鈴木聡美が競技を続けるなかで影響を受け続けている意外な人物「西川貴教さんに学ぶことは多い」

0

2025年01月23日 10:11  webスポルティーバ

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

webスポルティーバ

写真

鈴木聡美インタビュー(3)

 パリ五輪に日本競泳史上最年長の33歳で出場し、平泳ぎ200メートルで4位入賞を果たした鈴木聡美(ミキハウス)。大会後の現役続行を決めたものの、先を見ているわけではなく「1年1年が勝負」。まずは今年夏にシンガポールで行なわれる世界選手権(7月27日〜8月3日)出場が目標と話す。

 水泳は、練習や環境の厳しさもあって、30歳を過ぎて現役を続ける選手はひと握り。鈴木は、日々厳しい練習をこなしながらも、なぜ高いモチベーションを保ち続けることができるのか。

――昨年後半も、9月中旬の国民スポーツ大会(佐賀市)を皮切りに、10月は日本短水路選手権(東京)、11月は日本社会人選手権(福島県郡山市)と、レースを積み重ねてきました。パリ五輪のあとも、ほとんど休暇は取らなかったそうですね。

「休んだのは移動を含めて4日くらいです。パリ五輪の約1カ月後には国スポ(国民スポーツ大会)に出ることが決まっていたので、そこで恥ずかしくない泳ぎをしたいと思い、帰国後は早めに学生と合流し、練習してきました。レースに出る以上、私は『しっかり泳ぎたい』気持ちが強かったですから。

 ただ、さすがに五輪が終わったばかりで、監督からはハードにやりすぎると気持ちも体も続かないと指摘され、そのへんは調整しながら。まあ、国スポ(の平泳ぎ100メートル)でいきなり1分6秒64(優勝)で泳いでいましたけどね(笑)」

――現役続行は、2028年のロス五輪を見据えてというより、まずはシンガポールでの世界選手権がターゲットになると。

「ですね。あまり長いスパンで捉えてしまうと、(世界選手権へ)行けなくても、また次があると、悪い余裕が出てしまいそうですし、やるからには世界基準のなかで、どれだけやれるかが重要になってきますから。まずは1年1年を大切に過ごしたうえで、続ける先にロス五輪があると思っています」

【「今日は何のゲームをしようかな」】

――パリ五輪に日本競泳史上最年長で出場したことで、その後は報道のたびに年齢のことが話題になります。ご自身で意識することはありますか。

「どうしても何かをすると年齢のことがついて回ってしまうのですが、プールに入れば学生も社会人も、若手もベテランも関係ないですし、私は基本を貫いているだけなんですけどね。気持ちのなかでは、もっと若くていい選手もいるので、メディアの方々にはそちらに目を向けてほしいとの思いもあります。

 それと、これはお願いですが、レース中に実況の方が年齢を連呼するのだけはやめてほしいというか......。あまり言われるようなら、SNSで『連呼はやめてください』と注意書きを書いたほうがいいかなと思ったり。最近は、『ここまでやってきたのだから、それくらいのわがままは言わせてもらってもいいかな』と思ったりしています(笑)」

――鈴木さんは競技を続けている一方で、SNSではゲームや漫画、アニメなど、競技とは関係のない情報を多く発信しています。そうした頭の切り替えが競技を長く続けることにつながっているようにも思います。

「私自身は、キツい練習を忘れたいと思っているだけなんです。ただ私の場合は、自宅をリラックス空間と捉えていて、練習が終わり、家に帰った瞬間に『今日は何のゲームをしようかな』『どの動画を見ようかな』ということばかり考えていて、プールを出た瞬間に競技のことは忘れているので、そういう性格が競技を長く続けるにはよかったかもしれません。

 私も若い頃は、自宅の壁に目標を張ったりしていました。『これを食べたら、どれだけ太る』。そんなことを考えて、厳しい食事制限をしていたこともあります。でも、そんなことばかり考えていたら、メンタル的によくない気もしますし、あまり考えずに適度に好きなものを楽しむようにしています」

 鈴木が昔から西川貴教(T.M.Revolution)のファンであることは広く知られている。レース前はいつも、その時々でお気に入りの音楽を聴きながらテンションを上げて臨むのがルーティーンで、パリ五輪後も西川がプロデュースしているフェス(イナズマロックフェス)に参加した様子をSNS等で報告していた。鈴木はそんな西川をただ"推している"わけではないという。

