下馬評は芳しくなかった。
2シーズンぶりのプレミアリーグ復帰とはいえ、即戦力を十分に揃えられなかった。多くのメディアが降格候補のひとつに数え、残留を予想する声はほとんど聞こえてこなかった。
案の定、サウサンプトンはスタートダッシュに失敗した。1節ニューカッスル戦と2節ノッティンガム・フォレスト戦に0-1で連敗。スコアは惜敗だが、プレー強度の違いは歴然としていた。4節のマンチェスター・ユナイテッド戦は試合開始から30分ほど主導権を握っていたが、結果的には0-3の敗北だ。
5節のイプスウィッチ戦でようやく勝ち点1を獲得したが、その後はボーンマス、アーセナル、レスター、マンチェスター・シティに敗れ、続くエバートン戦でシーズン初勝利を挙げたあとも2分9敗と大苦戦を強いられている。
21試合を消化して1勝3分17敗・勝ち点6は、19位のレスターと8ポイント差もある最下位だ。13得点はワースト、47失点はワースト2位。ポジティブな要素が見当たらない。
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ちなみにプレミアリーグの不名誉なワースト記録(38試合制/最少勝ち点11、最少勝利1、最少得点20、最多失点89)は、2007-08シーズンのダービーが依然としてキープしている。
ネガティヴに書き換えたとしても不思議ではないほど、今シーズンのサウサンプトンは低調だ。
2024年12月にラッセル・マーティンを解任し、イバン・ユリッチ(前ローマ監督)を新しいボスに招聘したあとも、ポゼッションがゲームプランの軸であることに変わりはない。ただし、ボールをつないでいるだけで、相手守備陣を混乱に陥れるような迫力・工夫を欠いている。この弱点はシーズン前から指摘されていたもので、監督が代わっても手つかずだ。
残念ながら、サウサンプトンがプレミアリーグに残留できる公算は極めて小さい。現時点で 「劇薬」を注入するような補強は期待できず、現有勢力で戦うしかないからだ。
そもそも、折り返し点をすぎて「わずか6ポイント」のクラブに、誰が好き好んでやって来るというのだろうか。
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【菅原のアシスト数が少ない原因】
もちろん、過去には2006-07シーズンのウェストハムが30節から7勝2敗、 2014-15シーズンのレスターは残り9試合を7勝1分1敗という驚異的な復元力を見せ、見事に生き残った例もある。
だが、折り返し点を迎えた時点でウェストハムは18ポイント、レスターは13ポイントを刻んでいた。サウサンプトンの6ポイントは絶望的すぎる。
「若く、有能な選手が揃っている。このチームを率いるのが楽しみだ」
監督就任直後のベリッチが語ったように、サウサンプトンは少なからぬ有望株を擁している。CBテイラー・ハーウッド=ベリス(22歳)、MFタイラー・ディブリング(18歳)、そしてSB菅原由勢(24歳)の3人だ。
ハーウッド=ベリスはマンチェスター・Cのユースで育ったサラブレッドだ。足もとの技術に優れ、パスの精度も非常に高い。なおかつ対人に強く、現代サッカーがCBに求める要素をすべて搭載した逸材である。
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「ポテンシャルは申し分ない」
イングランド代表のトーマス・トゥヘル監督も要注目のスーパースター候補生だ。
ディブリングはマンチェスター・Uがモニタリングを続け、早ければ今冬にも正式オファーを届けるとも噂される右サイドのアタッカーだ。柔軟なドリブルでマーカーを無力にし、ボールコントロールは優雅ですらある。彼もまた、エリート候補といって差し支えない。
そして菅原は、昨年7月にオランダのAZから完全移籍してきたプレミアリーグ1年目。右足から放たれるクロスは、プレミアリーグでもトップクラスの正確性を誇っている。
チームのアタッカーがバタバタしなければ、インサイドで的確にミートさえしてくれれば、菅原のアシスト数は絶対に増えていた。20試合を消化した時点でたった2。冗談じゃない! ふたケタ近くあってしかるべきだ。
チーム自体の決定力が低いため、彼らの連係が整ってもおのずと限界はあるだろうが、ゲームプランの基軸にハーウッド=ベリス、ディブリング、菅原を据え、右サイドにストロングポイントを作る──。プレミア残留の一策として考えられなくはない。
【プレミアリーグ内で移籍するなら...】
今シーズン限りでサウサンプトンがチャンピオンシップ(実質2部)に降格した場合、菅原はプレミアリーグにこだわるべきだ。右足の精度は多くのクラブが欲するレベルであり、複数のオファーが舞い込むに違いない。
オランダ代表のジョエル・フェルトマンが33歳になったブライトンは、右サイドバックに新たな人材を求めている。ニューカッスルも移籍先の選択肢のひとつに加えていいだろう。ベテランのキーラン・トリッピアーはおそらく今シーズン限りで退団する。有望株ティノ・リヴラメントとのレギュラー争いも刺激的だ。
古豪ウェストハムも菅原のプレースタイルに適している。新監督のグレアム・ポッターがポゼッションスタイルを追求しているからだ。対人に強いアーロン・ワン=ビサカはボール扱いに難があるため、ポッター監督が足もとの技術に優れた菅原に白羽の矢を立てるかもしれない。
そしてもうひとつ、オススメしたいチームはボーンマスだ。
プレー強度はプレミアリーグ屈指の高さを誇り、アーセナルのミケル・アルテタ監督やマンチェスター・Cのジョゼップ・グアルディオラ監督が「最もやりにくいチームのひとつ」と警戒するクセモノである。
今シーズンはマンチェスターの両巨頭とアーセナル、トッテナムを破り、先日のチェルシー戦でも引き分けている。ハイプレスとカウンタープレスに磨きがかかり、21節終了時点で8位。直近9試合は5勝4分無敗。ビッグネームを擁さずしての好成績に、ボーンマスを率いるアンドニ・イラオラ監督の評価は日増しに高まっている。
現在、右サイドバックの一番手はジェームズ・ヒル、二番手はルイス・クック、そのあとに負傷欠場中のアダム・スミス、フリアン・アラウホが続く。一見、人材は十分に映るが、クックは本来MFのレギュラーだ。ヒルとスミスもこれといった決め手に欠ける。アラウホはハムストリングの故障を抱えてフル稼働は難しい。イラオラ監督のレーダーに、すでに菅原は捉えられているかもしれない。
【チームへの愛情を公言する菅原だが...】
今のサウサンプトンはクラブそのものに競争力が乏しく、苦境を打破するビジョンもない。あらゆる意味でクオリティが不足し、1月16に行なわれた21節のマンチェスター・U戦は「試合終盤の戦い方が素直すぎた」(ユリッチ監督)結果、残り10分で3失点を喫して敗れた。
サウサンプトンの残留は、至難の業だ。イングランド代表歴を持つDFカイル・ウォーカー=ピーターズは、適度なオファーが届けば、今冬の移籍を決断するという。
事あるごとにチームへの愛情を公言する菅原にも、いずれ決断の時はやって来る。プレミアリーグにこだわるのなら、シーズン終了後にサウサンプトンとの関係を清算せざるをえない。
世界最強リーグへのチャレンジがわずか1シーズンで終わるなんて、あまりにももったいないではないか。