1月13日、筆者の住む宮崎県宮崎市は、震度5弱の大規模な地震に見舞われた。2024年は1月1日に能登半島大地震が発生しており、イヤな予感を感じた人も多かっただろう。ただ今回の地震は、全国レベルの報道では当日夜は熱心に報じられていたが、人的被害がかなり少なかったことから、翌日からの扱いは小さくなったようだ。
【画像を見る】地震発生時、NHKプラスはログインなしでも視聴できた。普段はメッセージが画面を占拠するが……
実は24年8月8日にも、今回とおなじ日向灘沖を震源とするマグニチュード7.1、宮崎市で震度5強の地震が発生している。5カ月という比較的短いスパンで、震度5を超える地震に遭遇したことになる。
前回は午後4時43分とまだ日があるうちだったが、今回は午後9時19分という夜間である。避難するにしても、困難を伴う時間帯だ。しかも今回は、発生後に情報が二転三転し、正確な情報を把握することが困難だった。
今回の地震の体験から学んだ事を、皆さんに共有しておきたい。
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●判断に迷う時間帯の地震
地震発生時の午後9時頃、筆者の家庭では夕食を終えて1時間ほどが経過しているタイミングで、家族はリビングからそれぞれの部屋へ引き上げていた。筆者も自室の仕事部屋で本日最後のメール確認などをしていたところだったが、突然体に感じる揺れを感じた。
最初は震度2〜3程度の揺れかと思ったのだが、10秒もしないうちに最初の揺れに被さるように大きな揺れが来た。筆者の仕事部屋では、40インチモニターの上に棚を設けて、そこに重要書類などをブックエンドで挟んであるのだが、その書類がバサバサと落ちてきた。24年8月の方が震度は上だったが、書類が落ちてくるようなことはなかった。
キッチンの方では、食器が棚から落ちる音がした。床には滑り止めのためにクッション材が貼ってあるので、割れることはなかったのは幸いであった。これも24年8月の地震では、棚の上でコップなどが転げることはあったが、棚から落ちるようなことはなかった。前回とは揺れの周波数や方向が違うという事だろう。
揺れが最大限に達している真っ最中に、スマートフォンの「緊急地震速報」が鳴り出した。もともとこの速報は、地震の初期微動であるP波を捉え、本震のS波が来る前に警報を鳴らすものである。この警告音を嫌う人も多いが、本震が来る前に身構えることができるという点では、評価できる。だがすでに本震が来て焦っている最中に、被せるようにやかましく警報が鳴ったことで、家族間の声がけが阻害された。
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震源が近い場合、P波とS波の間隔が短いため、警報が鳴った頃にはすでにS波が到着しているということなのだろう。仕組み上仕方がないとはいえ、余計にパニックを引き起こすという逆効果になりかねない。この仕組みは、今のうちになんらかの改善が必要ではないだろうか。
揺れが収まると、次に心配すべきは津波である。筆者宅は海岸線から2km程度しか離れておらず、津波の規模によってはマンションを放棄して避難する必要がある。テレビでは、NHKの対応は相変わらず早かった。早速特別番組に切り替わり、地震直後の気象庁発表では、「マグニチュード6.4、津波の心配なし」と報じられた。
そんな最中、娘のスマートフォンに電話がかかってきた。心配した同級生の誰かが電話をかけてきたようだが、まさに避難すべきかどうか、情報を収集しての判断が迫られる中、こうした個別の安否確認は非常に迷惑だ。その間本人のスマホが使えないし、電話応対する声が邪魔でテレビのアナウンスが聞き取れない。たった1人を安心させるために、家族全員が犠牲になりかねない。
外では、防災無線がなにやらアナウンスしているのが聞こえた。窓を開けて確認しようとしたが、エコーがひどく、またアナウンス音も小さいので、何を言っているのか聞き取ることができなかった。
初期情報を確認した数分後、今度はテレビ報道は「マグニチュード6.9、津波警報発令、津波の高さ1m」に変わった。やっぱり津波は来るらしい。だがこの津波の規模で避難するかは微妙である。さらに続報に注視していると、2分後ぐらいに「すでに津波到達とみられる」との情報が流れた。このとき、時刻は9時40分ごろである。
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津波が来ると情報が変更されて、2〜3分後に到達では、逃げる時間はない。津波が来る、来ないの判断は、マグニチュードによるものらしい。当初発表のM6.4では津波の発生はないという判断だったわけだが、これがM6.9に訂正されたことで津波ありの判断に変わったというわけだ。
テレビが津波警報発令した直後、防災無線はサイレンに変わった。アナウンスと違い、サイレンはエコーがあっても関係ないので、よく聞こえる。だがそれ以前に、このサイレンは津波警報であるという認知がされているのか、という問題がある。筆者はテレビの情報を確認しながらだったので、ああこれは津波警報のサイレンだなと想像できたが、何もメディア情報が得られない状況だったら、何を表しているのか知りようがない。
実際に津波が観測されたのは、宮崎港で午後9時48分、津波の高さは20cmであった。津波の高さは、震源地から海岸線までの距離、海底の地形、沿岸部の地形などに大きく左右される。V字型の海岸線では、海水がどんどん中央に集まってくるので津波も高くなる。幸い日向灘の海岸線は長距離で平たんなので、海水が集まってくる場所はあまりないが、それでも海へ向かって拡がっている河口などはいくつかある。
今回は規模が小さかったので大事には至らなかったが、この公式情報の錯綜は問題だろう。東日本大震災の際、もっとも津波が大きかった福島県相馬市で「9.3m以上」である。また岩手県沿岸部では、津波の高さ自体は岩手県宮古市で「8.5m以上」とされているが、海面から津波が陸地をさかのぼった高さは約40mにも達した。
