彼氏との旅行とネックレスのため...「織田信長」らの指示で闇バイト 日常を失った20代の男女の後悔

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2025年01月18日 07:06  TBS NEWS DIG

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TBS NEWS DIG

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「彼氏とおそろいのネックレスを」「小遣い稼ぎに」。

【写真を見る】スマホ画面に「織田信長」の文字が…

安易な動機で闇バイトに手を染め、高齢女性の住宅に侵入しようとした初対面の20代男女。「織田信長」や「明智光秀」といった人を食ったようなアカウント名を名乗る男らに操られ、有罪判決を受けた2人が法廷で語ったのは、後悔の言葉だった。

「人を運べば2万円」突然、居酒屋で見知らぬ男から…

森健太郎被告(25)と佐々木梨花被告(22)が東京・新宿で顔を合わせたのは、2024年9月11日の朝だった。初対面の2人は、互いに秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」で“指示役”から命じられ、指定された新宿で落ち合った。2人はレンタカーを借り、栃木県益子町に向かう。途中、ホームセンターに立ち寄り、ガスバーナーと冷却スプレー、金槌を購入。指定された民家にたどり着くと、それらの道具を用いて掃き出し窓のガラスを割り、侵入を試みたが被害者の親族に発見され、駆けつけた警察官に逮捕された。

確保の直前、シグナルで「織田信長」を名乗る“指示役”と電話で通話する森被告の様子を被害者の親族が動画撮影していた。親族はスマホの向こうにいる「織田信長」に問いかけた。

被害者の親族:責任者なのか?
「織田信長」:はい?誰ですか?
被害者の親族:闇バイトを使って何かやっているのか?
「織田信長」:やっていませんけど

とぼけたような様子で「織田信長」との通話は途絶えたが、実行役の2人が犯行に至ったのは、高額報酬を餌にした「闇バイト」がきっかけだった。

森被告が被告人質問で語ったところによると、犯行直前の2024年9月上旬、東京・上野の居酒屋を友人と訪れた際、突然見知らぬ男から「人を運べば2万円稼げる」と声を掛けられたという。

裁判官:「人を運んだら2万円」と言われて、どうして受けようと思ったのか?
森被告:“小遣い稼ぎ”という軽い考えでした

連絡先を交換した男は通信アプリのシグナルで「明智光秀」と名乗り、犯行当日は「織田信長」と名乗る別の男から指示を受けた。

検察官:「明智」や「織田」の指示役同士はつながっていると感じた?
森被告:はい。感じました
弁護士:やることは「人を運ぶ仕事」だと言われていたのでは?
森被告:「明智光秀」からはドライバーの仕事と言われていたが「織田信長」から「空き巣をやってもらう」と言われた
弁護士:それはいつ?
森被告:(現場に向かう途中の)高速を降りたタイミングです

森被告は当時、交際する女性と同居していた。その住所などの個人情報を、事前に指示役に送信してしまっていた。 

弁護士:なぜ(犯行を)断らなかった?
森被告:断ったら家をたたく(強盗に入る)と言われ、彼女の身に危険が及ぶと思い、逃げられないと思った。取り返しのつかないことをしてしまった

「ホワイトかブラックどっちが良い?」と聞かれ…

一方の佐々木被告は犯行時無職で、交際相手の男性と同居。被告人質問などによると、SNSの「X」で「高額求人」と検索。見つけた投稿に「いいね」をしたことで“指示役”の「明智光秀」と連絡を取り始めた。「高額求人」を探した理由は「彼氏とおそろいのネックレスを買い、旅行に行くため」だったという。

弁護士:なぜSNSを使って検索をした?
佐々木被告:彼に養ってもらっていたので感謝の気持ちを示したくて、すぐにお金が手に入ると思ったので行動に移してしまった

 「明智」からシグナルを通じて「ホワイトかブラックどっちが良い?」と聞かれ、「ホワイトだったら書類の受け取りで2万円、ブラックだったら40万円」と提示されたという。

佐々木被告は「40万円の求人」を選択。犯行当日は“指示役”が「徳川家康」に切り替わり、指示通りに見張りの役割を果たした。

弁護士:(犯行を振り返って)いまどう思う?
佐々木被告:バカだなと思います。普通に仕事をしてコツコツ貯めればよかったと後悔しています
検察官:(犯行を巡り現地で指示役に脅された際)彼氏に助けを求めずに黙っていた理由は?
佐々木被告:彼に迷惑を掛けたくなかった。プレゼントや旅行はサプライズでしたかったので彼に連絡するという手段は選ばなかった
検察官:家族や恋人以外であれば、迷惑を掛けたり被害が及んだりしても良いのか?
佐々木被告:そこまで思っていなかった。頭の中がパンクしそうなほどこんがらがっていて、どうすればいいか分からなかった

我が子の身を案じて「身元を引き受ける」と約束する両被告の父親と母親も裁判に出廷した。被告人質問では、よく通る声でハキハキと受け答えしていた佐々木被告だが、自身の母親が情状証人として出廷すると、トレーナーの袖で何度も涙をぬぐい、鼻をすする音が法廷に響いた。森被告も社会復帰後は父親と暮らし、同じ職場で働くという。

2人の被告に共通するのは、恋人と暮らしを営む日常から、ふとしたきっかけで闇バイトに関与し、取り返しのつかない結果を招いた点だ。いずれもこれまでに犯罪グループなどと関わりは無く、安易な動機から犯行に駆り出された。有り体に言えば、2人は犯罪と近い“悪い人”ではなく、ごく普通の若者に見えた。それだけに、日常から地続きにある“闇バイト”の恐ろしさが際立った裁判だった。

宇都宮地裁真岡支部は1月16日、「指示役や実行役など複数の共犯者が関与した組織的かつ計画的な犯行であり悪質性は非常に高い」として、2人に懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。

“指示役”の男たちの行方はいまだに分かっていない。

(TBSテレビ報道局社会部 佐藤浩太郎)

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  • 物欲と娯楽目的で、安易に犯罪に手を染めるヤツに同情はないね。そんなカネで楽しめる神経が分からん。
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