「転売問題は法による規制では解決できない!?」 転売ヤーに直撃取材した驚愕の1冊を刊行‼

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2025年01月21日 06:40  週プレNEWS

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度々話題に上がる転売問題。どう対処すればよいのか!?


転売ヤーに対する怨嗟は日々、SNSに渦巻いている。そもそも転売ヤーとはどのような人々で、いかに商品を仕入れ、売りさばいているのだろうか? 『転売ヤー 闇の経済学』は、ポケモンカード、羽生結弦グッズ、PS5、ディズニーグッズなどを例に知られざる転売ヤーの生態と転売の仕組みを取材した一冊。著者はフリーライターの
奥窪優木さんだ。

* * *

――転売ヤーを取材しようと思ったきっかけは?

奥窪 もともと中国社会を題材に書くことが多く、在日中国人のグレービジネスのひとつとして、転売事情をウオッチしていました。2016年頃は紙オムツやミルク、iPhoneが中国で転売されていて、最初は「中国人が日本で行列している」と話題になったんですよね。

それがコロナ禍でマスク転売が注目されて、取材してみると奥深い世界だった。組織が何層にもなっていて、結局、一番儲けたのは中国のマスク工場で、日本で転売していた人たちにそれほど利益は出ていなかった。それも20年の秋くらいには収束して、21年になるとそれまで裏社会でグレービジネスをしていた人たちが「転売だ!」と盛んに言い始めたんです。

――コロナ禍と関係があるのでしょうか?

奥窪 後になってわかったんですが、コロナ禍の中国でロックダウンがあって、旅行にも行けず、お金の使い道がなくなった人たちが「せめて日本の商品が欲しい」と思ったところから転売需要が生まれていました。

私もその頃は週刊誌などで「こんな場所に人が殺到している」といった表面的な記事を書いたりしていました。調べ始めると、日本社会で転売ヤーがすごく嫌われているのを痛感するようになったんですね。

その割には転売ヤーの生態には興味が持たれていなくて、転売する理由や実像を伴わないままやみくもに「転売ヤー死ね」ってSNSに書いていたりする。その頃には「転売問題は社会問題のひとつだな」と思うようになりました。転売問題は相手を叩くだけでは解決しません。根源がどこにあるのか調べてみたいと思ったんです。

――転売ヤーは海外では日本ほど非難されていないのですか?

奥窪 そうですね。中国人転売ヤーは自分たちのことを「バイヤー」と名乗っていますし、アメリカでも「リセラー」と呼ばれる、当たり前の商売です。

欲しいと思う商品の行列に転売ヤーがたくさんいて、自分が買えなかったのなら怒るのは当然ですが、日本だと当事者でない人も、みんな怒っていますよね。それはユニークというか日本ならではだな、と。これは想像ですけれど「労せずして利益を得る」ことを嫌う人が多いんじゃないですか。FXトレーダーが嫌われるみたいに。

――本書では転売集団や大学生で転売ヤーになったSくんに密着取材をしています。取材対象とはどうやってコンタクトを取ったんでしょう。

奥窪 例えばディズニーグッズの転売グループの場合、リーダー格の女性が闇民泊をやっていたときに取材したことがありました。コロナ禍で民泊がダメになって始めたのが転売ビジネスだった――ということで、取材できました。

大学生のSくんは海外旅行の安宿で知り合った人。取材をすることになって「誰か転売やっている人を知らないですか」と聞いたら「僕がやってます」と言われて。

それくらい取材先には事欠かないというか、知り合いに紹介してもらえましたね。感覚としては100人いたら1人は転売をやっているんじゃないかな。

――年収1000万円ほどの会社員がデパートの外商顧客になり、入手困難なウイスキーや焼酎を転売している話も驚きました。

奥窪 お酒もそうですし、バスケットシューズやスニーカーなど転売で売ったほうが高く売れるとき、販売店が流していたという話もありますよね。

そういう市場自体がおかしいと思います。転売ヤーが目をつけるのは限定品や希少品。特に一番狙われるのは「会場限定品」です。ディズニーランドでも行かないと買えないものは絶対に儲かるのでターゲットになりますね。

――組織的な転売ヤーがどのように商品を購入するのかについても、本書では書かれています。違法でないとわかっていても、モヤモヤします。

奥窪 結局、需要と供給の均衡価格に近い価格で販売しないと、転売ヤーが入ってくるんですよ。実際の定価より高くても欲しい人がいるならば、その乖離が狙われます。

ホテルもオフシーズンは価格を下げて、オンシーズンは上げますよね。メジャーリーグも大谷翔平が出場する試合はチケット代が上がる。そのように変える必要もあるのではないでしょうか。

――法的にはどうなのでしょう?

奥窪 法律では興行チケットの転売は規制されています。中古品の販売にも古物商の免許が必要です。違法な手段で商品を購入して転売するのも犯罪です。

現状、転売で問題になっているのは「買い占め」と「高額転売」です。限定商品など希少価値があるものを転売ヤーが買い占めて、一般の人が買えない状況をつくってから高額転売することを「市場原理だ」とは言いづらいですよね。

――かといって、国に管理させるのも怖い気がします。

奥窪 「安く買って高く売る」こと自体は商売の基本で、経済の自由にも関わってくるので、法規制には抑制的であるべきだと思いますね。たぶん規制をかけてもやる人はやるんですよ。チケットだってダフ屋はいなくなったけれど、転売ヤーはいますからね。 

――大谷が出場する試合のチケットが定価の85倍で売られているのがネット記事になっていましたね。

奥窪 高いお金を出しても買いたい人にとっては転売ヤーが感謝する存在だったりするわけです。一概に法規制で縛ることで解決するとは思えないんです。

転売問題は格差社会の縮図だと思います。金がある人は買えて、金がない人は買えない。それが日本人にアレルギー反応を引き起こさせているような気がします。

――となると私たちにできることはあるんでしょうか。

奥窪 転売ヤーからは買わないことです。転売ヤーから手に入れるのが「ダサい」という風潮になれば、転売市場にダメージを与えられるのではと思います。

■奥窪優木(おくくぼ・ゆうき) 
1980年生まれ、愛媛県松山市出身。フリーライター。上智大学経済学部卒業後に渡米。ニューヨーク市立大学を中退、現地邦字紙記者に。中国在住を経て帰国し、日本の裏社会事情や転売ヤー組織を取材。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』『ルポ 新型コロナ詐欺』(共に扶桑社新書)などがある

■『転売ヤー 闇の経済学』新潮新書 946円(税込) 
ニュースなどでよく耳にする転売ヤー。需要が供給を上回る商品を見極め、大量に買い占めては高額で売る者たちだ。SNS上では限定商品や人気の新商品が買えなかった人たちによる転売ヤーへの恨み節が絶えない。いったい転売ヤーとは何者なのか? どれぐらいの利益を得ているのか。ポケモンカード、羽生結弦グッズ、PS5など、あらゆる手口でひと儲けを狙う転売ヤーたちに密着し、その驚愕のカラクリを解き明かした一冊

取材・文/矢内裕子 写真/幸田 森

【写真】転売ヤーの実態に踏み込んだ驚愕の1冊

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