覚せい剤の売人として、反社の男性に歌舞伎町を連れ回された経験や、薬物を使用して友人にさまざまな異常行動を目撃された経験を持つ、セクシー女優の合沢萌さん。
13年の服役生活を経て社会に復帰してからは、自分の体験を多くの人に語ることで、薬物に関する啓発活動を続けています。
今回は売人時代の話や、薬物の影響で合沢さんが経験した異常な体験、覚せい剤の入り口としてのオーバードーズの危険性などを聞かせてもらいました。
◆売人に「注射やってみなよ」と言われ…
――覚せい剤って、実際にはどのように摂取しているのでしょうか。なんとなく「注射」しているイメージはありますが。
合沢萌(以下、合沢):注射のほかに、覚せい剤を「あぶる」ためにガラスパイプを使うこともあります。ガラスパイプの中の覚せい剤をライターなどであぶって、気化した覚せい剤を吸入するんです。私もまず「あぶり」から始めて、途中で注射にしました。
――なぜあぶりから注射のほうに?
合沢:よく買いに行っていた売人に「やってみなよ」とすすめられたのがきっかけです。最初はあぶりで、慣れたら注射にする中毒者は多いですね。
◆注射器を「毎回替えない」常習者の危険性
――注射器は毎回替えるんですか?
合沢:お金に余裕ができてからは、私は毎回代えていました。でもお金がないときは、3回くらいは使いまわしていましたね。でもだんだん、最初みたいに針がスッと入らなくなって、力を込めて「ズブズブ」って刺すんです。痛いんですけど、それでも止められないんですよ。
――聞いているだけで、腕がムズムズしてきますね。
合沢:あと、注射器を捨てるのも大変なので、使用済みの注射器をまとめて置いておいたんですよ。そうしたら薬を買いに来た子が「アレ、もらっていいですか?」って言いだして。
「私が使った注射器だけじゃないから、病気になるかもしれないよ。止めなさい!」と言ったんですけど、その子は「大丈夫、私、もうC型肝炎になってるんで」って。
「そういう問題じゃない、もっと怖い病気になるよ」って言っても「煮沸すれば大丈夫」って、結局持って帰っちゃいました。
――そのあたりの判断も、もうマトモとは言えませんね。
◆ホテルの自室に客を入れて薬物を売っていたことも
――と言うか、お客さんが薬を買いに自宅まで来ていたんですか?
合沢:人の出入りに甘いビジネスホテルを取って、そこで売っていましたね。初めてのお客さんは廊下でやり取りをするんですが、常連になってくると部屋に入れていました。
――そうなんですね。イメージとしては、闇取引みたいに路上でスッと渡してスッと別れる、みたいに考えていました。
合沢:私の場合は、もう常連になったらお友達、みたいな感じで。お客さんが部屋に入って、次のお客さんが来るまでの間、ダラダラしている「たまり場」になっていました。
そこで出会って、付き合うようになったお客さんもいましたね。私はお客さん同士を会わせるのは良くないかな、と思っていたんですけど、タイミング的に会っちゃうこともあって。
◆薬物を通じてできる人間関係は錯覚でしかない
――なんだか不思議な人間関係ですね。
合沢:そうですね、やっぱり寂しい人、孤独な人が多かったのかな、と思います。だから私のところを「居場所」みたいに感じて、いろいろと話して仲良くしちゃう。
私もそうやって懐かれると悪い気はしないし、なんだか「スナック」みたいな感じで楽しんでいました。私も当時は孤独感があったので、仲間ができたみたいな気持ちになっていたんです。
――薬の話なんて、ほかの場所ではできないでしょうしね。
合沢:でも、結局は錯覚、勘違いの仲間関係なんですよ。全然プラスの関係性ではない。私も「こんなにいいものを売ってくれてありがとう!」なんて言われて、懐かれて、それで「私はいいことをしている」って思っていました。
でも結局は、薬とお金でつながっているだけの関係ですから。けっして「友達」や「仲間」なんて言えるものではないんです。
◆覚せい剤は「生きていくためにできることの選択肢を狭める」
――しかし覚せい剤を止められないのは、やっぱり使ったときに気持ち良いからなんですかね。
合沢:あと、高揚感ですね。仕事をやり遂げたときみたいな、充実感と高揚感。それが気軽に体験できるから、ハマってしまうんです。
