子ども服ブランドで知られるファミリア(神戸市)の雑貨部門が好調だ。2024年上半期の売上高は前年同期比で8億円増加し、全体の約6割を占めるまでに成長した。近年は大人向けアイテムへの注目が高まり、新たな顧客層を獲得している。どのような背景と戦略があるのか、話を聞いた。
●関西発の"雑貨文化"が全国区に
実は、ファミリアの雑貨への注目は、今に始まったことではない。創業当時から通学用バッグやタオルハンカチなど、子どもの生活に必要な雑貨類を展開しており、特に発祥の地である神戸では、大人の日常生活にファミリアの雑貨が溶け込む文化が根付いている。
「神戸を中心に関西圏では、以前から大人の方にも雑貨は人気だった。近年はその傾向がより顕著になり、大人が使いやすいアイテムの企画が増えている」と同社営業の佐々木あかりさんは説明する。
|
|
トートバッグやサブバッグなどは、以前から大人が主な使用者だったという。子ども向けのポシェットを大人が使用するケースも多い。紐(ひも)の長さを調節すれば大人も使えるため、それぞれのライフスタイルに合わせた使い方が広がっている。
「バッグ類はサイズを問わないため、子ども向けといった枠にとらわれることなく、誰もが使いやすいサイズ感で展開してきた」(佐々木さん)
雑貨類で最も人気の高い商品は、タオルハンカチだ。日常的に使いやすく、ちょっとしたギフトにも適していることから、ファミリアのメインアイテムとして定着している。男性からも「ファミリアのチェック柄のみのデザインなら使いやすい」といった声もあり、幅広い層に支持されている。
●注目を集める大人向け展開
そんな雑貨部門の成長を後押ししているのが、他ブランドとのコラボ展開だ。2024年4月には、8社とのコラボ商品を販売した。20〜30代女性に人気のブランドとの取り組みが好調で、これが2024年上半期の雑貨売上高増の大きな要因となった。
|
|
販売チャネルの開拓も進めている。従来は百貨店の子ども服売り場が中心だったが、若い世代が多く行き交う商業施設でのポップアップショップも積極的に展開している。10月に2週間実施した渋谷スクランブルスクエアでのポップアップでは、9日目に予算を達成するなど、新規顧客の獲得にもつながったようだ。
こうした新たな層へのアプローチは、公式SNSを通じた情報発信の効果にも表れている。公式Instagramのフォロワー数は、1年で約10万人増加し、31万人に到達した(1月20日現在)。特に、コラボ商品の販売告知時には反響が大きく、プレゼントキャンペーンなどの施策とも相まって、着実にブランドの認知度を高めている
「コラボ企業とファミリア、双方のファンが興味を持ってくれることで新たな層との接点が生まれている」と佐々木さんは分析する。
●ブランド全体の世界観を統一したデザイン
大人向けアイテムの需要が増える中でも、ファミリアのものづくりの姿勢は変わらない。創業当初から手作業でのものづくりを継続している点が同社の特徴だ。
|
|
アート作成時はフェルトや毛糸をはさみで切るところから始め、最終的な量産過程でデータ化する。この一貫した手法により、大人向けアイテムにも子ども服で培ったファミリアらしさが表現できているという。
子ども服のアートを雑貨に転用するなど、ファミリアでは子ども向けも大人向けもデザイン部門を分けていない。大人向け雑貨では、くすみカラーやワンポイントといったシンプルなデザインを増やし、デザイナーが一貫して開発する体制を構築することで、ブランド全体の統一感を保っている。
「子ども服も大人向けアイテムも統一された世界観でものづくりができており、その点を評価いただいている」(佐々木さん)
ただし、人気商品の供給には課題もある。コラボ商品は即日完売することも多く、資材や生産面での制約から、どうしても数量に限りが出てしまう。「より多くの方に手に取っていただきたい思いはあるが、物理的な要因で難しい状況」と佐々木さんは語る。
●子どもを軸に、可能性を広げる
供給面に課題はあるものの、コラボ商品を中心に雑貨の売り上げは好調だ。一方で、主力の子ども服事業は横ばいが続いている。これは、子ども服業界共通の課題でもある子どもの成長に伴うサイズアウトも要因だ。そこで同社では、「卒業されない」ブランドを目指し、顧客との継続的な関係構築に向けた取り組みを進めている。
その一環として力を入れているのが、産前産後の親子向けサービス「1000days」だ。妊娠から出産後2歳の誕生日までの1000日間を対象に、マタニティセミナーの開催や育児に役立つ情報配信を通じて、早い段階でブランドとの接点を築いている。コロナ禍でも継続して実施し、現在も予約が埋まるほどの人気プログラムとなっている。
もう一つの取り組みが、大人向け市場への本格参入だ。2024年3月には大阪・ルクア イーレに、全国初のギフトショップを開設。子ども服を置かず、雑貨やギフトアイテムを中心とした売り場を展開している。
3月末には、広島駅近くに開業する新駅ビル「ミナモア」に2号店を開業する予定だ。サイズアウトで「卒業されない」ブランドを目指し、大人も使えて家族で楽しめるコンテンツの強化を進めている。
今年で創業75周年を迎える老舗は、「100年企業」に向けて歩みを進める。長年培ってきた子ども服のノウハウを生かしながら、新たな顧客層の開拓にも力を入れる。「当社の強みは子どもという点は変わらないが、ライフスタイル全般に寄り添えるブランドとして、さらに進化していきたい」と佐々木さんは語る。
子ども向けアイテムを中心に据えながら、時代のニーズに合わせて着実に可能性を広げている。
(カワブチカズキ)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。