高校生までの子どもたちを受け入れる海外の「全寮制学校(ボーディングスクール)」への留学が、イマ日本の富裕層から注目を浴びているという。
そもそも、全寮制学校とは? どんな教育がされているのだろう? 学費や進学先などリアルな実情を、ボーディングスクールをはじめとしたスイス留学の支援をしている田山貴子さんに解説してもらった(3歳から子どもを受け入れる国もあるため、以下、「幼児」「未就学児」「児童」「生徒」をまとめて「生徒」としている)。
■「全寮制学校」の特徴
全寮制学校には、いわゆる普通の学校と比べたときに、次のような特徴があります。
○1. 生活環境
全寮制学校では、子どもたちが寮で共同生活を送ります。これにより、親元を離れて自立心を養う機会が提供されます。また、生活全般を学校の管理下で過ごすため、日々のルーティンや時間管理が徹底されます。
○2. 教育の一体性
全寮制学校では、授業と課外活動、生活指導が一体化しています。例えば、学業以外にもスポーツ、アート、文化活動などがカリキュラムの一部として提供され、生徒の多面的な成長を目指します。
○3. 異文化交流と国際性
世界中から集まる生徒たちとともに学び、生活する環境が整っています。多国籍の生徒と交流することで、異文化理解や国際感覚が自然と養われます。
○4. 学業や成績管理
全寮制学校では、教師やスタッフが生徒一人ひとりの学業や生活面を細かくサポートします。個別指導や進路指導が充実しており、大学進学や将来のキャリアに向けた特別なプログラムが多いのも特徴です。
■全寮制学校で身につく力
では、全寮制学校での生活の中で、どのようなことが身につくのでしょうか。多くのことが考えられますが、今回は代表的な5つをご紹介します。
○1. 自立心
全寮制では、親元を離れて生活するため、時間管理や自己責任が求められます。規則正しい生活や日々のタスクを自らこなすことで、自立心が育まれます。例えば、朝の準備や宿題、寮室の整理整頓など、日常的な生活の中で自己管理能力が鍛えられます。
○2. コミュニケーション力と受容性
寮では、多国籍の生徒と寝食をともにするため、自然とコミュニケーション能力やが磨かれます。他者との意見交換や共同生活を通じて、対人スキルが向上します。異文化間の違いを理解し、受け入れる力は、生涯にわたる人間関係に大きな影響を与えます。
○3. 統率力と問題解決能力
全寮制学校では、スポーツや課外活動、寮内での役割分担を通じてリーダーシップを発揮する機会があります。例えば、寮長やグループリーダーとして責任を持つ経験を通じて、問題解決力や組織を率いるスキルを身に着けられます。
○4. 国際感覚と異文化理解
世界中から集まる子どもたちとともに学び生活するため、異文化理解や国際的な視野が自然と身につきます。特にスイスではその傾向が強いと言えるでしょう。多国籍な人種が集まる環境下では、グローバル社会での成功に直結する貴重な体験を得られるでしょう。
○5. 自己表現力と創造力
演劇、音楽、アートなど、多様な課外活動が提供されるため、生徒は自己表現の機会を多く得られます。創造力を発揮し、自分の可能性を追求する場としても全寮制学校はふさわしいでしょう。
■考慮すべきデメリット
全寮制学校の特徴や、そこで身につくことについてご紹介しましたが、全寮制学校入学によるデメリットも考慮する必要があります。入学を考える際は、次のような側面も理解しておきましょう。
○1. 親子間の距離が生じる
全寮制学校では子どもが長期間親元を離れて生活するため、家族との時間が制限されます。特に成長期の子どもにとって、親との対話やサポートが減ることで感情的な距離感を生む可能性があります。しかしながら、近年テクノロジーが発展したことで、ビデオ電話などはできるでしょう。また、学校の長期休暇に家族のきずなを深めることも可能です。
○2. 高額な費用
全寮制学校の多くは学費や寮費が高額です。例えばスイスのボーディングスクールでは、年間で数千万円に達する場合もあり、富裕層でなければ留学が難しいでしょう。また、渡航費や休日中の滞在費用など、追加費用があるため、家庭に大きな経済的負担がかかります。こちらは後ほどより詳しく説明します。
○3. 社会的・文化的適応の難しさ
国際的な環境に置かれることで、異文化への理解が深まる一方で、文化的な違いや言語の壁に直面し、ストレスを感じる生徒もいます。特に英語が十分に話せない生徒や、親元を離れることに慣れていない留学生にとっては、初期適応が困難となる場合があります。
○4. 集団生活による課題
寮生活では他の生徒との協調が求められるため、プライバシーが制限されることがあります。また、人間関係のトラブルが発生する可能性もあり、これが学業や精神面に悪影響をおよぼすことが考えられます。
○5. 学業や生活へのプレッシャー
全寮制学校は、学業や課外活動において高い基準を要求される場合が多く、生徒に大きなプレッシャーを与えることがあります。しかし、高い基準が当たり前の環境下で、級友と切磋琢磨することで、通学生として達することができなかったであろう進路の選択肢が増える可能性があります。
■卒業までの費用は?