――でも、身体にも精神にも良くはないですよね。
合沢:もちろんです。大量に摂取すれば身体的に危ないですし、精神的にやられてしまう人もいます。私も「誰かが殺しに来る」なんて妄想に取り付かれたことがありますね。マトモな判断ができなくなって、包丁を持ち歩いたこともありました。
――それはとても危険ですね。人とぶつかって、反射的に刺しちゃう、なんてこともあったかもしれない。
合沢:本当に反省しています。覚せい剤を使って良いことは一つもないです。得られるのは、本当に一瞬の快楽だけ。なによりも、人間としてダメになります、仕事もしなくなりますし。
もし逮捕されたら、出所してから社会に溶け込もうとしても、とても難しい。私だって、今こうやってYouTubeやTikTokで活動しているのは、結局生きていくためにできることの選択肢が狭まってしまった、という理由もあるからなんです。
◆「オーバードーズ」を楽しむ若者たち
――覚せい剤以外にも、若い人達の間で「オーバードーズ」が流行している、なんて問題もあるようですね。
合沢:はい。市販の薬、風邪薬や、病院でもらえる睡眠薬や精神安定剤なんかを大量に摂取するのが、基本的なオーバードーズのやり方ですね。
――大量に摂取するのが、やっぱり基本的な方法ですか。
合沢:そうですね、少しだとそれほど効き目がありませんから。私はオーバードーズを楽しむ趣味はないんですけれども、以前睡眠薬を「あんまり効かないな」と思って、ちょっと飲み過ぎちゃったことがあるんです。
そうしたら、もうグラングランになっちゃって。私は気持ち悪くなっちゃったんですが、人によってはこのグラングランになる状態、これが気持ち良いって人がいるんです。
――酔っ払ったみたいな感じですか?
合沢:風邪薬や睡眠薬を大量に飲むと酩酊状態に近くなって、フワフワとした感覚が味わえるそうです。でも錯乱状態になることもあるらしいので、危険なのは間違いないですね。
◆若者が感じる「居場所のなさ」が、薬物への入り口に
――やっぱり、オーバードーズと言えばいまだに「トー横」ですか?
合沢:見回りなどが強化されて、数はだいぶ減りましたけど、まだいることはいますね。お酒のニオイがしないのにぐったりしているような子は、まずオーバードーズ状態です。
――なんで若い子たちが、オーバードーズにハマってしまうんでしょうか?
合沢:やっぱり、自分の居場所がココにしかない、と思い込んでいる部分があるのかもしれません。そこから出ようとしないから、目の前にあるオーバードーズという刺激に手を出してハマってしまう。
あと、周囲の仲間がやっているから、という理由もあるでしょうね。そういう意味で、覚せい剤を売っていたときの私と同じような状態、偽物の関係性にすがりついている状態なんだと思います。
◆歌舞伎町をパトロールして自身の体験を伝えている
――だから合沢さんは、歌舞伎町の夜のパトロールにも参加しているんですね。
合沢:実際に逮捕されて、30代をすべて刑務所で過ごしたような私の体験などを話せば、若い子たちも話を聞いてくれるんです。
実際に話してみれば、本当に普通の子たちなんですよね。だから私の話を聞いて、少しでもなにかを感じて、自分のやりたいことや本当の居場所に気付いてくれれば良い、と思いますね。
――最後に、今後の合沢さんの具体的な活動について、聞かせてください。
合沢:今はYouTubeやTikTokで動画を配信して、薬物依存症や刑務所にいたときの話をしています。ライブ配信などもしていて、そこには前科がある人たちなんかも集まってきますので、いろいろな話も聞けると思います。
あと、2025年には、依存症からの回復を目指す人のためのNPO法人「日本ダルク」での講師が決まっています。そういった場所で、今後も薬物の危険性を伝える啓発活動を続けていきたいですね。
<取材・文/蒼樹リュウスケ 撮影/星亘>
【蒼樹リュウスケ】
単純に「本が好きだから」との理由で出版社に入社。雑誌制作をメインに仕事を続け、なんとなくフリーライターとして独立。「なんか面白ければ、それで良し」をモットーに、興味を持ったことを取材して記事にしながら人生を楽しむタイプのおじさんライター