【新連載】
南雄太「元日本代表GKが見た一流GKのすごさ」
第3回:シュテファン・オルテガ(ドイツ)
ペップ・グアルディオラ監督の下、プレミアリーグ史上初の4連覇を成し遂げたマンチェスター・シティだが、今シーズンは秋口から予想外の大不振。年明けからは復調しつつあるものの、現状はプレミア5連覇に黄色信号が灯った状態にある。
とりわけ、昨年11月は公式戦5試合で1分4敗。そんななか、グアルディオラ監督は第13節のリヴァプール戦(2024年12月1日)で正GKエデルソンに代えて、それまでセカンドGKとされていたシュテファン・オルテガ(ドイツ)を先発に抜擢した。
以降、これまで不動と見られていた王者マンチェスター・シティ正GKの座は、オルテガの好パフォーマンスもあり、混沌とした状態にある。
2022年の夏に加入して以来、これまでは主にカップ戦要員に甘んじていたオルテガとは、いったいどんなGKなのか。
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現在横浜FCフットボールアカデミーサッカースクールのGKクラスのコーチを務め、流通経済大学付属柏高等学校のGKコーチとしても活躍する南雄太氏に、あらためてオルテガの特徴やテクニックについて聞いてみると、開口一番、次のように話してくれた。
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「技術面の話をする前に強調しておきたいのが、オルテガのメンタルの部分です。
かつて彼は、アルミニア・ビーレフェルトや1860ミュンヘンでキャリアを積み、主に2部リーグで活躍していたGKでした。その実力が認められ、一時はレバークーゼンから引き抜きのオファーもあったそうですが、ビーレフェルトの1部昇格に貢献したいという思いが勝って残留を決断し、しかもその目標を果たしたところが、とても興味深い点です。
同時に、そんな彼のメンタルと実力を見抜き、エデルソンの控えとして獲得したマンチェスター・シティもさすがだと感じます。
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シティのようなビッグクラブとはいえ、これだけの実力者がベンチに座り続けると、本人はストレスや焦りによってメンタルが乱れがちです。しかし、オルテガは決して腐ることなく、常に最善の準備をしてくれる。それをわかっていたからこそ、シティはオルテガを獲得したのだと思います」
【反射でシュートを止める独特の型】
続けて、南氏はオルテガの試合を振り返る。
「実際、それは昨シーズンのプレミアリーグ優勝を決定づけたトッテナム戦(2024年5月15日)でも証明されました。エデルソンの負傷によって途中出場となったオルテガが、ソン・フンミンが迎えた決定機で最高レベルのシュートブロックを見せ、チームの勝利に貢献しました。あれこそが、オルテガの真骨頂と言えるのではないでしょうか。
最近はチームの不振やエデルソンの負傷などで正GKの座を奪いつつありますが、彼のプレーを見ていると、そういったメンタルの強さを抜きに語れないと感じます」
オルテガの持つ特殊なバックグラウンドを説明したうえで、南氏はプレーの特徴とテクニックについての解説を続けた。
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「僕はGKのプレーを『反応』と『反射』のふたつに分けて見ていて、反応とはステップを踏んでからボールを止めるのに対し、自分で面を作ってから守るのが反射としています。来たボールに反応して止めるのではなく、自分の体を止めた状態にして、反射的に体にボールを当ててシュートを止めるイメージと言えば、わかりやすいかもしれません。
まさにソン・フンミンのシュートブロックがその一例ですが、オルテガには反射でシュートを止めるための独自の"型"があって、それが強みになっています」
南氏は「反射」について、さらに説明を加える。
「反射は、自分の体の周辺に来たシュートを止めるための技術になりますが、実はGKにとって、自分の位置から遠いところのシュートを止めるより、近くに来たシュートを止めるほうが難しいんです。しかし、オルテガはそれが優れているので、1対1の局面に滅法強い。
自分で面を作って、適切な間合いを取りながら相手を引き込み、シュートの瞬間に手足を使って面を広げるようにしてブロックします。相手からすれば、シュートしたら急に目の前の壁が大きくなってボールがその壁に当たってしまった、という感覚に陥るのではないでしょうか。
もちろん、あれだけ低く構えて面を広げるためには、反射神経や体の柔軟性が欠かせないので、オルテガにはそういった身体的な資質もあるということでしょう。いずれにしても、この独自の型が、彼の最大の武器と言えます」
【32歳ながら伸びしろも十分にあり】
たしかにオルテガのシュートブロックのシーンをよく見てみると、独特の型を再確認することができる。ストライカーにとっては、あの型を見せられると決定機において大きなプレッシャーを感じるに違いない。
そんなシュートブロックを称賛した南氏だったが、その一方で、オルテガが抱える課題についても指摘してくれた。
「逆に、オルテガがゴールを決められたシーンを分析してみると、ひとつの課題が見えてきました。それは、自分の得意とする型を崩されてしまうと、意外ともろさを露呈してしまうということです。
出場機会を増やすなか、対戦相手のFWがオルテガの型を分析しているのか、その型を作られる前にシュートしたり、タイミングを外すようにシュートしたりするようになっていて、それによって彼がゴールを決められるケースが多くなっています。
実際にそれぞれのFWが分析してそうしているのか、感覚的なところで対応しているのかは聞いてみないとわかりませんが、最近は型を破られるシーンが目立っていることは明らかだと思います。
これまで紹介したマヌエル・ノイアー(第1回)やティボ・クルトワ(第2回)のような、世界のトップ・オブ・トップのGKは型のバリエーションが豊富であることを考えると、そこがオルテガの今後の課題と言えるのかもしれません。
とはいえ、これはかなりハイレベルな話で、現状でもオルテガが屈指のGKであることは間違いありません」
相手に自分の型を見破られつつあるオルテガにとって、現在は成長のための絶好のチャンスだと南氏は語る。32歳のオルテガには、まだ伸びしろも十分に残されているという。
果たして、オルテガは課題を克服して超一流のGKになっていくのか。要注目だ。
(第4回につづく)
【profile】
南雄太(みなみ・ゆうた)
1979年9月30日生まれ、東京都杉並区出身。静岡学園時代に高校選手権で優勝し、1998年に柏レイソルへ加入。柏の守護神として長年ゴールを守り続け、2010年以降はロアッソ熊本→横浜FC→大宮アルディージャと渡り歩いて2023年に現役を引退。1997年と1999年のワールドユースに出場し、2001年にはA代表にも選出。現在は解説業のかたわら、横浜FCのサッカースクールや流通経済大柏高、FCグラシオン東葛でGKコーチを務めている。ポジション=GK。身長185cm。