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学習塾や脱毛サロンが突然倒産し、先払いをしていた利用者が大きな損失を被るケースが近年増えている。
【画像】学習塾ニチガクが発表した「破産手続開始についてのご報告」
大学予備校「ニチガク」を運営する日本学力振興会が入試直前に経営破綻を発表したことは記憶に新しい。また、脱毛業界でも、医療脱毛の「アリシアクリニック」を展開する医療法人社団美実会と、一般社団法人八桜会の2社が破産した。これにより、事前に高額な利用料を払っていた利用者が、突然のサービス停止で被害を受けた。
こうした「いきなり倒産」はなぜ起きるのか。問題点を探ってみると、利用者自身が無自覚のうちに企業に対して「貸し手」になっているという構図がみえてきた。
●前払い=事業者にお金を貸しているという構図
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利用者が学習塾や脱毛サロンに前払いで料金を支払うことは多い。しかし、一歩引いて眺めると、「サービスを受ける権利を購入している」のと同時に、実は実際にサービスを受けるまでは「事業者にお金を貸している」という構図とも見て取れる。
企業が銀行などの金融機関から融資を受ける場合、利息が発生するのが一般的だ。これに対し、回数券を購入させるなどといった「前払い」で集めた資金は、「サービスの値引き」という形で企業が利用者に対して“利息”を支払っているともとらえられる。前払いの場合、利用者は基本料金の3割引、ないしは半額以下でサービスを受けられるケースすらあり、「お得にサービスを受けられる」と感じる。一方で、この時企業は“割引”をすることで、銀行から融資を受けるよりもはるかに高い利息を利用者に支払おうとしているともいえるのだ。
なぜ、公的な融資制度を組み合わせれば年利1〜2%程度の利息で金融機関からお金を借りることができるのに、企業は利用者に何十%もの割引を提供してまで前払いを受けるのだろうか。
ひとつ考えられるのは、企業が銀行から融資を得られないような無謀な経営プランを立てている可能性だ。そのため、銀行からは融資してもらえず、利用者から“借りようとしている”のだ。利用者が過大な割引を提供する前払いサービスに申し込むことは、「金融機関では断られるレベルのリスクを抱えた企業へ、無担保かつ無利子でお金を貸し付けて」しまっているともいえる。
●「投資詐欺」には騙されないのに…
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「年利40%の金融商品に投資しないか?」と持ちかけられて、それをうのみにする人はごくわずかだろう。しかし、「金融商品」という単語が「回数券」になり、「年利」という単語が「割引」となるだけで、その“怪しさ”は一気に薄れる。特に学習塾や脱毛サロンといった継続利用型のサービスは、実態のつかみづらい金融商品とは性格が異なるからだ。実際に施設やサービスがあり、破綻する前にサービスの全てを享受できれば、利用者にとって何の問題もない。ただ、「いきなり破綻」した事例において、破綻前に利用者が享受した利益は「後から申し込んだ別の利用者の損失」が源泉となっていることに注意したい。そのため、一種のマルチ商法的な構造になっているといっても過言ではない。
企業側からすれば、前払いのお金が集まればしばらく資金が潤沢な状態になり、事業拡大や広告宣伝にも積極投資しやすくなる。しかし、前払いのお金は本来サービスの提供に使われるべき“負債”であり、それを広告に使うのは目的外の利用である。
とはいえ、利用者は銀行のような信用調査は行えず、資金の使途すら追うこともできない。それは利用者のスキル面の問題に加え、非上場企業の場合は財務諸表が公開されていないことがほとんどだからだ。つまり、悪質な企業にとって前払いをしてくれる利用者は、「信用調査なしでお金を貸してくれ、使途についてもとやかく言わない夢のような金融機関」となる。
街で広告を見かける会社は何となく信頼できると思いがちだ。しかし、その莫大な広告費がどこから来ているのかを意識しておかなければ、「社名を知っている」「広告をよく見かける」「有名人がイメージキャラクターを務めている」といった表面的な情報に惑わされ、結果的に倒産リスクを過小評価してしまうことにつながるだろう。
●「いきなり倒産」にあわないために大切な思考法
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ただ、もちろん全ての前払い方式が悪いわけではない。実績ある大手企業の場合、広告費や人材育成に潤沢な資金を回すことで、より充実したサービスを提供できることがある。そのため、割引額が大きいことや広告に有名人が使われているという点だけを見るのではなく、その資金がどのように使われ、回収される見込みかを少しでも意識することが重要である。
自分が知らず知らずのうちに「貸し手」になっている可能性があることを自覚できれば、企業の財務状況や倒産リスク、そして契約内容のチェックを、より慎重に行うことができるはずだ。誠実なクリニックや塾であれば、財務状況を説明する資料を提示してもらえるかもしれない。提示してもらえないのであれば、契約しなければよい話だ。
こうした視点を持つことで、予期せぬ「いきなり倒産」のニュースをうけて後悔するリスクを大幅に減らせるだろう。
いきなり倒産の事例だけでなく、あらゆる詐欺にだまされない思考法の一つとして、「自分が得られるリターンと、銀行の貸出金利を比較してみる」ことも有効だ。もし銀行借入の金利が年数%程度であり、企業がそれよりもはるかに高い割引率を提示している場合、なぜその企業は銀行から低金利でお金を借りないのかを考えてみるとよいだろう。また、割引が魅力的に映る前払いコースや、破格の利回りを示す契約に踏み切る前に、「自分はこの会社にお金を貸そうとしている」「そんなにリターンが良いならなぜ自分でやらないのか」といった視点を持ち、慎重に検討することが必要だ。その上で、もし契約する場合は、万が一倒産しても致命的な痛手にならない範囲にとどめるのも一つの選択肢だ。
「サービスを買っているはずが、事業者に資金を提供していただけだった」と気づくのが、破綻のニュースを聞いてからでは遅すぎる。学習塾にしろ、脱毛サロンにしろ、前払いの裏にある企業の信用リスクを見極める姿勢を忘れないのが、賢い利用者といえるだろう。
●逆に、企業側に求められる姿勢は?
逆に企業側は、前払いビジネスモデルを展開する以上、広告や店舗拡大のみに資金を集中させるのではなく、顧客が支払った資金を安全に管理し、サービス継続の原資として確保することを第一に考える必要がある。預金保険機構のように、破綻時に前払い代金をペイオフするような団体を、業界として設立するといった対策も有効だろう。
また、学習塾や脱毛サロンのような専門人材の育成や雇用が不可欠な業態では、人件費の高騰や人材不足は経営に大きな影響を与える。焦って新規拠点を増やしても、講師や施術スタッフをそろえられなければサービスの質が低下し、かえってブランドイメージを損ねてしまう。前払いサービスを導入するにあたっては、その資金が未来のサービス提供費用であることを認識するとともに、物価上昇や人手不足によるコスト上昇も織り込んだ価格にする必要がある。
急激な成長を求めるあまり利用者の信頼を裏切れば、破綻と同時に長期的な信用も失い、事業再生が極めて困難になるということを忘れてはならない。
●著者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。
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