デメリットで挙げた費用について、詳しくお話ししましょう。全寮制学校を考える際は費用面も考えなくてはいけません。ここでは、全寮制学校卒業までの費用について説明していきます。
まず年間費用ですが、例えばスイスのボーディングスクールの学費と寮費を含む年間の費用は、80,000〜150,000フラン(約1,300万円〜2,500万円)程度です。これには授業料、寮費、食事、基本的な学校活動が含まれますが、学校によっては次のような追加費用が発生します。
【可能性のある追加費用】
・課外活動費用
テニスや乗馬などのスポーツ活動や音楽レッスンは別途料金が必要な場合があります。
・教材や試験費用
IB(国際バカロレア)やAP試験(高校在学中に、特定の科目を大学レベルまで学べる仕組み)など、特定のプログラムに参加する場合、追加授業料や教材費が発生する場合があります。
・交通費
休暇中の帰国や現地での移動費用が追加されます。
・制服代や学校指定の持ち物
学校の制服や学校指定の持ち物も負担となる場合があります。
また、スイス留学の期間は、1年限定の留学生もいれば、高校の2、3年だけ留学する人、そして、小学生低学年から高校卒業まで10年前後留学をする人などさまざまですので、かかる費用も変わってくるということになります。
■卒業生の進学先やキャリア
さて、全寮制学校を日本人卒業生たちはその後、どのような道を進むのでしょうか。スイス留学を例に、「進学先」と「キャリアパス」に分けて説明します。
○・進学先
卒業生の多くは、オックスフォード大学やケンブリッジ大学、ハーバード大学、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などの名門大学を含むイギリスまたはアメリカの大学に進学しています。
また、スイスには学位を取得できるホテル学校(スイスのホテル教育学とともに、世界的なホテル経営トレンドを学ぶホテルマネージメントスクール)があり、スイスのボーディングスクールの卒業生の進学先としても人気です。それ以外にも、上智大学や国際基督教大学など日本の大学に進学する卒業生もいます。
○・キャリアパス
スイスでの教育を通じて多言語能力や国際感覚を身に着けた卒業生は、国際連合などの国際機関、また外資系のコンサルティングファームや金融機関で活躍するケースが多いです。医師、弁護士、エンジニアといった専門職に進む例もあります。
さらに、世界各国のホテルに就職する卒業生もいて、世界中の5つ星ホテルには、必ずスイスのホテル学校の卒業生が存在する、と言われているほどです。また、スイスの教育では自主性が重視されるため、起業家やアーティストとして独自のキャリアを築く生徒も多く見られます。
■日本の富裕層に海外の全寮制学校が人気なワケ
海外の全寮制学校についてご紹介してきましたが、特に日本の富裕層は、どのようなところに引かれているのでしょうか。下記3つの点が考えられます。
○1. 高品質な教育と多様な学びの機会による、グローバル社会での競争力強化
海外の全寮制学校では、IB(国際バカロレア)や英国式カリキュラムなど、世界基準の教育プログラムが提供されます。生徒の個性や興味に応じた学びが可能で、アート、スポーツ、リーダーシップ育成など多彩な選択肢が用意されています。特にスイスの学校では、卓越した施設とリソースが、学業と課外活動の両方を支えています。
加えて、国際的な環境下で学ぶことで、英語をはじめとする複数言語の習得や、異文化への理解が深まります。これにより、グローバル社会での競争力を高め、将来的に世界で活躍する人材となる基盤が形成されます。富裕層の家庭では、子どもたちに国際的な視野を持たせたいと考える人が少なくありません。
○2. 人格形成と自立心の育成
親元を離れて生活することで、自立心や自己管理能力が育まれます。全寮制学校は規律やマナー、礼儀を重視するため、将来のビジネスや社交の場で役立つ人格形成が行われます。また、さまざまな国籍や背景を持つ生徒と寝食をともにすることで、協調性やリーダーシップも養われます。
○3. 社会的ステータスの向上
海外の名門全寮制学校への進学は、家族の社会的ステータスを高める側面もあります。これらの学校は多くの場合、王族や著名人の御子息が通うことでも知られており、強力な人脈を築ける場としても注目されています。
このように、スイスをはじめとした海外の全寮制学校への留学は心身ともに大きな成長をうながし、そしてその後の人生についても大きなメリットとなることでしょう。お子様の人生の選択肢の一つとして、頭に入れておいて損はないはずです。
田山貴子 たやまたかこ 「日本の子どもたちに、スイスの教育環境を活用していただきたい」という想いのもと、日本の子どもたちが将来、国際社会の中で、充実した生活を送ることができる成人になるための最適な教育環境を提供するべく、日本とスイスの架け橋をするなど、留学サポート活動を行っている。 https://swiss-ryugaku.com/ https://swiss-ryugaku.com/about-us/ceo-message この著者の記事一覧はこちら(田山貴子)