2007年にセクシー女優としてデビューし、現役中に覚せい剤取締法違反で逮捕された、合沢萌さん。さらに仮釈放中に覚せい剤の密売にも手を出してしまい、合計13年を刑務所で過ごした経験を持ちます。
合沢さんはそんな自分の経歴を生かして、現在ではYouTubeやTikTokで薬物依存症や刑務所内の実情を話すなど、薬物の使用を防ぐための啓発活動もおこなっています。
今回はそんな啓発活動の一環として、合沢さんが実際に体験してきた、薬物に関するさまざまなお話を聞かせてもらいました。
◆現在の薬物密売では「匿名通信アプリ」が主流
――今回は薬物に関する啓発活動として、覚せい剤の使用・密売による逮捕経験を持つ合沢萌さんにお話を聞かせていただきます。合沢さんの場合、薬物の売買はインターネットの掲示板を利用していた、とのことですが、現在も同様でしょうか?
合沢萌(以下、合沢):インターネット中心なのは、変わらないですね。ただ私たちの頃は掲示板でしたが、現在では「シグナル」「テレグラム」などのアプリが多く使われています。
――闇バイトの話でも、よく聞かれるアプリですね。
合沢:啓発活動をするうえで、どういったアプリなのかを実際に知りたくて私も試してみました。メッセージのやり取りを自動的に消す設定ができるなど、匿名性の高さが薬物の売買に魅力的なようです。
利用するには電話番号の登録が必要ですので、絶対にバレないわけではないのですが。
◆覚せい剤の密売自体に「騙し騙され」の詐欺が横行
――やっぱり現在、薬物の売買は完全にインターネットが主流ですね。
合沢:だから普通の人が、薬物の購入、さらに販売にまで気軽に手を出せるんです。そもそも、私自身がインターネットを使った売人となった最初期の存在ですし。私が始めた時代から時間は経っていますが、この流れはますます激しくなっていますね。
――薬物が、一般層により深く入り込んできている、と。
合沢:それも問題ですが、粗悪品を売る詐欺も多くなっています。買う側もお金を払わずに逃げちゃう、といったケースも増えているそうです。でも薬物の密売だから、やられたほうも警察に訴えられないんですよね。
◆売人時代はトラブルに巻き込まれたことも
――騙し騙され、みたいな話ですか。イヤですね。合沢さんは売人時代に、トラブルに巻き込まれたことはありましたか?
合沢:お客さんがお金を払わずに逃げてしまう、みたいなことはありました。でもその場合は、もう2度とその人には売らないだけで、そこまで大きなトラブルではないですね。
……あ、反社会的勢力の方々がお客さんとして買いに来るフリをして、ケツ持ち代を要求してきたことはありました。
――いわゆる「反社」の人ですか。
合沢:はい。ただ私としては、別に従う理由もないんで、のらりくらりと聞いていたんですけどね。2人に5時間くらい連れ回されました、歌舞伎町の喫茶店を転々と。1か所にずっといると監禁になっちゃうらしいんで、ちょこちょこ移動するんですよ。
――なるほど。でもそのまま、のらりくらりし続けるわけにもいきませんよね。
合沢:結局「いくらなんですか?」って聞いたら「3万円でいい」と言われて。たった3万円で大手を振って商売できるなら別にいいか、と思って払いました。
◆薬の売人は強盗に狙われる危険性が高い
――そう考えると良心的……いや、良心的なわけではないんですけれども。
合沢:私も「自分は女だから、そんなにひどいことはされないだろう」と、ちょっと甘く見ていた部分はありますね。
男性の場合、連れ去られて縛られたまま、腕にカミソリで何本も切り傷を入れられて、言うことを聞かないとだんだん深く切られていって……みたいな話を聞いたことがあります。あくまでもウワサですけど。
――薬物を使う、使わない以外のところにも、売人になるとさまざまな危険があるわけですね。
合沢:今の時代だと、売人は「お金を持ってるだろう」とトクリュウ(闇バイトで有名になった「匿名・流動型犯罪グループ」)に狙われる可能性もありますね。私自身も逮捕されたとき、刑事さんに「よく無事だったね」と言われました。
昔から薬の売人を狙った強盗って、よくあるみたいなんですよ。盗られても、薬を売って作ったお金だから、警察にも言えないから。
――やっぱり売人は、自宅に現金を置いておくことが多いんですか?