【「一番に名前が挙がるのは西川貴教さんです」】

――長くアスリートとして競技を続けるなか、目標としてきた人や影響を受けた人はいるのですか。

「そういう意味で、私にとって一番に名前が挙がるのは西川貴教さんです。

西川さんはアーティストとして歌うことを専門にしていますが、そのほかにもテレビのバラエティ番組に出演されたり、ボディービルの大会に参加されるなど、さまざまな活動をしています。あるときは番組の企画で、サバイバル生活をして雑草を食べるなど周りから見ればやらなくてもいいと思うようなことにもチャレンジされていましたし(笑)。

 それでもアーティストとしてはいつも全力で、24年のイナズマロックフェスでも、ひっきりなしにステージに立つなど大活躍。西川さんはすでに50代ですが、自分に対して厳しく、ストイックに体を鍛えたりしています。そんな姿を見ていると、もっと若いアスリートの私には、まだやれることがあるんじゃないかと姿を見るたびに感じさせられています」

――鈴木さんが西川さんを"推している"のは知っていましたが、スイマーとしても影響を受けている、と。

「西川さんにとっての歌うことを、私に当てはめると泳ぐことで、そういう視点で見ると学ぶことは多いんです。よく私の練習メニューを後輩に教えると、だいたい『えっ、そんなにやっているんですか?』と驚かれますが、私がなぜこなせているかというと、西川さんの背中、生き方を見て、まだ自分に足りないことがあると思っているからなんです。人としても尊敬していますし、アスリートとしても私が勝手に影響を受けているのは間違いないです」

――スイマーとして影響を受けた選手はいますか。

「スイマーの手本にしているという意味では、16年のリオ五輪(女子平泳ぎ200メートル)で金メダルを獲った金藤理絵さんですかね。リオ五輪前の合宿で金藤さんが誰よりも早くプールに来て、誰よりも遅くまでプールで泳いでいた姿は強く印象に残っています。その努力の末に、金メダルがあったと思いますし、私もリオの決勝をスタンドで見ていて、とても胸を打たれました。金藤さんの200メートルの日本記録(2分19秒65)は、いまだに破られていないですしね」

「私がいまも学生と1日に8000メートルとか1万メートルを泳いでいるのは、金藤さんの練習をやりきる姿勢を見ていたことと無関係ではありません。普通なら100メートルや200メートルがメインの選手が、そんなに泳ぐ必要はないと思っても、やっぱりあれを見せられたら、やるしかないですから」

――今後、スイマーとして目指したいことなどはありますか。

「一番はこれまでと変わらず自己記録の更新。また、最近は、昔に比べると社会人になっても競技を続ける選手は増えていますし、30歳を過ぎても現役の選手がポツポツと出てきています。もちろん、そこに私の影響がどれだけあるかはわかりません。ただ、後輩から『どんな練習をしているのか?』『どうやってモチベーションを保っているのか?』と質問されることはありますし、お悩み相談ではないですが、自分の体験談でよければ、伝えていければと思っています」

――最後にあらためて今後の具体的な目標などがあれば教えてください。

「一番はシンガポールの世界選手権に向けた選考会(日本選手権、25年3月20日〜23日)ですね。そこで代表権を得なければ夏の大会には行けませんから。

 50メートル、100メートル、200メートルとも狙っていますが、日程的には100メートルが最初にきます。最初の種目で失敗すると、徐々にプレッシャーがかかってくるもの。そう考えると、50メートルのスピードは自信がありますし、特に100メートルに向けてスプリント強化をしていけたらと思っています」

 取材を終えると、鈴木は午後の練習に向かうと言う。

――今日はどれくらい泳ぐのですか?

 鈴木は間髪を入れずに「どうですかね。練習前に聞いて、嫌だなって思うより、(監督に)求められたら『はい』ってやるだけですから。その日その日を頑張るだけです」と言って歩いていった。

 そんな愚直さが、鈴木の強さを支えているのだろう。

【profile】
鈴木聡美(すずきさとみ)
1991年1月29日、福岡県生まれ。ミキハウス所属。山梨学院大学在学中の2012年ロンドン五輪で、女子平泳ぎの100メートルで銅メダル、200メートルで銀メダル、400メートルメドレーリレーで銅メダルと3個のメダルを獲得。2016年リオデジャネイロ五輪は100メートルで準決勝進出、400メートルメドレーリレー出場。2024年パリ五輪では100メートル準決勝進出、200メートル4位、400メートルメドレーリレー5位。

    ランキングスポーツ

    ニュース設定