18日、東京・後楽園ホールで開催されたプロボクシング興行(WHO′NEXT DYNAMIC GLOVE on U−NEXT)のバンタム級8回戦に出場したプロ3戦目、19歳の伊藤千飛(せんと、真正ボクシングジム)は、OPBF東洋太平洋フライ級9位のアルビン・カミケ(フィリピン)に判定勝利(3−0)し、デビュー以来3連勝を飾った。
「(今日の試合は)自分としては全然、駄目でした。山下会長からは『(カミケ選手は)大きくパンチを振り回すファイターなので、3回までは様子を伺い、左ジャブを基本に丁寧なボクシングを心がける事。4回以降、プレスをかけて行き、接近戦に持ち込んで勝負』とアドバイスを頂いていました。
でも相手の攻撃に対応しきれなくて、距離を取ったままのボクシングになってしまいました。3回にボディを効かされて動きが止まってしまい、良いパンチももらっていたので、ポイントも取れているのか不安な気持ちもよぎりました」
伊藤は3戦連続KO勝利こそ逃したものの、80対72が2人、79対73が1人で大差の判定勝利。それでも試合後は反省しきり。確かに本人が語るように、相手の強打を警戒し過ぎてしまい、勝負所で見てしまう場面も。頭から突進して来るなどラフではあるが、がむしゃらに攻撃を仕掛けて倒しに来た相手の後手にまわり、終盤にはスリップと判断されたもののダウンと宣告されてもおかしくないような、一瞬ヒヤリとする場面もあった。
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とはいえ若干19歳、高校卒業して去年4月にデビューしたばかりである。ボディを効かされても表情に出さず、抜群のタイミングで鋭いカウンターを何発も決めて最後まで冷静な試合運びで東洋太平洋ランカーに勝利出来るあたりは、「並の新人とは桁違いの才能」とアピールするには十分な戦いぶりだった。
デビュー以来、上京してスパーリング相手をお願いしている世界2階級王者で現WBC世界フライ級王者、寺地拳四朗も「すごく良い左ジャブを打つ。世界を狙えるだけの才能はある」と認めるなど、伊藤は間違いなく、日本ボクシング界の次世代を担う逸材のひとりだ。
伊藤の師匠であり、所属する真正ボクシングジムの山下正人会長も「褒めはしませんけど」と前置きした上で、
「カウンターのセンスは抜群です。あとはそのカウンターに繋げるまでのボクシングをどう組み立てるかが今後の課題。今日は最後まで同じペースになってしまいましたが、これも経験。良い勉強になったはずです」
と話し、愛弟子の課題を指摘しつつ、成長を実感していた。
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■焦らずじっくり実力を養い、倒せるボクサーを目指す
かつて長谷川穂積に寄り添い、ともに世界で戦った山下会長は、「1年で3戦というのが、基本となる試合間隔ですが、今年は4戦させたいなと考えています」と話し、タイトル挑戦については「まずランキングに入る事が大前提。チャンスが巡って来た時に、という感じです」と、焦らずじっくり構えて秘蔵っ子を育てる方針だ。
今回の試合に向けて新年早々3日から7日まで上京した伊藤は、より強い相手を求めて東京・三迫ジムでスパーリングを重ねた。まだ試合を終えたばかりだがすぐに練習再開し、2月も三迫ジムでスパーリングを計画している。その際には、3月中旬、ユーリ阿久井政悟と世界フライ級2団体統一戦が噂される拳四朗にもふたたび胸を借りるつもりだ。
「拳四朗さんは、距離を取って相手の様子を伺う場面、前に出て積極的に攻める場面、どちらの場面やどんな距離感でも、細かいパンチを止めずに、フェイントも仕掛けられる。そういう所を勉強させて頂き、自分の技術にしたいと思っています。今日の試合内容では大きな事は言えないかもしれませんが、世界につながる試合を続けていき、まずは地域タイトルを目指します」
次戦は早ければ4月頃。まだ少年のようなあどけなさも残る伊藤は、10代最後の試合に向けて得意のカウンターや左ジャブに磨きをかけ、師匠・山下会長と二人三脚、20代での飛躍に繋げる。
●伊藤千飛(いとう・せんと)
2005年6月25日生まれ、19歳。兵庫県伊丹市出身。元キックボクサーだった父親の影響で5歳からキックボクシングを始める。キック時代からパンチのみで戦うスタイルで「関西ジュニア最強キックボクサー」と呼ばれた。高校入学と同時にボクシング転向。興国高校ボクシング部に所属し選抜2冠&アジアユース選手権3位入賞。卒業と同時に、長谷川穂積はじめ複数の世界チャンピオンを育ててきた山下正人会長の率いる真正ボクシングジムに所属しプロデビュー。プロ戦績3戦3勝2KO。
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取材・文・撮影/会津泰成