久保建英の活躍で変わった日本人観 スペインで飛躍が期待できるディフェンダーはいるか

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2025年01月20日 07:10  webスポルティーバ

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リーガ移籍候補を探る(4)〜DF編

 久保建英はレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)で、チームをチャンピオンズリーグに導き、昨シーズンのベスト16にも勝ち進んでいる。それはラ・リーガに挑戦してきた日本人選手としては、特筆すべき実績と言える。おかげで、日本人選手がスペイン国内で軽視されなくなった。

 彼に続く日本人選手は出るのか......最終回は日本人守備者たちの可能性を探った。

 現在まで、スペイン1部に挑戦した日本人ディフェンダーはひとりもいない。2部でも、ヒムナスティック・タラゴナで2シーズン半にわたってプレーした鈴木大輔(ジェフ千葉)だけである。つまり、未踏の地に近いわけだ。

 鈴木は1年目の挑戦でポジションを奪い取って、チームを3位に導いた。これは小さな快挙と言える。結局、昇格プレーオフに回ってしまい、オサスナに敗れて昇格を逃したが、あと一歩で、自力で1部に手が届いていた。"たら・れば"はプロの世界で禁物だが、もし昇格をつかめていれば、違う経験を積むことができただろう。

「1年目は勢いでプレーオフまでいけましたが、2年目は苦しんで、3年目でようやく全体を掌握でき始めて......タフなリーグだと思います。練習で毎日100%を出さないと、ポジションどころか、メンバー入りさえ危うい」

 当時、鈴木はそう語っていたが、やればやるほど奥の深さを感じたという。それは守備者特有の感覚かもしれない。

「スペインではとにかく"今"が大事。どんどんチームがアップデートされる。たとえば最終節のスタメンは、1月以降の補強で入った選手が半分近くだったんです。他にも、右サイドバックはキャプテンなのに、自分がよかったら、次の試合はベンチに回る。センターバックもずっと主力選手だったのに、自分が代わりに出たあとは、出場停止が明けてもベンチ外でした。この競争の激しさは、日本ではありえない」

 Jリーグと違い、ゲーム形式になると、選手たちの目の色が変わるという。プレスは「殺しにくるんじゃないか」という迫力がある。球際の強度がまるで違った。Jリーグでは、プレスは(目の前で)止まるのだが、スペインでは勢いのままに襲いかかってくる。距離感の違いには面食らう。

 センターバックは、そうした湧き上がる熱を一身に受け止める。それは驚嘆すべき圧力で、外から見るのと、中で見る景色は別物だという。うねるような熱のなか、平常心を保てるか、常に試される。

【攻撃よりも"スペイン流"への適応が要求される】

 ラ・リーガ1部のディフェンス強度は、プレミアリーグより劣るかもしれない。しかし、ずる賢い選手同士の対戦になるだけに、最大限の集中が求められる。ドイツやオランダでのプレーを経験していても、慣れるのに苦労するはずだ。ベルギーやスコットランドの1部では、スペイン2部レベルがいいところだ。

 そして守りのポジションは、攻撃のポジションよりも"スペイン流"の適応が要求される。動きの連係では、どうしても考え方の違いが出るため、そのズレに対応するのに労力を使う。言葉がわからないことは致命的なハンデになる。

「サッカーボールは世界の共通語」というのはまやかしである。少なくともスペインでは、スペイン語でコミュニケーションを取れる選手だけが本来の力を出せる。ガレス・ベイルは英語しか話せず、最後は孤立していた。

 適性のある日本人ディフェンスは少ないが、たとえば吉田麻也は条件を満たすだろう。吉田はオランダ、イングランド、イタリア、ドイツと欧州各国でプレーした後、MLSのロサンゼルス・ギャラクシーでは優勝チームのキャプテンになっている。その適応力は特筆に値する。彼がバックラインからうるさいほど声をかけ続けられるのは、単なるリーダーシップだけではなく、それだけ頭を使っているからだ。

「吉田は弱点を見せないうまさがある」

 スペイン人スカウトたちも語っていたが、実に老練なディフェンダーで、最盛期だったら、ラ・リーガでも十分にプレーできたはずだ。

 冨安健洋も、あらゆる資質に恵まれているディフェンダーだ。ただ、彼はすでにアーセナルのプレーヤーで、スペインでもプレーできる力があるのは明白だろう。言い換えれば、ラ・リーガに新天地を求める可能性は低い。そして何よりケガが心配だ。

 他にも、板倉滉(ボルシアMG)は実力者だし、瀬古歩夢(グラスホッパー)は高さやパワーがあり、町田浩樹(ユニオン・サン・ジロワーズ)は左利きでセンスも感じさせる。ただし、決定打がない。外国人枠も限られたなかで日本人ディフェンダーを獲得するべきか、という疑問が残る。

 サイドバックも、同じことが言える。菅原由勢(サウサンプトン)、毎熊晟矢(AZ)は好選手だし、攻撃面でアドバンテージを作り出せる。しかし、ラ・リーガでは久保のようなアタッカーたちが仕掛けてくるわけで、サイドバックは防御力を求められる。各クラブとも、サイドバックは自前選手、もしくはスペイン人選手を多用する傾向があるだけに、競争は分が悪いだろう。

 かつての酒井宏樹(オークランド)だったら、スペイン挑戦をあと押ししたいところだが......。

 最後にGKだが、このポジションは次世代に託したい。ラ・リーガのGKは1部の正GKだけでなく、控えGK、2部のGKに至るまで、ハイクオリティ。日本代表レベルのGKがそこら中にいる。

 たとえば、バレンシアは今シーズン、1部残留争いの最中だが、GKはギオルギ・ママルダシュビリ、ストレ・ディミトリエフスキ、ハウメ・ドメネクと、3人とも実力派揃いだ。ジョージア代表ママルダシュビリはユーロ2024でも注目を浴び、北マケドニア代表ディミトリエフスキはかつて鈴木のチームメイトで、シュートストップは神がかり的だ。ドメネクも過去にはバレンシアの正GKだったことがあり、堅牢さを誇る。

 GKのポジションは、残念ながら日本とはまだ差があるのが実情だ。

 久保が開拓した日本人選手の居場所を、さらに広げられるか。その答えは日本サッカーの発展とも同義と言えるだろう。

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