悪質なホストクラブによる多額の売掛金に苦しむ若い女性たちがいる。“ホス狂い”とも呼ばれるが、実際にホストの彼を支えるために1年間で2000万円以上も費やしてきたというのが強欲のモメたん(23歳)だ。
彼女は、家庭環境からうつ病を患い、リストカットやオーバードーズ(市販薬の過剰摂取)を繰り返し、精神科にも入院。寂しさからホストクラブ通いを始め、ホス狂いになったという。トー横や病み界隈と呼ばれるコミュニティに属しながら、どうやってホス狂いからは卒業したのだろうか。
◆ナンパだと思っていたらホストの営業
——ホス狂いだったそうですが、ホストクラブに行くようになったのはいつからですか?
モメたん:高校を卒業した後に、看護学校に通っていました。学校を休学していた1年間は、不仲だった家族から離れるために岡山で治療していました。でも、体調は全然よくならなくて、線路に飛び込んで自殺未遂を起こしてしまったのです。そこから、また東京に戻りました。看護学校を休学していた時に、ホストクラブには行くようになりました。
——最初にホストクラブに通うようになったきっかけは何でしたか?
モメたん:歌舞伎町を歩いていたら、ホストに『なんでもおごるから飲みに行こう』って声を掛けられたんです。最初はホストだってわからなくて“カフェに行くのかな……”って思ってついて行ったら、ホストクラブだった(笑)。
——警戒心を抱きませんでしたか?
モメたん:自分の周りにはホストクラブに行っている子なんて全然いなかった。だからまったくわからない世界でした。私が『お金がないから無理だよ』って言ったら、『ここは大丈夫だよ』って言ってくれて、初回の飲み代はホストが全部支払ってくれたんです。
——そこからホストクラブにハマっていった……。
モメたん:そうですね。そこから寂しくなると、お店に行くようになりました。でも『結婚しよう』という感じになったホストは、最初にお店に連れて行ってくれた人とは別の人なんですよね。その彼は、元々はSNSで見かけた人で、すごく顔が好みだった。それでお店に会いに行ったら意気投合して、『結婚しよう』っていう流れになって。
◆ホストの「結婚しよう」を真に受けて
——ホスクラ通いから結婚まで急展開ですね。
モメたん:すぐに一緒に結婚指輪を買いに行こうってなりました。でも指輪ではなくて、ルイ・ヴィトンのブレスレットをおそろいで買ってくれた。それまでそんな高いものをもらったことがなかったからすごく嬉しかった。今思えば、色恋営業をするための初期投資だったのかな……。
——ちなみにそれまでも、恋愛経験はありましたか?
モメたん:同じ年の彼氏とつきあったり、本当に普通の恋愛でした。でもホストの彼は、今までつきあった相手とは違って高いものを買ってくれたり、おしゃれなお店に連れて行ってくれたりして。しかも、私の家も彼の家も狭かったので、『もっと広い家に住みたいよね』という話になって、彼が新しい部屋を借りてくれたんです。
彼氏と同棲すること自体も初めてだったので、もちろん嬉しかった。彼が借りてきたマンションの家賃が25万で、家賃や光熱費を出してくれるって言ってくれて。でも、その代わりに『家賃がかからないなら、稼いできたお金を(ホストクラブに)全部使えるよね』って。
◆ホストの彼を支えるために…誕生月の“ノルマ”は350万円
——ホストの彼氏を支えるために、どのように資金を捻出しましたか?
モメたん:じつはホストにハマる前から、夜の仕事はやっていました。なにか目標とかがあったわけではなくて、割の良いバイト感覚でした(笑)。17歳くらいから、パパ活みたいなことをやっていたので。だから抵抗がなかった。高校を卒業したら、ちゃんとお店に入って稼ごうって感じでした。
——ちなみに稼いだお金は何に使っていましたか?
モメたん:ブランド物とかにも全然興味がなかったから、特に使い道はなかった。本当、ホストクラブくらいですね。当時は看護学校に通いながら、働いてちゃんと貯金していました。でも専門学校を休学してからは、仕事もお休みをしていた。今度はホストクラブに行く費用を稼ぐために、お店を掛け持ちするようになって。
——具体的には、いくらぐらいホストには払いましたか?
モメたん:トップにするために毎月150万円は使ってくれっていう“ノルマ”を課せられた。誕生月のノルマは350万円まで上がりましたね。売上のために高級なシャンパンを何本も入れたので、余ったシャンパンはホストが一気飲みをしていました。ホストクラブに行く時は、基本的には売掛(ツケ払い)か現金払いをしていた。1万円札をお菓子のアルフォートの箱のなかに入れていくと、ちょうど100万円貯まるんですよ。
——お聞きしていると、ある意味、すごく素直で真面目な性格ですよね。
モメたん:毎月150万円で、イベントのある月はさらに使っていたので、年間だと2000万円近くつかっていました。“出稼ぎ”したり、鬼出勤することでなんとか稼ぎました。ですが、身をすり減らしても、そのうち彼の対応はどんどん雑になって、家にもあまり帰ってこなくなりました。
◆ホス狂いを卒業するまで
——そこからどうやってホス狂いを抜け出したのでしょうか。
モメたん:ちょうどクリスマスの時期に、お店に行ったんです。ちょっと恋人っぽいことをしたくて、シャンパンを入れる以外にも、小さなお菓子もプレゼントした。そうしたら彼から、『何これ。いらないから従業員にあげておく』って言われた。その態度にむちゃくちゃ腹が立ったんですよね。そこから喧嘩に発展して、私が『店には入らない』ってごねた。それでも店に引きずりこまれて、VIP席で話し合いをしたら、最終的に『これはVIP席代だ』って言われて、持っていた現金を全部抜き取られた上に、同棲していた家の鍵も没収された。
——それは災難でしたね。どうやって対処しましたか?
モメたん:交番に駆け込んだんですが、警察官はあまり優しくはなかった(苦笑)。家にも帰れなくなっていたのに、すごく冷たかった。そこから知り合いに相談をして、弁護士さんを通して被害届を提出したら、やっと警察も動いてくれました。結局、ホストの彼氏とは接見禁止になりました。そこからはホス狂いも卒業できましたね。
——夜の仕事は続けていたんですか?
モメたん:いえ。もう稼ぐ必要がなくなったので(笑)、コンカフェで働くようになりました。もうホストクラブには行っていない。今はオーバードーズのような薬物依存症から抜け出すために、日本ダルク(薬物依存症などをサポートする専門機関)のグループミーティングにも参加したりしています。これからはもっと絵を描いたり、詩を書くような仕事をしたいと思っています。
【強欲のモメたん】
東京都出身。アーティスト。現在は、SNSやnoteを通して作品を発信している。著書に『刺激中毒』(リブリオン)、写真集『わたしの全てにいいねして』(東京ローレライ)。X(旧Twitter):@mgmm127、note:@mgmm127
<取材・文/池守りぜね、撮影/藤井厚年>
【池守りぜね】
出版社やWeb媒体の編集者を経て、フリーライターに。趣味はプロレス観戦。ライブハウスに通い続けて四半世紀以上。家族で音楽フェスに行くのが幸せ。X(旧Twitter):@rizeneration