少数与党の政権運営に苦しむ石破首相が元旦早々に吐露した、野党との「大連立」という言葉が波紋を呼んだ。野党幹部はそろって否定し、本人も火消しに動いたものの、Xでは「増税派と減税派でそれぞれ組んでください」などとざわつきが止まらない。
「大連立」といえば18年前、自民党の福田康夫首相と民主党の小沢一郎代表の間で話が持ち上がり、耳目を集めた。結局「平成の大連立」は挫折したが、今回は「103万円の壁」などで追いつめられた石破首相が、ワラをもつかむ思いで立憲民主党にすがる「令和の大連立」が見られるかもしれない。
石破首相から「大連立」という言葉が飛び出したのは、元旦に放送されたラジオ番組である。主要野党との大連立について「選択肢としてあるだろう」と語った。するとXでは「立憲と連立して増税される」「悪夢だ」「石破は早く辞めてくれ」などと次々に落胆のポストが挙がった。その後、石破首相も「可能性の話をしただけ」とはぐらかし、火消しに躍起になった。
■立憲の野田代表は意味深発言
一方で、野党第一党である立憲民主党の野田代表は「平時ではそういうことは考えていない」、国民民主党の古川元久代表代行は「連立入りするつもりは全くない」、日本維新の会の吉村洋文代表は「連立を組むことはない」とそれぞれ述べた。
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「野田代表が『平時では』とわざわざ言っているのが面白いですよね。その気が全くないなら余計な文言は必要ありません。減税に後ろ向きな石破さんと野田さんは元々考え方が近いと言われていますから、余計な文言がつい入っちゃったんじゃないですか。もう忘れている人も多いかもしれませんが、民主党政権時、野田さんが自公と協議して消費税10%を決めたんですよ」(自民党関係者)
国民民主党の玉木雄一郎氏は1月2日のXで「やはり、石破総理の念頭にあるのは立憲との大連立なのか」と敏感に反応。さらに続けて、先のラジオ番組で石破首相が野田代表と日本維新の会の前原誠司共同代表について「中道政治を目指し、相通じるものがある。長い友人で信頼でき、裏切られたことが一度もない」などと語ったという記事を引用し、その関係性を訝(いぶか)った。
「大連立」で想起されるのは2007年。当時、衆参のねじれ現象で政権運営に苦慮していた与党自民党の福田首相と、最大野党民主党の小沢代表の間で「大連立」が構想された。この構想で暗躍したのが、昨年12月に亡くなったばかりの読売新聞主筆の渡邊恒雄氏であった。渡邊氏の仲介で、福田首相と小沢代表の間では「大連立」が概ね合意されたものの、その後の民主党内の大きな反発で構想は打ち砕かれた。
■連立相手選びは難航必至
「いくら石破さんと野田さんで相通じるものがあっても、立憲の実態は烏合の衆のような組織。一筋縄ではいきません。最近の動きでは、野田さんと距離を置く江田(憲司)さんが党内に『食料品の消費税ゼロ%を実現する会』を発足させ、初会合には所属議員の3割にあたる約60人も出席しました。消費税10%実現させた張本人である野田さんにしたら内心いい気はしないでしょう」(全国紙政治部デスク)
ただ、石破内閣の先行きが暗いことだけは確かだ。差し当たっては3月上旬に予算案を成立させなければならない。国民民主党が旗印に掲げ、国民的な注目度が高い「103万円の壁」の引き上げ額「178万円」については、2025年度の税制改正大綱に「123万円」と明記したものの、決着はついていない。
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自民党の森山裕幹事長は1月8日の講演で「財源の裏付けのない話はしてはいけない」と国民民主党へいらだちを見せると、翌9日に玉木氏がXで「何度も言ってます。取り過ぎの税金を国民に返せばいい」と反論した。
「『103万円の壁』は継続協議と言いながら膠着状態が続いています。あの石破さんが税調の"ラスボス"宮澤会長を前にリーダーシップをどう発揮できるか。無理でしょう。
国民民主は引き上げ額によっては予算案に賛成しないとはっきり言っている。石破さんはそもそも党内に味方が少ない人だし、野田さんにすがりたい気持ちは分かります」(前出の自民党関係者)
石破首相のもう一人の頼みの綱、維新の前原共同代表はとなると、決定権は選挙で選出された吉村代表にあるため、その吉村代表が「連立はない」と明言している以上、その線も自ずと消える。やはり石破首相は、野田代表が「今は有事」と心変わりしてくれることを密かに願っているのかもしれない。
文/山本優樹 写真/首相官邸ホームページ、立憲民主党X公式アカウント
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