倫理観が欠如しているかのような非常識な行動をして、会社の同僚たちに迷惑をかけるモンスター社員の話題はあとを絶たない。
今回は入社から約半年で会社を辞めていった“やばい新入社員”について、建設会社勤務で現場監督として働く田中さん(仮名・男性・32歳)に話を伺った。
◆コンビニのスティックシュガーを大量にパクる
それは田中さんがいまの会社に転職してきてから3年目の頃に、現場作業員として入社してきた山本君(仮名・男性・23歳)の話。入社当初は元気があって素直な青年という印象だったそうだが……。
「作業現場は遠方のことが多いのですが、僕と山本君はだいたい同じ現場の担当だったので、朝は僕が社用車を運転して、山本君を乗せて2人で現場に向かっていました。
ある日、いつものように現場へ向かう途中、朝ごはんを買いにコンビニへ立ち寄ったんですが、そのときに彼のやばさの片鱗を垣間見たんです。
山本君は何も買わずになぜかレジ横をウロウロしていました。そして店員さんが目を離した瞬間に、コーヒーマシンのところに置いてあるスティックシュガーを大量にがっと掴み取って、そのまま出ていったんですよ。
万引きというほどではないのかもしれませんが、あれはコーヒーを買った人が貰えるものなので、なにも買ってない山本君が持ち帰るのはよくないですよね」
◆砂糖水を作ってがぶ飲み「栄養補給です!」
当然田中さんは、あんな大量の砂糖をなにに使うのだろうと疑問に思ったが、車内に戻るとその理由がすぐにわかったという。
「彼、自宅で水道水を入れて来た水筒にパクッてきた砂糖を全部入れて、砂糖水にしてがぶがぶ飲み始めたんです。思わず『何でそんなものを飲んでるの?』と聞くと、山本君は明るく『お金がなくて何日もご飯を食べられてないから栄養補給です!』って答えたんですよ(苦笑)」
その山本君の返答でスティックシュガーを取ってきた理由は判明したものの、田中さんのなかでは新たなる疑問が生じていた。
◆キャバ嬢に貢ぎ過ぎて毎月、困窮していた
山本君は一人暮らしだが住んでいるのは格安のアパートだし、会社からはそこそこの給料が支払われているはずなので、なぜそこまで追い詰められるほど経済的に苦しい状態なのか?という疑問だ。
「もしかすると複雑な家庭の事情とかがあるのかなと思って、生活に困っている理由は聞かないでいました。
でも給料日を過ぎても事務所に置いてあるお土産のお菓子を大量に持ち帰ったり、相変わらずコンビニでシュガーをパクッて砂糖水を飲んだり、常に極貧状態っぽいんですよね。
そんなふうに何とか生き繋いでいる様子の山本君を見て、とうとう我慢ならずに聞いてみたんです。『何にそんなお金使ってるの?』って。
すると、彼は『好きな子がいて……喜んで欲しくて!!』って答えたんですよ。恋愛してるのは悪いことじゃないですけど、それでなんでお金がすぐになくなるのかって思いますよね。
よくよく聞いてみると相手はどうやらキャバ嬢で、頻繁に通って貢ぎ過ぎた結果、自分のご飯もろくに食べられないほどお金に困っていたみたいなんです」
好意的に解釈すれば「純粋で恋愛に一途」と言えるが……。
「あまりにも計画性がなさすぎますよね。しかも話を聞く限り、キャバ嬢には適当にあしらわれて騙されているだけっぽいんです。
まぁ、貧乏なだけだったらまだよかった。コンビニから砂糖を持ってきちゃうのはダメだけど、それ以外は誰かに迷惑をかけているわけじゃないしな……なんて考えていた僕が甘かった。山本君、入社してからずっと、ある不正を働き続けていたようなんです」
◆滅多なことでは声を荒げない温厚な部長が大激怒
ある日、田中さんは山本君が部長に怒られているところを目撃した。
「部長は滅多に怒らない温厚な上司なんですけど、山本君には『毎回言ってるのになんでやめないんだ!』って凄い剣幕で怒鳴りつけていたんです。
でも、部長が腹を立てるのも無理はありませんでした。――だって彼は入社してからずっと、会社のガソリンカードで自分の車に給油していたらしいんですよ(苦笑)。
しかも部長はその山本君の不正にかなり前から気付いていて、何度も注意していたらしいんです。
そのたびに彼は『すみません、もう二度としません』と反省した様子で必死に謝るのに、翌月にはまた会社のカードで自分の車に給油してバレる――これを繰り返していて、さすがの部長も堪忍袋の緒が切れたということでした」
◆不正行為があっさりバレたアホすぎる原因
入社してからずっとそんな不正行為を行っていたのかと驚いた田中さん。ただ、作業現場によって距離は違うので、ガソリン代はその月によってまちまち。どうして部長がすぐに気付いたのか不思議だったそう。
「僕と二人で行き帰りしているとき、基本的に運転は僕がしていましたが給油は山本君に任せていました。
だから山本君は月間で何枚もガソリンスタンドの領収書を持っていたはずなので、そのなかに彼の自家用車の給油分の領収書を紛れ込ませても、部長も経理もなかなか気づけないんじゃないかなと。
けど、不正がわかった理由を部長に聞いたら、山本君のアホさが一発でわかりました。部長は『彼、自分の車には毎回ハイオクを入れてるから、領収書で普通にバレてるんだよ』と苦笑い。
さらに『どんな教育してんだって社長に怒られてるんだけど、どうにかできない?』と部長も困り果てている様子でした」
◆不正行為を続けた結果、社長に呼び出され…
そんな山本君、それからしばらくして社長直々に呼び出され、自主退社することになったんだとか。
「部長が激怒した翌月も、山本君は懲りずに自分の車に給油したんです。部長はそれでも彼をかばっていたんですけど、社長はもう我慢の限界だったらしく、山本君に対して法的措置を検討していると伝えたところ、自分から辞めると言ったそうです」
――「恋は盲目」と言えば聞こえはいいが、彼が繰り返していた不正行為は恋愛の失敗談といったかわいいものではなく、倫理的にも法的にもアウトな所業だったのは間違いない。
<取材・文=瑠璃光丸凪/A4studio>
【瑠璃光丸凪】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。興味のあるジャンルは、アングラ・音楽・ファッションなどサブカルチャー全般と、ジェンダー問題、政治経済問題について。趣味はレコード集め。