どのような走りを見せるのかに注目が集まっている。
7度のタイトルを獲得した2020年以降は、メルセデスAMGの低迷によって実力を発揮しきれていない。ハミルトン自身も「もう速さを失ったのではないかと思った」というほどだ。
しかし昨年、雨絡みのイギリスGPで見事なドライビングを披露した。地元で見事な勝利を収め、ハミルトンらしい速さと強さが健在であることを見せつけた。
移籍したフェラーリでは、開幕までに最大4日間許される旧型車テストと最大2日間のフィルミングデーを利用し、ハミルトンがマシンやエンジニアとの作業を習熟できるよう最大限にサポートする。公式開幕前テストは3日間しかなく、ドライバーひとりあたり1.5日しか走ることができないため、シミュレーターや旧型車テストをいかにうまく活用するかがカギになる。
とはいえ、パワーユニットが違えば電子制御面も違い、それらを駆使したマシン挙動制御の手法や感覚も違ってくる。加えて、ハミルトンが持つ本能的な速さをフルに発揮するためには、エンジニアの理解や情報提供、指示が重要になってくる。
2013年から連れ添ったピーター・ボニントンと離れ、決してそのあたりが優れているとは言えないフェラーリのエンジニア陣との共同作業に移った。すぐには本領発揮といかないことも容易に想像できる。
ぜひともそれらの困難を乗り越えて、すばらしいレースを見せてもらいたい。
(つづく)
◆F1トピックス10・中編>>角田裕毅に有力チームからオファーもあり?