合沢:半分は銀行に預けていましたけれど、私はホテル暮らしだったのでホテルに保管していました。銀行に多額の預金があると、怪しまれるんじゃないかって不安で。
冷静に考えれば、預金額なんて理由もなく調べられないんでしょうけど、薬をやっているとそういう不安感がいつも心のどこかにあるんですよね。後ろめたいことをやっている、という気持ちがあるからかもしれません。
◆身の回りの人も覚せい剤に手を出しているかもしれない
――一般層に覚せい剤が広まっていると感じたのは、サラリーマンや主婦などが購入しに来たからですか。
合沢:はい。あとはフリーターや学生、風俗嬢にホスト。経営コンサルタントや芸能人などもいましたが、普通の人が中心でした。
――すると、一般家庭でも「家族が覚せい剤に手を出していた」なんてことが起こる可能性もあるわけですよね。家族の異変に気付くためには、どういった点を注意して見れば良いのでしょうか。
合沢:まず嘘や遅刻が増えます。私の場合ですが、薬が切れて動けなくなったり、うまく腕に注射針が入らなかったりして遅刻するようになりましたね。
あとは嘘と言うか、言い訳が増えます。腕のアザを見られると、こっちが何も言わないのに「ぶつけちゃって」なんて言い訳を始めちゃう。覚せい剤を注射すると、その周りが青アザみたいになるんですよ。後ろめたさがあるから、自分から勝手に言い訳しちゃうんです。
――なるほど。
合沢:あとは注射痕を見られないように、夏でも長袖をずっと着ている人。汗をすごくかくとか、汗から薬品っぽいニオイがするとか、そういう点もありますね。それからずっと薬をやっている人だと、力尽きたみたいに急に寝ちゃう場合も。薬の切れ目でスコン、と寝ちゃうんですよ。
◆私も当時の友達には、薬をやってることはバレバレでした
――いろんなポイントがあるんですね。
合沢:はっきり言って、明らかに行動はおかしくなるんで、周囲の人からは気付かれていることがほとんどですね。私も出所してから「今だから言うけど、みんなわかってたよ」と言われちゃいました。
――やっぱり言動などがおかしくなるんですか。
合沢:はい。私の場合、友達に「大統領になって日本を変える!」って5時間くらいハイテンションで電話したらしいです。私は覚えてないんですけど。
――迷惑すぎる(笑)。正気の沙汰じゃないですね。
合沢:あと友達から疑われたときに、すごい長文で「私は薬はやっていません」って内容の手紙を渡したりしていたみたいです。
◆家族に通報させるなんて、そんな不幸なことはない
――言動以外のところだと、なにかありますか?
合沢:覚せい剤を使うときは「あぶり」と「注射」の2つの方法があるんです。だから部屋に「あぶり」で使うガラスパイプがあったり、注射器があったりしたらほぼ間違いないですね。
――そういうアイテムが見つかって通報される人も多いんですかね。
合沢:そうですね、刑務所には実際に「家族に通報されて逮捕された」なんて人もけっこういました。
――家族からすれば「もう通報して、捕まえてもらうしかない」って気持ちなんでしょうね。
合沢:誰だって、家族を通報して逮捕されてほしい、なんて思うわけがないんですよ。でも覚せい剤に手を出してしまうと、家族にそんなツラい思いをさせてしまうわけです。そういう点も、覚せい剤に手を出しちゃいけない理由だと思います。
<取材・文/蒼樹リュウスケ 撮影/星亘>
【蒼樹リュウスケ】
単純に「本が好きだから」との理由で出版社に入社。雑誌制作をメインに仕事を続け、なんとなくフリーライターとして独立。「なんか面白ければ、それで良し」をモットーに、興味を持ったことを取材して記事にしながら人生を楽しむタイプのおじさんライター