東京女子医大の元理事長、岩本絹子容疑者(78)が背任容疑で逮捕されてから20日で1週間になる。同容疑者は少なくとも大学の資金計約8700万円を自身に還流させたとみられるが、使途は明らかになっていない。関係先からは現金約2億円と金塊(約2億円相当)が見つかっており、警視庁捜査2課は動機や背景などの全容解明を急いでいる。
捜査のきっかけは2023年春に受理した、同大OGらが「(岩本容疑者が)理事会を経ずに外部の業者と業務委託契約を結んだ」と訴えた刑事告発だった。同容疑者を巡っては、その後も大学の支出に関して複数の疑惑が指摘された。
同課が注目したのは、同大関連工事の建築アドバイザー業務報酬などとして、大学から1級建築士の男(68)に計約2億6700万円を不正支出させたとされる疑惑だった。
ただ、岩本容疑者は男から自身に資金を還流させる際、現金でやりとりをさせており、「足を付きづらくしていた」(捜査関係者)。そのため、金の流れを追いにくく、捜査は難航した。
1年半以上にわたる内偵捜査の中で、同課は現金が引き出された口座の履歴や、関係者の供述を積み重ねるなどして、証拠をそろえていった。新校舎建設について、工事を管理したのは別の建築士で、男に業務実態はなかったと判断し、13日に岩本容疑者を背任容疑で逮捕に踏み切った。背任罪の公訴時効が1カ月半後に迫る「かなりギリギリ」(捜査幹部)のタイミングだった。
今後の捜査は、動機や背景にどこまで迫れるかが焦点となる。複数の関係者は、岩本容疑者は熱を上げていた宝塚歌劇団の劇団員を金銭支援し、ブランド品の購入にも目がなかったと明かす。「権力維持のため、周囲に金品を配っていた」との証言もあり、同課は同容疑者への取り調べを通じ、不正に得た資金の使途を明らかにすることが、動機などの全容解明につながるとみている。
副理事長に就任して以降、約10年間にわたり、同大で絶大な権力を誇った岩本容疑者。捜査幹部はこう語る。「権力は組織のために、社会に対し正しく行使されなければならない。岩本容疑者はこの道を大きく踏み外した」。