そう考えると津波は1mでも、海水が陸地を駆け上がるならば、沿岸部では避難に値する。実際津波警報発令後に、沿岸部の集落では車で高台に避難したようである。
都会の人からすれば、車で避難などしたら渋滞に巻き込まれて身動きが取れなくなるとして、まったくナンセンスに思えるかもしれない。実際筆者もそう思っていた。だが世帯数の少ない沿岸部集落部では、交通渋滞が起こるほどの人口がない。加えて抜け道も多い。われわれが想像するよりも混乱や渋滞もなく、無事避難できたようだ。
ただ夜9時過ぎという時間帯では、すでに晩酌してアルコールを摂取している人も多いだろう。それでは車では逃げられない、という状況になる。とはいえ、だ。徒歩での避難では間に合わない、歩行困難な高齢者がいて徒歩避難は不可能な状況において、法を守ってそこで死ぬべきか、という倫理的問題もある。
現行法での解釈では、飲酒運転は「緊急避難」の要件として認められる可能性は非常に低い。
●緊急情報の効果を整理してみると……
緊急情報は、テレビ・ラジオなどの放送メディアや、ネットメディアを通じて送られてくる。複数台のテレビやラジオ、スマホなどを動員して、情報の伝わり方を調べてみた。
テレビはNHKと民放1局が臨時報道番組に切り替わり、入ってくる情報を繰り返し伝えている。この手法は、ライブで番組が動いており、情報が入り次第伝えられるのだという安心感があった。
一方別の民放は、通常番組放送にL字型のデータ放送を組み合わせて、テキストで情報を流していた。だがこのテキスト情報がいつの情報なのか、最新の情報に切り替わるのかといった不安があった。やはりアナウンサーが顔出しで、ライブで止まる事なく、繰り返し情報を伝えていくというのは安心感がある。
ネットの情報は、Xで気象庁などの公式や、民間の地震速報系アカウントが情報を発信している。ただこうした情報は、ある意味公式情報がでない限り更新されない。つまり情報が出てこない間は、沈黙している。これはそのアカウントが活動しているのかが分からず、当事者にとってのライブ性は低い。
スマホの放送サービスである「NHKプラス」は、通常であればログインしないと画面上に大きくWebサイトから登録手続きを促すメッセージが出て、ライブ映像の1/4程度が見られないようになっている。だが緊急放送時には、ログインしなくてもメッセージなしで番組が確認できた。この措置には納得感がある。
津波が到達したとみられる時刻からおよそ20分後、家族のスマートフォンが一斉になり出した。余震がくるのかと緊張しながら確認したところ、Yahoo!が運営する「防災速報」からの津波警報であった。なんと津波到達からかなり遅れて、警報が警報が鳴り出したのである。
アプリを確認すると、一部通知の未配信という通知が出ていた。インターネットの基本はベストエフェートなので、こうした遅延はやむを得ないわけだが、緊急情報においてその即時性は、完全には機能しない可能性があるという事である。このネット中心の時代、テレビなどの放送は何かと批判の対象となるわけだが、こうした緊急対応の即時性においては、放送の強みが発揮されたといえる。
ラジオ放送も、FM局のみであるが確認した。AMラジオは多くの地域で休止が決定しており、今後はあてにできない。NHK FMは臨時放送に切り替わっており、情報を繰り返している。車で移動中の人も、カーラジオがない車というのはあまりないと思われるので、情報から遮断されると言うことはなかっただろう。
一方で常日頃からラジオは緊急時に役に立つとコマーシャルを流していたローカル民放FMは、全国放送を通常通り放送していた。夜9時過ぎゆえに、緊急放送できるスタッフがいないということかもしれない。
NHKをひいきするわけではないが、テレビもラジオもいつでも緊急放送対応できる技術スタッフやアナウンサーを24時間体制で準備しているというのは、もはやNHKしかできないことになりつつある。ネット受信料などで25年はかなり批判されるものと思われるが、地方の隅々まで緊急報道対応が可能という点において、少し加点してもいいのではないだろうか。
防災無線は、筆者の住む地域では機能しなかった。このあたりの防災無線はずいぶん昔に整備されたものなのだろうが、近年都市計画区域に指定されたことから、急速に発展している地域である。昔は一面の田畑で人家もまばらだったが、現在は背の高いマンションや商業施設が建っている。防災無線のスピーカーの配置場所は、現在の建屋の状況を勘案して、再考しなければならないのだろうが、完全に後手に回っている。
●初動は放送→落ち着くにつれてネットがベスト?
防災無線は、地域によっては正午の時報や、夕方の子供達を家に帰すアナウンス、不審者情報や行方不明者情報などをアナウンスしている。これにより正常に動作しているか、聞こえない地域からの苦情がないかなどのフィードバックを得ることができる。一方筆者の地域の防災無線は日常的にそのような放送を行っておらず、まさに死蔵状態にある。
スピーカーが近いところに住む住民からは、うるさいという苦情もあるだろう。そうしたことを勘案すれば、もはやラウドスピーカーでダーッと情報を捲くという方法論が、時代遅れなのかもしれない。今後は防災無線を廃止する代わり、希望世帯に防災ラジオ的なものを配布することも検討されている。
ネットの情報は、マスメディアでは伝えられない細かい情報が得られる点で評価できる。また地震が落ち着いたあとの、アフターケアの情報はなかなかマスメディアでは流れてこないのに対し、ネットにはいくらでもチャンネルがあるので細かいケアができるという強みもある。
ネットと放送、どちらかを盲信するのではなく、災害時の初動は放送メディア、落ち着くにつれてネットメディアといった具合に、われわれもリテラシーを身につけなければならないようだ。
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